大場山城、備後の誇り 第1話:備後の雄
作者のかつをです。
本日より、第九章「最後の抵抗 ~大場山城、備後の誇り~」の連載を開始します。
毛利の巨大な力の前に、最後まで屈することなく誇りを守るために戦い、散っていった備後国の国人、宮氏の壮絶な物語です。主人公は、その当主、宮景盛です。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
広島県福山市、神辺の地を見下ろすようにして、大場山は静かにそびえている。今では木々に覆われ訪れる者も少ないこの山頂に、かつて巨大な勢力に屈することなく己の誇りを懸けて戦い、そして散っていった一族の城があった。
その名を、大場山城。
これは、中国地方の覇者となった毛利に最後まで抵抗を続けた、備後国の誇り高き国人、宮一族の壮絶にして悲しき物語である。
◇
永禄七年(一五六四年)、秋。
わたくし、宮景盛は、大場山城の本丸から黄金色に染まる領地を静かに見下ろしていた。
眼下には芦田川がゆったりと流れ、その流域には豊かな田畑が広がっている。わたくしの一族が何代にもわたって守り抜いてきた、かけがえのない土地だ。
「殿、今年の米も見事な出来栄えにございますな」
傍らに控える老臣の渋川治部が、満足げに目を細める。
「うむ。すべては民の勤勉の賜物よ」
わたくしは頷きながらも、その心は晴れなかった。
備後国は今、大きな嵐の前夜にあった。
西からは、厳島で陶を破り中国地方の覇者へと駆け上がった毛利元就の威光が日増しに強まっている。
備後の国人領主たちは雪崩を打ったように、次々と毛利に臣従を誓っていた。
もはやこの備後国で毛利に与せぬ者は、我ら宮一族とあと数えるほどしか残っていない。
「治部。毛利からの使者は、まだ来ぬか」
「……はっ。今のところは。じゃが、それも時間の問題かと」
わかっている。
いずれ毛利は、我らに選択を迫ってくるだろう。
降伏し軍門に下るか。
それとも戦って、滅びるか。
わたくしは迷っていた。
我ら宮氏は、古くからこの備後の地を治めてきた誇り高き一族。ぽっと出の安芸の成り上がりの下につくなど、断じて許されぬ。
だが、圧倒的な兵力差。戦になれば勝ち目がないことは、火を見るよりも明らかだった。
わたくし一人の誇りのために、長年仕えてくれた家臣たち、そして罪のない領民たちを死なせるわけにはいかない。
「……殿。いざとなれば、この大場山城がございます。この城は亡き先代様が心血を注いで築かれた天下の堅城。そう易々と落ちることはございませぬ」
治部の力強い言葉が、わたくしの迷いを見透かしたかのように響いた。
そうだ。
わたくしは一人ではない。
この城がある。
そして、わたくしを信じついてきてくれる家臣たちがいる。
わたくしは静かに拳を握りしめた。
備後の雄としての誇り。
それは決して、誰にも譲ることはできない。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第九章、第一話いかがでしたでしょうか。
巨大な勢力に飲み込まれていく地方の小領主。彼の誇りと現実の狭間での葛藤が、この物語のテーマとなります。
さて、彼の覚悟を試すかのように、ついに毛利からの使者がやってきます。
次回、「毛利の圧迫」。
若き知将、小早川隆景が景盛に選択を迫ります。
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