学園18
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「着いた……着いたからリナ、リナ!!」
先に体育館を出ていったツバメ組の三人は、既にシミュレータ室の前まで来ていたが、小此木の叫びはまだ続いていた。
もちろん、小此木も途中で振り払おうと必死に頑張ったが、
「貧!!」
「うわあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
火に油、貧乳に脂を注ぐマネしかしていなかった。
そんな事しかしないのに、何とか胸を引き千切られなかったのは、彼の日頃の行いが素晴らしいから……
「胸がぁぁぁ……」
……日頃の行いが素晴らしいなら、こんな悲痛な声を漏らしたりはしないだろう。
「そろそろかな」
小此木の衰えた声を聞いて限界と悟ったのか、ツバメは小此木から手を離し、興奮しているリナの後ろに回って、
「もう、大丈夫だよ」
手で目を覆い隠しながら優しく声を掛ける。
「ふぎゃぁぁぁあああ……あれっ?」
すると、さっきまで獰猛に胸を掴んで、泣き叫んでいたリナは急に叫ぶのを止めて、落ち着いた雰囲気に戻った。
「リナ~~手ぇ離して~~」
興奮の収まった姿に、小此木は一安心して間延びした声で、リナに声を掛けるが、リナはまだ小此木の事を睨み付ける。
理性が戻っても、小此木が言った事は許せないらしく、リナの手は小此木の胸をしっかりと掴む。
「リナ、離してあげて」
「悪いんだ……」
ツバメからもう一度、手を離しなさいと言われて、リナが口を開いたかと思うと、
「先にやったのは、ツバメだからね」
「きゃいん!!!?」
そう言って、ツバメが自分の頬っぺたにしたように頬をつねり、そこにアレンジを加えて、引っ張って小此木の胸を解放してやる。
リナの魔の手から解放された小此木は、解放された胸を片腕で隠し、もう片方の腕で顔を隠して地面に崩れると、平安時代の人のようにヨヨヨッっと泣き、
「妾の貞操が……」
ま~た、意味の分からない事を言っていた。
本人にとって渾身のギャクかは分からないが、リナは小此木の行為をとにかく無視して、シミュレータ室のドアを見て、
「今年は、私達が用意したんだよ」
ツバメも、いまだに突っ込まれるのを待っている、ヨヨヨッっと泣いている小此木に、突っ込みの代わりに頭を軽く撫でてあげながら、目の端でドアを見る。
その二人に注目されているドアの周りはデコレーションが施され、キラキラと光るライトと、ギラギラと光る飾り紙が多彩な色を作り出し、
『ようこそ新入生、プレゼント会場にようこそ』
ドアの上には、色とりどりの文字で書かれた横断幕が掲げられていた。