EP 10
仁義なき女子会(inルナキン)と不憫なスパダリ公爵。極道の絆は甘く、そして塩っぱいんじゃ!
古代大戦の殺戮兵器『死蟷螂機』が完全爆散し、ポポロ村の空に再び青空が戻ってきた。
強欲な悪徳商人ザルドの無惨な死体と、化け物のスクラップの山は、村の自警団とドンガン地下帝国の裏ルートを通じて、あっという間に綺麗に清掃された。
村を救ったウチら『最凶ファミリー』と、雷神の如き一撃を放ったキャルルは、村人たちから割れんばかりの歓声と拍手をもって迎えられた。
「村長! ハルコさん! カレンちゃん! 本当に、本当にありがとうございました!」
「あんたたちはポポロ村の英雄だ! いつでも村に遊びに来てくれよな!」
涙を流して感謝する農家のおじちゃんやおばちゃんたちに、キャルルは「ふふっ、みんなが無事でよかった!」と満面の笑みで応えていた。
王国のしがらみも、三ヵ国のドロドロした利権も関係ない。ここは、彼女が自分の足で立ち、自分の力で守り抜いた大切な『シマ』なのだ。
一通りの事後処理と歓喜のパレードを終え、ウチらが向かったのは……もちろん、メインストリートに鎮座する24時間営業のファミレス『ルナキン』である。
「はい、お待たせいたしました! 『太陽芋のメガ盛りフライドポテト』と、『ハニーかぼちゃと完熟メロロンの特大スペシャルパフェ』になります!」
ウェイトレスのお姉さんが、テーブルに乗り切らないほどの巨大なスイーツと山盛りのポテトをドスンドスンと置いていく。
「ヒュー!! アネさん、キャルル! 待ちに待った打ち上げ(女子会)じゃあ!!」
カレンが目を輝かせ、両手にスプーンとフォークを構えて歓喜の雄叫びを上げた。
「おう、今日はいっぱい動いて腹も減っとるじゃろ。遠慮せんと好きなだけ食えや。……おどれのシマ(村)の平和と、ウチらの極道の絆に!」
「うんっ! 二人とも、今日は本当にありがとう……乾杯っ!」
カチンッ! と、グラスが賑やかに打ち鳴らされる。
王宮の窮屈な夜会では絶対に味わえない、油と砂糖と笑い声に満ちた最高の空間。
キャルルは特大パフェにスプーンを突っ込み、完熟メロロンの果肉を頬張って「ん〜っ! 幸せぇっ!」とウサギの耳をパタパタと揺らしている。
「ハルコちゃん、さっきの合気道、すっごくかっこよかった! あのザルドが大空に飛んでいった時、胸がスカッとしたよ!」
「アホ、おどれの最後の飛び蹴りの方が百倍派手じゃったわ。音速超えとったぞ。あの古代兵器の装甲、紙クズみたいにひしゃげとったしな」
「あはは、雷竜石の出力を全開にしたからね。でも、ハルコちゃんがトカレフで動きを止めてくれなかったら、絶対に当たらなかった。……二人で勝ち取った勝利だよ」
キャルルが、少しだけ照れくさそうに、けれど心底嬉しそうにウチを見る。
一人で全てを背負い込み、自己犠牲で村を守ろうとしていた彼女の瞳には、もう微塵の孤独も悲壮感もなかった。ダチと背中を預け合い、共に笑い合える強さを、彼女は確かに手に入れたのだ。
「ヒュー! アネさんとキャルルの連携、最高に熱かったで! ウチも次はもっと派手にぶっ放したるわ!」
カレンがメガ盛りポテトを掃除機のような勢いで吸い込みながら豪快に笑う。
女三人、気兼ねなくバカ笑いしながらパフェを突っつくこの時間。前世で極道として血生臭い世界を生きてきたウチにとって、それは何よりも得難い、眩しすぎる『普通の女の子』の日常だった。
――カランコロン。
その時、ルナキンの入り口のドアチャイムが、やけに澄んだ音で鳴り響いた。
「…………」
店内の空気が、一瞬にして凍りついた。
いや、物理的に温度が下がったのだ。ファミレスの喧騒がピタリと止まり、客も店員も、入り口に現れた『その人物』を見て、息を呑んで硬直している。
「……やあ。私の愛しき妻よ。そして、その美しき友人たち」
最高級の漆黒のフロックコートに身を包み、背後にキラキラと幻覚のような薔薇のオーラ(※高密度の魔力)を背負った男――ユリウス・ヴァン・オブシディアンが、優雅な足取りで店内へと足を踏み入れてきた。
王国の裏社会を牛耳る冷酷公爵が、大衆ファミレスの安っぽい蛍光灯の下にいるというだけで、空間がバグったような異常な威圧感がある。
「ハルコ。君たちの見事な勝利と、その気高き友情の門出を祝おう。……受け取ってくれ、君の美しさには到底及ばないが、王都から取り寄せた最高級の『星屑の薔薇』だ」
ユリウスは、ウチらのボックス席の横に恭しく片膝をつき、両手で抱えきれないほどの巨大で美しい花束をウチに向けて差し出した。
周囲の客たちが「な、なんだあのイケメン……」「プロポーズか!?」とざわつき始める。
だが。
「……おう、ユリウス」
ウチは、アイスコーヒーのストローを咥えたまま、一切の感情を排した冷たい視線(ジト目)で彼を見下ろした。
「悪いんじゃが、今ウチらは『女同士』で打ち上げ(女子会)をして盛り上がっとる真っ最中なんじゃ。……おどれの入り込む隙間は、一ミリもないで」
「えっ」
ユリウスの甘い微笑みが、ピタリと固まる。
「そ、そんな……ハルコ、私はただ、君たちの勝利を共に喜びたくて……」
「空気を読めや。パフェ食うとるテーブルに、そがいなデカい花束置かれたら邪魔でしょうがなかろうが。男はすっこんどれ」
ウチの容赦のない【塩対応】に、ユリウスの肩がビクッと跳ねる。
すかさず、隣でポテトを齧っていたカレンが追撃をかけた。
「せやせや! ユリウスの旦那、今はウチら『最凶ファミリー女子部』のシノギの時間や! 男は邪魔やで!」
「ふふっ、ごめんなさい公爵様。今日のハルコちゃんは、私とカレンちゃんで貸し切りですから!」
キャルルまでウサギの耳を揺らしながら、ウチの腕にギュッと抱きついて挑発するように笑いかけた。
最強の極道令嬢、神獣、雷神の月兎。
この三人の女たちが強固なスクラムを組んだ『女子会の結界』の前に、王国の裏社会を支配する男の入り込む余地など、ミジンコほども存在しなかった。
「あ、ああ……っ、そんな……私のハルコが、私以外の者たちと、そんなにも楽しそうに……っ」
ユリウスが、花束を抱えたまま、この世の終わりのような絶望の表情を浮かべる。
ウチはシッシッと犬を追い払うように手を振った。
「分かったら、そこの『タローマート』でアイスでも買うて、大人しく家で食うとれ。ウチらは朝まで語り明かすけえな」
「ハルコォォォ……ッ!!」
泣きそうな顔でウチの名を呼ぶユリウス。
だが、ウチがフイッと顔を背けてカレンのポテトを横取りし始めると、彼はそれ以上踏み込むことができず、肩をガックリと落として立ち上がった。
ウチの『極道のスジ(女同士の時間は邪魔しない)』を、彼なりに尊重しているからこそ、強引にウチを連れ帰るようなことは絶対にしないのだ。
「……い、いらっしゃいませ。あの、一名様、でしょうか……?」
店内の空気に耐えきれなくなった若葉マークのウェイトレスが、震える声でユリウスに声をかける。
「……ああ。あそこの、一番隅の席を頼む」
「か、かしこまりました! ご注文は……?」
「……メロンソーダを、一つ」
王国の歴史上、最も恐れられる冷酷無比なオブシディアン公爵。
そんな彼が、大衆ファミレスの隅っこのテーブルに一人ポツンと座り、ストローで緑色のメロンソーダを啜るという、あまりにも不憫でシュールな光景が完成してしまった。
「ぷっ……あははははっ! アネさん、旦那めちゃくちゃ落ち込んどるで!」
カレンが腹を抱えて笑い転げる。
「公爵様、なんだかちょっと可哀想かも……ふふっ、でも、あんなに強い人が、ハルコちゃんにだけは全然頭が上がらないんだね。本当に、すっごく愛されてるよ」
キャルルがクスッと笑いながら、メロンソーダを飲むユリウスをチラリと見た。
隅の席のユリウスは、ウチらからは見えないと思っていたのか、一人でブツブツと何かを呟いていた。
「……冷たい。私を容赦なくあしらい、友人たちと笑い合うあの無邪気な横顔……ああ、なんて美しいんだ。冷たくされればされるほど、私の心は君に惹かれていく……。私の妻は、今日も世界一可愛い……ッ」
(……全部聞こえとるわ、あのド変態スパダリが)
ウチは内心で呆れながらも、ストローの先で思わずクスッと吹き出してしまった。
ホンマに、救いようのないアホじゃ。
でもまあ、ウチが自由に暴れられるように裏で完璧なシノギ(外堀埋め)をしてくれたことには、少しだけ感謝してやらんでもない。
「よし! キャルル、カレン! パフェ食い終わったら、次はカラオケでも行くか! 朝までぶっ倒れるまで歌うで!」
「おおーっ! 行くでアネさん!」
「うんっ! 私、ポポロ村の案内なら任せて!」
王都のしがらみを離れ、このカオスで活気に満ちたポポロ村で手に入れた、最強の『ダチ』との絆。
仁義なき女子会は、まだまだ終わらない。
隅の席でメロンソーダを啜りながら熱い視線を送ってくる不憫な夫を放置したまま、極道令嬢の痛快で容赦のない、そして誰よりも愛される異世界無双ライフは、さらなる高みへと突き進んでいくのだった。
(第二章 完)
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