大場山城、備後の誇り 第2話:毛利の圧迫
作者のかつをです。
第九章の第2話をお届けします。
今回は、若き知将、小早川隆景が登場し、主人公、景盛に運命の選択を迫ります。城内の家臣たちの意見も割れ、景盛の苦悩が深まっていきます。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
わたくし、宮景盛が覚悟を決めてから数日後。
ついに、その日はやってきた。
毛利からの使者が、大場山城に到着したのだ。
使者としてやってきたのは、意外な人物だった。
毛利元就の三男にして、今は小早川家を継いでいる小早川隆景。まだ二十代の若者のはずだが、その佇まいにはすでに百戦錬磨の将の風格が漂っていた。
広間で対峙する、わたくしと隆景。
年の頃はさほど変わらぬはずなのに、その器の大きさは比べるべくもなかった。
「宮殿。単刀直入に申し上げまする」
隆景は静かに、しかし有無を言わせぬ響きで言った。
「我ら毛利に降られよ。さすれば、貴殿の身分も領地も安堵いたす。毛利の一門として迎え入れましょう」
その言葉は一見、寛大な申し出に聞こえた。
だが、それは事実上の最後通告だった。
わたくしは静かに問い返した。
「……もし、否、と申したら」
隆景は表情一つ変えなかった。
「その時は、力をもってこの城を攻め落とすまで。我が父、元就は毛利に仇なす者を、決して許しはしませぬ」
その若さには不似合いなほどの、冷たい眼差し。
わたくしはその奥に、謀神、元就の巨大な影を見た。
軍議は荒れた。
「殿! ここは隆景殿の申し出を受けるべきです! 毛利と戦って勝ち目はございません!」
降伏派の家臣たちが必死に訴える。
「何を言うか! 我ら宮家の誇りを忘れたか! 毛利の軍門に下るなど末代までの恥!」
抗戦派の若武者たちがそれに噛みつく。
城内は真っ二つに割れた。
わたくしはただ黙って、その議論を聞いていた。
どちらの言い分もわかる。
家を守りたいという気持ちは、皆同じなのだ。
だが、決断を下さねばならないのは、このわたくし。
夜、わたくしは一人、城の物見櫓に登った。
麓には小早川の軍勢がすでに陣を敷き始めていた。その篝火の数は、我らの兵の十倍はあるだろう。
わたくしは天を仰いだ。
亡き父上。
わたくしは、どうすればよろしいのですか。
誇りを取るべきか。
それとも実利を取るべきか。
答えは出なかった。
ただ、冷たい夜風がわたくしの頬を撫でていくだけだった。
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圧倒的な兵力差を背景に降伏を迫る隆景。彼の冷静な交渉術が光ります。
さて、城内の意見もまとまらぬまま、景盛は決断の時を迫られます。
次回、「降伏勧告」。
隆景から非情な最後通告が突きつけられます。
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