15-11 新展開?
中間着陸した場所で見つけた『赤い水』。
とりあえず、落ちていた木の枝を突っ込んでみる
特に、溶けるとか焦げるとか、そういった変化は見られなかった。
「ちょっとだけ枝先が赤茶色になっただけだねえ」
「そこまで危険じゃなさそうですから、コップに汲んでクレーネーに見てもらいましょう」
「それがよさそうだねえ」
ということで、ゴローは池の水をコップに汲み、クレーネーのところへ。
「……どうだい?」
「これ、鉄がたくさん含まれていますの」
「やっぱりそうか」
赤茶色の水、といえばまず酸化鉄、と『謎知識』が言っている。
日本各地にある『血の池』等と言われる池の多くは酸化鉄=赤錆の色なのだ。
鉄分を餌にして繁殖する『鉄バクテリア』というものもいる。
その他には藻類(植物プランクトン)が原因の場合もある(淡水赤潮)。
今回は酸化鉄が主要因のようだ。
「鉄だけ取り除けるかい?」
「はい、簡単ですの」
クレーネーはコップの中の水をつまむような仕草をした。
すると、その指の間には赤茶色の粉が。
「これが鉄分ですの」
水分を全く含んでいないそれは、赤茶色の粉末である。酸化鉄に間違いないと『謎知識』は断定した。
ただし、酸化鉄には他にも黒いものもある、とも付け加えている。
赤茶色の酸化鉄は酸化鉄(Ⅲ)(さんかてつさん)、あるいは酸化第二鉄と呼ばれる。赤錆がこれである。
四三酸化鉄と呼ばれるもの(あるいは酸化鉄(Ⅱ、Ⅲ))もあり、鉄の黒錆がこれである。
これらの他にも数種あるが、ここでは割愛する。
「おお、鉄分がないとかなりきれいな水だな」
「でも、ほんの少し硫黄が含まれていますの」
「やっぱり飲用には適さないな」
「はいですの。……ゴロー様、お水でしたら私がご用意いたしますですの」
「いや、水不足というわけじゃないから、今はいいんだ」
クレーネーの申し出を断ったゴローは『ANEMOS』を出てハカセたちの下に戻った。
「やっぱり鉄分でした。あと、硫黄が少し混じっているそうです」
「そうなんだね。まあわかってすっきりしたよ」
そんなわけで疑問も解けたので、のんびりと昼食タイムである。
献立はトーストにいちごジャム。
水は持参のものだ。
「これから、食料は節約していく必要があるでしょうからね」
「それはわかっているさね」
特に不平を口にするものはいなかった。
* * *
「さて、この場所には珍しいものはないかねえ……」
ハカセがそう言うと、すぐにティルダが答えた。
「ええと、『マグネタイト』ならそこら中にあるのです」
「へえ?」
『マグネタイト』は、別名を『磁鉄鉱』。
先程の四酸化三鉄であり、砂鉄は大抵がこの鉱物の粉である。
磁性を持っているためこの名がある。つまり天然の磁石なのだ。
落雷により強磁性を帯びると言われている。
「要は鉄鉱石だね?」
「はいなのです」
「なら記念の標本だけ拾っておくとしようかね」
「あ、鉄を大量に必要とする時に役に立つかもしれないので、『マーカー』を埋めておきますよ」
「うん、そうしておくれ」
そういうことになった。
なお、池の名称は『赤池』である……。
* * *
『赤池』のほとりで昼食を済ませたゴローたちは、食器を片付け、飛び立つ準備をする。
そんな時。
「ゴロー、ちょっといいかい?」
「ハカセ、どうしました?」
「例の写真機の代わりなんだけど、こういうものを作ってるんだよ」
ハカセがゴローに見せたのは、平べったい箱状の魔導具(作りかけ)。
A5サイズの雑誌くらいの大きさで、厚みは3セルくらい。
表紙に当たる面に穴が空いている。
「この穴の部分にレンズを取り付けるんだけど、どのくらいの……何だっけ……ああ『焦点距離』にすればいいかねえ」
「それですか……確かに難しいですね」
ハカセの説明によると、レンズで撮影(といっていいかどうか?)した画像は一旦『魔晶石』に蓄えておくことになる。
それを夜、つまり飛行していない時に取り出し、フランクに読み込んでもらって地図を描いてもらう。
これが当面の方法だという。
フィルムを使わないので、撮影(?)可能枚数はかなりあるようだ。
「うーん……ハカセ、1つ提案なんですが」
「うん、聞かせておくれ」
「撮影した画像を、『魔導モニター』みたいに直接見られませんかね?」
「うん? ……うーん、でき……るよ」
「でしたら、できればこれくらいの画面に映し出してもらえるといいんですが」
ゴローは手でA3くらいの大きさを示してみせた。
「……大きいね……そんな大きな水晶板はないねえ……」
映し出すのは魔法加工した水晶板なのだという。
「今あるのはこんなものだね」
ハカセが見せてくれたのはA6サイズくらいの板であった。
「もし4枚あるなら、つなげませんか?」
「つなげる……うん、できるけど3枚しかないよ」
「そうですか……」
4枚あればA4サイズになったのに、とゴローはちょっと残念に思った。
が、2枚つなげればA5サイズ、なんとか実用になりそうである。
「そうしたら、任意の部分を拡大できるようにできませんか?」
「それならできるよ。……ああ、細かい部分を拡大できればいろいろ便利そうだねえ」
ここでゴローは最初のハカセの質問に答える。
「でしたら、そこそこ広い範囲を写せるといいですね」
「ああ、そういうことかい。なるほどね、ゴローの質問の意味がわかったよ。任せておおき」
納得したハカセは加工に取り掛かったのである。
そして『ANEMOS』は飛び立ち、再び西を目指す……。
* * *
西を目指す『ANEMOS』だったが、50キルほど飛ぶと、行く手の風景が少し変わってきた。
ジャングルがなくなり、明るい草原と小さな岩山が点在するような風景になってきたのだ。
「あ、あそこに動物の群れがいますよ」
「いるな。……ヤギの仲間みたいだ」
ヴェルシアの声に、ゴローは『単眼鏡』でそちらを眺めてみる。
見た目は『謎知識』が教えてくれるヤギそのものだった。
「そばにはウサギもいるみたいだ」
『見る』ことに特化した『単眼鏡』なので、そうしたものもよく見えるのである。
「それに……」
「ゴロー、どうしたの?」
言い淀んだゴローを訝しんで、サナが声を掛けた。
「人間の足跡らしきものがある」
「ということは、近くに住んでいる?」
「かもしれない。……フランク、停止してくれ」
「了解」
「このまま高度を上げてくれ」
「了解」
このまま無防備に人間の居住エリアに入るのは得策ではないと、一旦『ANEMOS』は停止した。
そして高度を3000メルほどへ上げる。
「対地高度、2400メルくらいです」
「これならおいそれと見つからないだろう」
この状態で地上を観察することにしたゴロー。
10分くらい『単眼鏡』で地上を見ていたが、人間は見つからなかった。
「それじゃあもう少し西へ行こうか。……ハカセ、ゆっくり行きますよ?」
「ああ、それで構わないよ」
ということで『ANEMOS』は、時速30キルくらいでゆっくりと西へ。
風景の方はますます草原の割合が多くなってきた。
そして……。
「畑になりましたね。……フランク、ここで止まってくれ」
「了解」
『ANEMOS』は停止。ゴローは『単眼鏡』で地上を観察する。
「麦畑……ですね。野菜類も見えます。葉物野菜と豆ですね」
「農作業をしている人はいないのかい、ゴロー?」
「ええと……あ、いました。牛のような動物に鋤を引かせて土を耕しています」
「人種は?」
「『人族』ですね。ルーペス王国の人と変わらないように見えます」
少なくとも同じように見えている、とゴローは説明した。
「他の人種は見当たらないの?」
「サナも見てみるか?」
「うん」
ゴローは『単眼鏡』をサナに渡し、とりあえず眼下の風景をささっとスケッチした。
これで一応簡略地図は繋がっている。
「うん、『人族』しか見当たらない」
「だろう?」
だとすると、この先にあるはずの国は『人族』がほとんどを占める国なのだろうかとゴローは考えた。
「そうすると、おいそれと着陸できませんね」
「確かにねえ」
「面倒事が起きるのはまずいので通過しちゃいますか?」
『ANEMOS』には『人族』と『ドワーフ』、それに『獣人』がいる。
まあ、それ以外の人外も大勢乗っているわけだが……。
「どうしましょうかね」
「どうしようかねえ」
ゴローたちは話し合うのであった……。
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次回更新は3月19日(木)14:00の予定です。




