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15-17 方針決定

 ストーイ村を出発したゴローとサナは、ゆっくりと歩いていく。

 最初は麦畑、そして囲いのある牧場。

 そのうち放牧用の草地となって、しまいには伸び放題の荒れた草地となった。


「もう少し行くと林があるな。あそこでハカセたちに連絡しよう」

「うん、わかった」


 ゴローとサナは小さな林に到達した。

 そこはストーイ村の人たちが薪を集めている場所らしく、適度に人の手が入っており、林床にまで光が届いている。

 おかげでじめじめした感じはせず、明るい。


「村からは見えないよな?」

「うん、大丈夫」

「周囲に人はいないな?」

「……うん、それも大丈夫」

「よし」


 誰かに偶然聞かれてしまうリスクがないことを確認し、ゴローは『双方向夫婦石(カップルストーン)通信機』を起動した。


『はい、フランクです』

「ゴローだけど、ハカセは?」

『起きてらっしゃいます。わりますか?』

「頼む」


 ちょうどハカセも手が空いているようで、すぐに通信機から声が聞こえた。


『ゴロー、サナ、無事だったんだね』

「はい、ハカセ。……割合感じのいい村でした」

『それはよかった。で、これからどうするんだい? 戻ってくるのかい?』

「それを相談したくて連絡したんです」

『うん、どういうことだい?』


 ゴローは簡単に説明した。

 隣村のことや、もっと西には王都があること。

 どうやらこの国……『セライト王国』では亜人差別はなさそうなこと。

 王都には、その昔『亜竜(ワイバーン)ライダー』がやって来ていることなど。


『うーん……詳しい話を直接聞きたいねえ……』

「そうですか、では一度戻ります」

『上空3000メル()くらいに『ANEMOS()』を静止させて待ってるよ』

「わかりました。では、この後すぐ戻ります」


 通信を切ったゴローは、荷物から『飛行ベスト』を出して身に着ける。


「よし。サナ、ぶさってくれ」

「うん」

「『強化(ホプリゾーン)』も掛けておいてくれ。高速で飛び上がるから」

「わかった」


 ゴローも自身に『強化(ホプリゾーン)3倍』を掛け、


「それじゃあ、飛ぶぞ」

「うん」


 『飛行ベスト』に勢いよく真っ直ぐ上に飛び上がれ、と頭の中で指示を出した。


 するとゴローの意思を汲んだ『飛行ベスト』は弾かれたように真上へと飛び立った。

 その加速度はおよそ3G以上、30メル()毎秒毎秒にも達する。

 1秒後には秒速30メル()=時速108キル(km)となり、5秒後には時速540キル(km)に達する。

 『強化(ホプリゾーン)』を掛けていなければ耐えられないだろう。

 もっとも、時速500キル(km)に達したあたりでゴローは加速を打ち切って等速度で上昇したのだが(そのまま加速を続けると12秒後には音速を超えてしまう)。

 ともかく、それほどの速度で飛んだので、誰かに見つかるということはなかったようだ。


*   *   *


「ただいま帰りました」


 3000メル()の上空で待機していた『ANEMOS()』まで上昇したゴローは即座に停止し、ハッチを開けて乗船した。

 サナはゴローの背から飛び降り、同じく『ただいま』と言った。


「おかえり、ゴロー、サナ」

「おかえりなさい」


 ハカセとヴェルシアが出迎えてくれた。

 他の面々は船室の奥で2人を迎える。


「おかえりなさい、ゴローさん、サナさん」

「おかえりなさいなのです」

「わうわう」

「おかえりなさい、何があったか聞かせてください!」

「おかえりなさいませ」


 アーレン、ティルダ、ポチ、ラーナ、ルナールである。


「それじゃあ、説明するよ」


 簡易テーブルを囲んで座り、ゴローはこれまでのことを説明した。


「ほう……」

「この辺の事情が少しわかってきましたね」

「全員で行くこともできそうですね」

「そのあたり、どうしようかねえ」


 いろいろと話し合うゴローたち。

 そんな中ゴローは、先程思いついたことをハカセに聞いてみる。


「ハカセ、短時間でいいんですが、日中、姿を隠せるような魔法ってないんでしょうか? 『ANEMOS()』からの出入りを人に見られなくなるような……」

「あるよ」

「あるんですか!」

「ちょっと準備はいるけどね」


 ハカセの説明によると、特殊な処理をした布をかぶるもしくは身体に巻き付けるなどした後、『隠れる(コリウム)』という魔法を使うことで視認されづらく(あくまでもされづらく)なるとのこと。


「『隠れる(コリウム)』自体は、対象の判別をしづらくする魔法なんだよ。で、昼間なら白か水色、夜なら黒い布で身体を覆い隠すことで視認されづらくする、ってところかねえ」

「まあまあ使えそうですね」

「白い布ならあるしね」


 そもそも夜は視認されづらいのでわざわざ黒い布を用意する必要もない。


「白い布を被って、俺が1人ずつ運べば行けますかね」

「うん、行けるんじゃないかね」

「じゃあ、それで行きましょうよ」

「うーん……」


 ハカセは考え込んだ。

 確かに王都とやらに興味はあるのだろうが、基本引きこもり体質のハカセには、未知のみやこ訪問はちょっとハードルが高いようだ。


「今回はやめとくよ」

「そうですか?」

「なにか珍しいものがあったら手に入れてきておくれ」

「はあ……」

「あ、ゴローたちと一緒に行きたい者は行ってきていいよ」


 ハカセがそう言うと、


「あ、行ってみたいです」


 と、真っ先に手を上げたのはアーレン・ブルーだった。


「他には?」

「……」


 やはり未知の都に対して尻込みをする者ばかり。


「亜人差別がないと聞いてはいても、実際に行ってみたわけじゃないからな……」

「ゴローの言うとおりだろうねえ……やっぱり気になるよ」


 ラーナとティルダ、ルナールは『人族(ヒューマン)』ではないため、差別・迫害対象になる可能性が捨てきれない。

 それとは逆に、エルフの国『バラージュ国』では『人族(ヒューマン)』を含め『獣人(ビーストマン)』『ドワーフ』『ダークエルフ』が見下されているという。


「それじゃあ、俺とサナ、アーレンで行ってみて、本当に差別のない国だったら改めて皆で行ってみますか?」

「まあ、それでいいよ」

「わかりました。……それで、交換用の砂金をもう少し持って行きたいんですが」

「そうだね、3分の2は持って行っていいよ」

「ありがとうございます」


 今後のこともあるので3分の1は残していくことにした。


「あとは……東の名産として何か持って行けるといいんですが」

「そうだねえ……ああ、ティルダの漆器はどうだい?」

「いいんですか? ティルダはどうなんだ?」

「いいのですよ。私の作がどう評価されるか、興味深いのです」

「わかった」


 ということで、ティルダ作の漆器も、いくつか持っていくことにした。

 といっても、それほどたくさんは持って来ていないが。


「手鏡1つ、ブローチを3つ、といったところか」

「蒔絵の手箱は持って行かないのです?」

「それはちょっと高価すぎるだろうからな。ああ、あと銀のアクセサリーで何かあるかな?」

「指輪ならあるのです」

「それもいくつか持って行ってみるよ」

「はいなのです」


 そういうことになった。


「物々交換用の物資はそれくらいにして、あとは何か必要なものはあるかい?」

「『癒しの水』を少し持って行きましょう。それと薬類くすりるい

「ああ、いいねえ」


 これはアーレンに持っていてもらうことにする。

 3人の中で一番必要になりそうなのがアーレンだからだ。


「あと、アーレンもナイフくらいは持っていってくれよな」

「はい、わかりました」


 そんなこんなで支度も終わり。


「ほらゴロー、これにくるまってお行き」


 ハカセがうっすらグレーがかった布を持ってきてくれた。

 シーツくらいの大きさである。


「あ、すみません。で、『隠れる(コリウム)』の魔法は?」

「さっきサナに教えておいたよ」

「なら大丈夫……って、俺とアーレンは?」

「ゴローなら、サナとアーレンを同時に運べるだろう?」

「やっぱりそうなりますか……」


 アーレンを背負い、サナをお姫様抱っこすれば運べそうである。

 その状態で布にくるまり、サナが『隠れる(コリウム)』の魔法を使えばいいというわけだ。


 ちょっと試してみたが、『飛行ベスト』は十分に3人分の重さを浮かすことができた。


「それじゃあ行ってきます」

「気を付けて行っておいで」

「はい」


 というわけで、ゴロー、サナ、アーレンの3人は『ANEMOS()』を出て地上へ。

 『セライト王国』の首都を目指すことになったのである……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は4月30日(木)14:00の予定です。


 20260423 修正

(誤)「じゃあ、それで行きましょううよ」

(正)「じゃあ、それで行きましょうよ」

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― 新着の感想 ―
>>ゆっくりと歩いていく 仁「時速にして」 明「1nmくらい」 56「それは無理」 >>勢いよく真っ直ぐ上に 仁「その速度は」 明「第三宇宙速度くらい」 56「何処まで行かせる気か」 >>である …
> ゴローとサナは小さな林に到達した。 > そこはストーイ村の人たちが薪を集めている場所らしく、適度に人の手が入っており、林床にまで光が届いている。 > おかげでじめじめした感じはせず、明るい。   …
アーレンを背負った状態では速度は控えめにねw
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