15-18 干し草の宿
『ANEMOS』を出て、『セライト王国』の首都を目指すゴロー、サナ、アーレンの3人。
出発したのは午前11時頃だったので、少し道から外れた場所に開けた草地を見つけ、用意した弁当を食べる。
周囲に危険な動物がいないことは、上空からハカセたちが『単眼鏡』で確認してくれたので安心である。
「このサンドイッチ、美味しいですね」
「うん、ジャムとドライフルーツが甘くて美味しい」
「それはサナ専用だからな?」
「うん、わかってる」
ゴローとアーレンはハムサンド、サナにはジャムとドライフルーツのサンドイッチである。
飲み物は、『ANEMOS』から降りたばかりなので今回だけは冷たい紅茶。
もちろんサナのものには砂糖がたっぷり入っている。
「あとは乾パンと水だからな」
「うん、しょうがない」
その辺はサナも承知しており、贅沢は言わない。
「さて、出発しようか」
食事後、ゆっくりとゴローは立ち上がった。
それに続いてサナとアーレンも立ち上がる。
30メルも歩けば街道で、3人は西へと向かった。
街道は割合と幅があり、大型の馬車でも走れそうである(すれ違いは無理)。
「道幅、4メルくらいはありそうだな」
「ですね、ゴローさん」
「轍が、ある」
「馬車か荷車が通るのかな?」
「結構凹んでますね」
そんな会話を交わしながら3人は街道を西へ。
明るい林を抜けると広い川原に出た。
中流域らしい雰囲気の川原で、クルミ大の石が多い。
所々に楊やサワグルミの木が生えている。
丸太を10本束ねた広い丸木橋を渡ると、小さな村があった。
ストーイ村同様、低い木の柵で囲われている。
見たところ、ストーイ村よりは大きそうな村だ。
「村長に聞いた『カイチ村』だろうな」
「うん、間違いない」
真っ昼間なので、ほとんどの村人は畑仕事か狩猟に出ているのだろうと思われた。
村の中には日向ぼっこをしている年寄りと、遊んでいる小さな子供の姿がある。
その1人が、ゴローたちの姿を見つけた。
「あ、たびびとさんだ!」
「3にんいるー」
「むらにとまるの?」
人懐っこく駆け寄ってくるのを見て、人さらいとか盗賊とかの可能性は考えないのかな……と思ったゴローである。
が、皆5〜6歳くらいなので、まだまだそういった危機感は芽生えていない年頃なのだろうと考え直す。
中には人見知りをするらしく、年寄りのそばへ駆け寄ってゴローたちを見ている子供もいた。
子供たちが駆け寄った年寄りたちがゴローたちを見たので、
「はじめまして、旅の者です」
とゴローは挨拶をした。
「おお、そうかね。ここはカイチ村だよ」
老人の1人が返事をした。
「ええと、ストーイ村から歩いてきたんですが、この先、西の方には村はありますか?」
ゴローが代表で尋ねる。
「うむ、あるにはあるが、今から歩いていったら夜になるぞ」
「あ、そうなんですか……」
困惑した顔を見せるゴロー。
すると、
「この村に泊まらんかね?」
と、期待した通りの反応が。
「ええと、泊めていただけるんですか?」
「うむ。旅人用の宿屋があるからのう」
「え、そんなものが」
ストーイ村よりも大きいだけあって、小さいながらも宿屋があるということだった。
「昨日まで泊まっていた行商人も王都へ戻っていったから、今は空いているはずだ」
「それはよかった。それで、その宿屋はどちらに?」
「この道を少し行くと十字路になる。そこを右に折れて真っすぐ行った突き当りだよ」
「わかりました。ありがとうございます」
礼を言ってその場を離れようとしたゴローに、老人が付け加える。
「多分、あとで村長が会いに行くと思うから、宿に留まっていたほうがいいぞ」
「はい、そうします」
おそらく危険な者たちでないかどうかを見極めるためだろうなとゴローは想像した。
そして、サナとアーレンに宿屋のことを告げようとして……。
「おねーちゃん、どこからきたの?」
「おじちゃん、よそのくにのひと?」
「たびのおはなしきかせてー」
「えっと……」
「…………」
子供たちに囲まれている2人を見つけたのだった。
「おーい」
「あ、もうひとりのおじちゃん」
「お、おじ……」
さすがに『おじちゃん』と呼ばれたことに対して動揺してしまうゴロー。
「じゃ、おにーちゃん?」
「あ、ああ、それで頼むよ」
「おにーちゃん、も、たびびとさん?」
「そうだよ」
「じゃあ、たびのおはなし、きかせてー」
「あ、ああ、いいけど、とりあえず宿に行かせてくれないかな?」
「あ、ランおばちゃんのやどだね」
どうやら宿の女将はランというらしいと見当をつけるゴロー。
「じゃあ、あとでいくねー」
「あ、あたしも!」
「ぼくもー」
「わかったよ……」
そんなやり取りを経て、ようやく子供たちから解放されたゴロー一行であった……。
* * *
教えられたとおりに進み、『干し草の宿』と看板が掛かった建物を見つけた。
「おや、いらっしゃい」
中に入ると広い玄関ホールになっており、定番ともいえる(?)、恰幅のよい中年の女将さんがカウンターの向こうから声を掛けてきた。
「旅人さんだね。泊まりかい、食事かい?」
「えっと、3人で1泊、お願いします」
「はいよ。食事は?」
「夜と、朝で」
「そうすると全部で2万4000ルクマだね」
(ええと1ルクマは0.5シクロだったから1万2000シクロ、1人あたり4000シクロか、妥当……なのかな?)
1シクロがおよそ1円なので1人あたり4000円ということになる。
「ええと、ルクマを持っていないので、砂金で払いたいんですが、いいですか?」
ゴローは荷物の中から、小分けにした砂金を取り出した。
およそ3グムずつ、10の小瓶に分けてあるのだ。
「ああ、いいともさ。ちょっと待っておくれ」
女将さんは奥の棚から天秤ばかりを取り出してきた。
その両方に、水を満たした容器を置き、釣り合いを取る。
そして片方の容器に、ゴローが出した砂金を沈めた。
こうすると、砂金の体積分の水が溢れるわけである。
溢れた水は、ちゃんと別容器で全部回収し、重さを測れば砂金の体積がわかるわけだ。
「へえ、そうやって量るんですね」
「そうだよ。そして砂金の重さを量ると、純度がだいたいわかるというわけさ。理屈は知らないけど、そういうものだと教わったのさ」
「そうなんですね」
砂金の体積と重さがわかれば比重もわかる。
金の比重は19.3(水を1として)なので、それに近ければ純度が高いということになる。
この手法が手順として決まっているということは、この国の教育水準はなかなか高そうだとゴローは感じた。
「ええと、この砂金の純度は90だね。なら、1グムで2万ルクマってところかな」
純金地金であれば、この国では1グム2万8000ルクマとなるが、砂金の場合は精錬するための手間が掛かるためこの価格になるということだった。
「それでいいです。ええと、少しでいいので両替もしてもらえますか?」
「少しならいいよ」
手持ちの現金が0なので、この機会に換金してもらうことにしたのである。
「それじゃあ、全部で3グム、お願いします」
「はいよ」
3グムなら6万ルクマ、宿代を差し引いて3万6000ルクマをゴローは受け取った。
まだ手持ちの砂金は27グム残っているので、しばらくはお金に不自由はしなくて済みそうだ。
「家族用の大部屋でいいかい?」
「それでいいです」
『ANEMOS』の中でも、雑魚寝のようなものである。
ゴローもサナもアーレンも気にしない。
「それじゃあ、部屋の鍵はこれだよ。部屋は2階の突き当りになるからね。トイレと洗面所は1階だよ」
「わかりました」
木の札に簡単な鍵が紐で付いたものを渡された。
札には『2階3番』と書かれている。
ゴローたちは玄関ホール脇の階段を上って2階へ。そして廊下の突き当り、3番の部屋へ。
そこは角部屋で、10畳くらいの広さの部屋だった。
窓のない壁際に、頭を壁側に向けてベッドが3つ並んでいる。
一応、衝立状の仕切りが用意されていた。
「さて、これからどうしようか」
「村の中を少し見てみますか?」
「女将さんに話を聞いてみるのは?」
「そうだなあ……」
荷物を置いたゴローたちは、これからどうするかを相談し始めた……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は5月7日(木)14:00の予定です。
本日は『蓬莱島の工作箱』も更新しております。
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