三原城、隆景の夢 第2話:水軍の都
作者のかつをです。
第十章の第2話をお届けします。
今回は、隆景の壮大な構想が、いかにして瀬戸内の海の猛者たちの心を掴んだのかを描きました。彼の卓越した交渉術とカリスマ性が光ります。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
小早川隆景様の海城築城の構想。
その最初の一手は、瀬戸内海に散らばる毛利水軍の将たちを三原の地に集めることから始まった。
わたくし、吉蔵は主君の命を受け、その調整役に奔走した。
厳島合戦で名を馳せた乃美宗勝殿。
因島村上家の当主、村上吉充殿。
来島村上家の猛将、村上通康殿。
瀬戸内海でその名を知らぬ者はいない.海の荒武者たちが次々と新高山城の広間に集結した。皆、一癖も二癖もありそうな海の匂いがする男たちだ。
「隆景様。我らをお集めになられたご用件とは、一体」
乃美殿が代表して問うた。
隆景様は広げた地図を指さし、静かに語り始めた。
「――皆にはこれより、この三原の地に移り住んでもらいたい」
その一言に、水軍の将たちはどよめいた。
「な……我らが代々守ってきた島を、捨てろと申されるか!」
村上の一族が声を荒らげた。
彼らは海賊衆。特定の主君を持たず、自らの島を拠点としてきた独立心の強い男たちだ。
隆景様は静かに首を振った。
「捨てるのではない。この三原の地に毛利水軍のすべてを集め、一大拠点を築くのじゃ。いわば、水軍の都を創るのじゃ」
隆景様は、その壮大な計画を語り始めた。
沼田川の河口に海城を築き、その周囲に巨大な港を作る。
数百隻の軍船が停泊でき、修繕や補給も行える一大軍港。
そして城の周囲には、水軍の兵たちの家族が暮らすための町を作る。
「今は皆、それぞれの島に分かれておる。それではいざという時、迅速に動くことはできぬ。だが、この三原にすべてが集結すれば、瀬戸内のいかなる場所へもすぐさま駆けつけることができる。瀬戸内の制海権は、完全に我らのものとなろう」
水軍の将たちは最初は半信半疑だったが、隆景様の熱弁を聞くうちに、その目が次第に輝きを増していくのがわかった。
彼らもまた海の男。
この構想がいかに画期的で、そして強力なものであるかすぐに理解したのだ。
「……見事なお考え。さすがは元就様のご子息じゃ」
乃美殿が感嘆の声を漏らした。
「この乃美宗勝、隆景様の夢に乗らせていただきまする!」
乃美殿が頭を下げると、村上の一族もそれに続いた。
こうして瀬戸内最強の水軍は、小早川隆景という稀代の知将の元に一つにまとまった。
わたくしは、その歴史的な瞬間に立ち会いながら、これから始まる途方もない大事業を思い、身が引き締まる思いだった。
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軍事的な拠点としてだけでなく、そこに住む人々の暮らしまでを考えた一大都市計画。隆景の政治家としての才能が窺えます。
さて、水軍衆をまとめ上げた隆景。次なる彼の課題は、前代未聞の難工事を成し遂げるための職人たちを集めることでした。
次回、「石工と船大工」。
名もなき職人たちの誇りを懸けた挑戦が始まります。
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