15-19 めでたしめでたし
『干し草の宿』の女将さんに村のことを聞いてみようとフロントへ向かったゴローたちだったが、そこには思いがけない先客がいた。
「あ、来た来た」
「おねーちゃん、おにーちゃん!」
村の子供たちである。
「あ」
「さっき、あとで行くって言ってたもんな……」
「たびのおはなしきかせてー」
「あ、ああ……」
宣言通りにちゃんとやって来たのである。
「おやおや、人気者だねえ」
女将さんはそんなゴローたちの様子を笑って見ている。
「お話するんなら裏庭のテーブルと椅子を使っていいよ」
「ありがとー、ランおばちゃん!」
「おばちゃん、ありがとう!」
「……すみません」
子供たちは元気よく、ゴローは少し済まなそうに礼を言って裏庭へ。
そこには、少し伸びた芝生の上に、大きめの丸いテーブルと、丸太を輪切りにして作ったスツールが6個ほど。
ゴローたち3人と子供たち4人では1人あぶれてしまう。
「アーレンとサナが使っていいよ。俺は立ってるから」
「そうはいかないでしょう……」
とアーレンは言い、それでは申し訳ないと椅子の代わりを探す。
すると子供の1人が、
「あたし、おねーちゃんのここでいい」
と言ってサナの膝の上に座ったのである。
「あー、アンネ、いいなー」
「いちばんちいさいのがアンネだからな」
4人の中で一番年上に見える子がそう言った。
「えへへ、いいでしょ」
「まあいいや。……おねーちゃん、いい?」
「うん、いいよ」
サナにとって、20キムもないような子供の体重は全く気にならない。
それよりも、自分に寄ってきた子供の反応が物珍しいとサナは思っていたりする。
とにかくこれで、丸太の椅子と人数に釣り合いが取れた。
「おにーちゃんおねーちゃん、おれ、ビリーっていうんだ」
一番年上の子が名乗ると、次々に他の子たちも名乗りを上げる。
「ぼく、ボギー」
「ぼくは、ロイ、です」
「あたしはね、アンネ、っていうの!」
そうなるとゴローたちも名乗らないわけには行かない。
「俺はゴローだよ」
「僕はアーレン」
「私は、サナ」
「ゴローにーちゃん、アーレンにーちゃん、サナねーちゃんだな!」
腕白っぽいビリーが、覚えましたとばかりに声を上げた。
「で、たびのはなし、きかせてくれるんだろ?」
ビリーはアーレンに迫る。一番話し掛けやすかったのだろう。
「……君たちがせがんだんだけどね」
「はーやーくー」
「……聞いちゃいないな」
あきらめてアーレンは話してやることにした。
「……僕らは東から来たんだ。ずっと遠くさ」
「ひがしって、ストーイむらから?」
「いや、もっとずっとずっと、東。歩くと何日も掛かるほど遠く」
「へーえ」
実際には何日どころか何十日、いや百何十日も掛かる可能性がある。
「もりがあるの?」
「かわは?」
「あぶなくない?」
等々、たくさんの質問が飛び出してくるが、アーレンはなんとか話を終えた。
「……というわけさ」
「ふーん」
ほっとしたのもつかの間、子供たちの口からは次なる要望が飛び出してくる。
「ねえ、もっとおもしろいはなしはないの?」
「あ、ぼくもききたい!」
「あたしも!」
「……ぼくも」
「えーっと………………ゴローさん……」
縋るような目でアーレンに見られたゴローは、やむなく口を開く。
「あー……えっと、遠くの国で聞いた物語なら少し話してやれるけどな」
「あ、ききたいききたい!」
「おにーちゃん、きかせて!」
「わかったわかった。……えーと……とある村に、優しいおじいさんとおばあさんが住んでいたんだ」
ゴローは語り始めた。
「……2人には子供がいなかったんで、白い犬を飼って可愛がっていた」
「いぬのなまえは?」
「えーと……ポチ、っていったかな」
「へんななまえー」
「まあ、遠くの国だからな。……で、ある日、ポチが裏の畑で鳴いているんだ」
「どうしたんだろう?」
「あやしいひとでもいたのかな?」
「ポチは地面を引っかきながら鳴いているので、おじいさんはどうやらそこを掘れと言ってるんじゃないか、と察したんだな」
「ほってみたんだね?」
「深く掘ってみると、昔のお金がたくさん出てきたんだよ」
「へー」
「それで、おじいさんとおばあさんはお金持ちになったんだ」
元ネタはもちろんあの昔話である。
それにちょっとアレンジを加え、子供たちに話して聞かせるゴロー。
「だけど、隣に住んでいる意地悪なおじいさんが、その話を聞いて、自分もお宝を見つけたいと思ったんだな」
「よくばりだねー」
「ねー」
「意地悪なおじいさんは優しいおじいさんに頼んで、1日だけポチを借りてきたんだよ」
「それでそれで?」
「意地悪なおじいさんは、自分の畑にポチを連れて行って、さあ、お宝のありかを教えろ、と言って鍬を振り上げて脅したんだ」
「わあ、やなおじいさんだー」
「ポチは畑の隅っこへ行ってそこを引っかいた。意地悪なおじいさんはすぐにそこを掘り返す。すると……」
「なにがでてきたのかな?」
「おたからじゃないよね?」
「壊れたものや腐ったものが出てきたんだよ」
「やっぱりー」
「でもそれで怒った意地悪なおじいさんはポチを鍬で殴ってしまったんだ」
「かわいそう……」
「ポチは倒れてしまった。意地悪なおじいさんは優しいおじいさんに、お宝じゃなくがらくたのありかしか教えないのでお仕置きした、といってポチを返した」
「ひどいなー」
「優しいおじいさんはポチを連れ帰って看病したんだ」
「なおったの?」
「うん、治ったんだ」
「よかった……」
「だけど以前ほど元気じゃなくなってね。庭で日向ぼっこばかりするようになっちゃったんだよ」
「そうなんだ……」
「で、その時ポチを繋いでいた庭の木が大きくなって、ある時大風で倒れてしまったんだ。優しいおじいさんはその木で臼を作ったんだとさ」
臼というのは穀物を搗いて粉にしたり練ったりする道具だよと、ゴローは補足する。
「で、優しいおじいさんがその臼で穀物を搗いたら、穀物がみんな金の粒に変わったんだって」
「へえ……」
「れんきんじゅつ?」
「さて、真相はわからないけどね。……それを聞いた隣の意地悪なおじいさんは、頼み込んで臼を借りてきたんだよ」
「かさなきゃいいのに」
「優しいおじいさんは断りきれなかったんだろうね。……で、意地悪なおじいさんがその臼で穀物を搗くと、金の粒どころかゴミに変わってしまったそうだよ」
「やっぱり」
「あたりまえだよね」
「で、意地悪なおじいさんは怒って、臼を叩き割って燃やしてしまったんだ」
「ひどい!」
「優しいおじいさんはそれを聞くと、せめて灰だけでもといって引き取ってきたんだ」
「やさしいね」
「はいだってひりょうになるもんね」
田舎の子供らしい感想も出てきた。
「ところが、急に風が吹いて、その灰を巻き上げたんだよ。すると……」
「どうなったの?」
「道端に枯れ木が何本もあったんだけど、灰が掛かると、なんと花を咲かせたんだ」
「すごい!」
「せーれーのしゅくふくかな?」
「そこに領主様がお供を連れて通りかかったんだけど、枯れ木に花が咲いたのを見てお喜びになったんだよ」
「そうだよね」
「びっくりするよね」
「あっぱれ、『国一番の花咲か爺』と褒めてくださってね。ご褒美までいただいたんだ」
「よかったねー」
「それを見ていた意地悪なおじいさんは、残っていた灰をかき集め、領主様一行が戻ってくるのを待ち構えていたんだよ」
「まねっこだね」
「そして『花咲か爺、枯れ木に花を咲かせましょう』と言って灰をまき散らしたんだ」
「うまくいくはずないよねー」
「そうしたら、花が咲くどころか灰が領主様やお供の方の目に入ってしまい、この偽物め、とお叱りを受け、牢屋に繋がれてしまったというんだ。……優しいおじいさんとおばあさんは、たくさんのお宝を手に入れていたので、ポチと一緒に一生裕福に暮らしたとさ」
「よかったー」
「めでたしめでたし。……どうだ、面白かったかい?」
「おもしろかったー」
「ゴローにーちゃん、ありがとう!」
「やっぱり、いじわるやよくばりはいけないよな!」
「はは、そうだな」
元ネタにちょっとアレンジを加え、子供たちに話して聞かせるゴローであった。
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次回更新は5月14日(木)14:00の予定です。




