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黒鉄【ゼロ】から始める錬金術  作者: 柳生雨月
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第三章 炎竜

錬金術の誕生。即ち第八魔法「複製」から派生した「錬成」の誕生...その百年後から、錬金術師たちは忌み嫌われる存在となった。それが知っていながら俺が錬金術師になったのには深い意味がある。

それが他人には理解できないものだったとしても、俺にとってはこの命と同価値だ。

この命あるのは、その願い故なんだからな。


俺は、恐らく持てる最強の剣を錬成した。

錬金術師が錬成できるのは自身がその構成を理解できるもののみだ。例えば、鉄から金を錬成するならその構成を入れ換えればいい。それに対して、素材が分からないものを錬成するときには、一度その構成を「解析」しないといけない。解析自体は簡単な作業だが、巨大なものを解析するとなれば話は別だ。

その物体に意識を向けることで錬金術師と一部の魔導士は「解析」することができるが、これは全部分に意識を向ける必要があるため、大きなものになればなるほどその解析は困難になる。

つまり、これだけ切羽詰まった状態では、相手の骨や鎧を断ち切れる素材が何なのかを調べられないというわけで、つまりは最強の剣を作るのが現状では最善の策だと考えたわけだ。

が、その剣ですら竜の攻撃を防ぐことしかできないらしい。俺が剣を振るたびに、俺の両腕が悲鳴を上げる。

傭兵とはいえ、基本的に銃撃と錬成した武具を投擲して戦っているために、筋力はそこまで高くない。

バックステップして、剣を構え直した。

強い一撃で鱗の隙間を狙おう。思った瞬間、加速の間を得た炎竜が高速で突っ込んでくる。

剣士ではない俺には、こんな速度で接近する奴の弱点を狙い打つことは出来ないだろう。

悪足掻きかもしれないが、後ろに飛んで炎竜の追突の衝撃を受け流す。俺は無傷だったが、炎竜の追突を受けた剣が限界を超えたらしく砕け散ってしまった。

勝利を確信した炎竜は、俺の前方の空高くに登り、俺に一度目を合わせて睨むと、消えた。

空気が震え、まるで天と地を分かつように、地上すれすれを滑空する。つまり俺に翼を直撃させて殺そうとしているのだろう。けれど、俺が死を覚悟した瞬間、唐突に空気が逆流した。

俺に対して向かい風だったにも関わらず、俺は突然背中を風に押される。翼が直撃する直前に、翼の付け根から血が吹き出る。血を流した右翼は、炎竜の胴体から離れて俺の足元に落ちた。

一体何が起きたんだ...?辺りを見回せば、俺の斜め前に剣を振り下ろした姿の少女がいて、少女は振り向いて俺を睨み付けた。何故お前がここに...?俺は見覚えのあるその姿に目を疑った。

いや、それよりも、その手に持っている血が付いた剣が気になる。信じられないが、あいつが炎竜の右翼を切り落として俺を助けたとしか思えない。

「アストリア!なんでお前がここにいる!逃げろって言われてただろ!」

「なんで防御区画に行かなかった!死にたいの!?」

アストリアは質問に答えず、俺を非難した。

「いや、なんとなく...」

理由などない...だからこそ、返す言葉がない俺は身振り手振りで経緯を説明した。

「つまり、なんか面白そうだから行ってみよう的考えで来たってことだね?」

おお、通じたみたいだ。俺が安心していると、アストリアはきつく言い放った。

「そんなの、バカでも判断できることだよ。自分から死にに行くなんて意味が分からない。実際、僕が居なきゃ今頃君は死んでいるだろうし」

ごもっとも。俺は今度こそ本当に返す言葉が無くなって、頭を掻く。

「別に君が悪いと言っているわけじゃないんだよ?はあ...ただ、逃げてくれればこんな危険なことにならずに済んだのに、って...っ。思っただけ」

アストリアは、少し頬を赤らめ、肩を上下しながら言った。きっと、先ほどの斬撃で息が上がっているのだろう。

「で、どうすりゃいいんだ?あいつ。お前が翼ぶった切ってくれたおかげで飛べないみたいだが」

俺は、三階建ての建物に乗って俺達を睨んでいる。

「いや、あと数分で飛べるようになるだろうね。あれの再生能力は伊達じゃない」

マジかよ。本気で生きて帰れる気がしねえ。もっとも、最初から死ぬかもしれないとは思っていたが。それでも、確実に持久戦に持ち込まれたら負けるのは明らかだった。

「どうにかして僕があれの首を切り落とす。ただ、目を潰してもらわないと動きが速すぎて近づけそうにないかな。それに、僕はさっきので左腕の骨が折れてるだろうから。別に切れないわけじゃないけど」

「そういうことなら、俺が目を潰せばいいってことだな?」

俺は、猟奇的に、ニヤっと笑って見せた。

「お前、錬金術師ってどう思う?」

俺が尋ねると、アストリアはきょとんとした顔でどうしたの?と言った。

「俺はな、錬金術師なんだ」

「君が?錬金術師ってもっと陰湿な人だと思ってた。別に嫌いじゃないけど」

「そりゃよかった...というか、俺だって十分陰湿だぞ?」

「そうかなぁ?どれくらい?」

「魔術師くらいか?」

俺が答えると、アストリアは困ったような顔をした。

「その例え、よく分からないよ。陰湿な魔術師を知らないからね」

「俺の知ってる魔術師なんてみんなクソみたいな奴ばっかりだぞ」

俺は、そんなことを言いながら、道端に落ちていた石を幾つか手に取った。

無意識に石を拾ったが、さっき剣を錬成するときにコートを使ったのは、石を拾っている暇がなかったからだ。

「つまり君はクソみたいな錬金術師なわけだ」

なんてこと言うんだこいつは。否定できないのが悔しいな。

「じゃあ今からこの炎竜はクソみたいな錬金術師に目ん玉潰されるのか」

「そうみたいだね。まったくもって惨めだよ」

俺とアストリアは、必死に笑いを堪えつつ、目配せする。そして、俺は手の中の石を転がし、宙に投げた。

そして、宙に浮かんだ石に意識を集中させ、過去に見た剣をイメージする。体の中を流れる血液が加速するこの嫌悪感。これにも随分と慣れたものだ。そして、錬成する。

石は加速度を失って落下する直前、それぞれが剣となり落下を拒んだ。それらに向けていた意識を右手の人さし指に向ける。そして、人さし指をついと上げ、炎竜の両目を指したあと、斜めに降ろす。剣は竜の両目へと真っすぐ飛んでいき、両目を剣でズタズタにされた炎竜は空気をびりびりと震わせながら吠えた。

「じゃあ後は頼んだぞ」

俺が言うと、アストリアは頷いて、駆けていった。地面を蹴り、二階建ての建物のちょっとした段差に足を掛けてしゃがみこんだと思うと、次の瞬間一気に炎竜の左翼に飛び乗った。そして、体を前に倒し、着地の勢いで曲げた膝を伸ばす力で、炎竜の首に突っ込む。

直前で着地したアストリアは、勢いで右手を振り、炎竜の首筋に向けて剣を叩きつける。

アストリアの想像を超えた戦闘力に勝利は確実と思った瞬間、首筋に当たった剣が折れて真っ二つになった。

アストリアは、舌打ちして炎竜かの左翼から飛び降りて、形勢を立て直そうとする。

だが、炎竜は片目の治癒を優先したらしく、視力を回復した炎竜の左翼に叩き飛ばされ、先ほど足場にした建物に背中から突っ込んだ。内臓をやられたのか、口から血を吐いて、地面に倒れ込む。

「アストリア!大丈夫かっ!?」

俺が駆け寄ろうとすると、炎竜が口から火を吹いて俺を足止めした。そして、右翼が再生した炎竜は、飛び去って行ってしまった。俺は、思わずため息を吐いた。

「これじゃあ本当に惨めなのはどっちだよ...。生きてりゃいいが」

それから数分、炎竜に焼かれた地面は燃え続け、俺がアストリアに駆け寄ったのはそのあとだ。

きっと、俺が防御区画から出てきた人々に混じって、まるで今見つけたかのようにして救ってやったのを、アストリアは恐らく死んで生まれ変わっても知らないだろう。


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