15-10 栽培
翌朝はまずまずの天気。
東の空に茜雲が美しくたなびいている。
「おはよう、ゴロー」
「おはようございます、ハカセ」
昨夜は早めに休んだので、みんな早く起きてきた。
およそ午前6時半、といったところ。
ルナールは午前6時前には起きていて、朝食の支度をしている。
今朝はお粥と魚の干物を焼いたもの。
早速昨日手に入れた干物が食卓に並んだ。
『ANEMOS』の簡易キッチンは火を使わない設計、つまり魔法技術を使った遠赤外線による加熱なので、炭火のように魚を焼くことができる。
また、お粥は『癒やしの水』を少し混ぜた水で炊いているため、健康にもよい。
この旅の間、体調不良を起こしては困るため、全員が少しずつにせよ『癒やしの水』を飲んでいるのだ。
おかげで全員、体調は良好である(ゴローとサナは元々体調不良は起こさないが)。
「今日は、寄り道した起点まで戻って、改めて西へ向かうことになります」
「そうだね。更に西へ……ああ、まだ『写真機』ができていないけどね」
それは飛びながら研究するよ、とハカセ。
「お願いします」
……と、そんなこんなで、野営地を出発したのは午前7時半頃。
寄り道をした場所までの簡易地形図はできているので、記録の必要はなく、速度を出すことができる。
なのでおよそ午前8時、『ANEMOS』は再び西への旅路についたのである。
* * *
「この辺はところどころに岩山が出てるねえ」
「あっ、そうだ。イワタケが生えていませんかね?」
ヴェルシアが思い出したように言った。
「この先、物々交換をするのにちょうどいいと思うんです」
「そうだったねえ」
『滋養強壮薬』はイワタケを『癒やしの水』で煮ることで作ることができる。
所要時間は2時間くらい。
なので、乾燥したイワタケを(通常のイワタケは乾燥した状態で岩場に生えている)確保しておけば必要に応じて薬が作れる、というわけだ。
「それらしい山があったら近付いてみようじゃないか、ゴロー」
「はい、ハカセ」
ということで、そうした山を物色しつつ『ANEMOS』は飛んでいく。
そして午前10時頃。
「あの山はどうかしら」
進行方向やや右前方に、なかなか可能性のありそうな岩山をヴェルシアが見つけた。
「フランク、近付いてくれ」
「了解」
即座に接近する『ANEMOS』。
岩山の標高は2400メルくらいか。
ゴツゴツとした岩壁が目立つ岩山である。
「ミュー、ちょっと出てきてくれ」
岩壁に50メルほどまで近付いたところで『ANEMOS』は停止。
ゴローは『エサソン』のミューに声を掛けた。
「はい、ゴロー様」
「あそこの岩壁、黒い物がたくさん付いているけど、イワタケじゃないかな?」
「……ええ、はい、イワタケですね。あの山にはかなりたくさん生えているようです」
「そうか!」
思ったより早く、イワタケが見つかった。
だが、その岩山は切り立った岩壁ばかりで、『ANEMOS』が着陸できそうな場所がない。
「こうなったら、俺が『飛行ベスト』でひとっ飛びして採ってきますよ」
「それしかないかねえ。……ゴロー、気を付けて行っておいで」
「はい、ハカセ」
ゴローは『飛行ベスト』を着用。ハーネス類をしっかりと締める。
そしてハッチを開け、
「行ってきます」
と一声言い残すと、ふわりと飛び立ったのである。
50メルほどの距離は一瞬で飛び越える。
小さな岩のテラスに降り立ったゴローは、手付かずのイワタケを3分の1くらい採取する。
決して根こそぎに取り尽くしたりはしない。
なにしろイワタケは1年でわずか1ミル 程度しか成長しないのだ。
そこの岩壁はイワタケだらけだったので、1箇所で3分の1ずつ採っても、全部の場所を回ればそれなりの量になる。
11箇所で採取すると、持ってきた袋に一杯となった。
所要時間は30分ほど、非常に効率のよい採取であった。
「よし、戻るとするか」
必要十分に採取できたと判断し、ゴローは『ANEMOS』へと戻ったのである。
* * *
「おかえり、ゴロー」
「おかえりなさい」
「ただいま。たくさん採れたよ」
「みたいですね。ずっとここから見ていました」
みんな気になっていたのとゴローが心配なのとで、目を離せなかったという……。
「そりゃなんというか……ごめん?」
「いや、あやまらなくてもいいさね。それよりイワタケを出してごらん」
「はい、ハカセ」
ゴローは背負っていたザックを下ろし、中身を籠にあける。
「わ、こんなに……」
「3キム以上ありそうだねえ」
現代日本でのイワタケは、100グムで4000円から6000円ほどの値が付くという。
100グム5000円とすれば、3キロで15万円。
30分ほどでこれである……。
「そうだ、ハカセ」
「うん?」
「これ、ミューに任せたら増やせませんかね?」
もし栽培が可能なら、いろいろと都合がいい。
「聞いてみればいいさね」
「ですね。……ミュー、ちょっといいかい?」
「はい、ゴロー様」
「このイワタケだけど、ミューに栽培はできないかな?」
「できないこともないですが……」
「なにか足りないものがあるのかい?」
「ええと、生えるべき岩が」
「あ、そうか」
イワタケの生える岩がほしい、ということであった。
そこでゴローは改めて岩壁へと飛び、縦20セル幅12セル、厚さ4セルほどの岩塊を探し出してきた。
ちょうど岩が欠けそうに風化しかかっていたので、『ナイフ』を使う必要もなかったのだ。
「あ、これならできると思います。……ええと、フロロ様にも手伝っていただけたら確実なんですけど」
「そうか」
「じゃあ、聞いてみる。……フロロ、ちょっといい?」
「うん、サナちん。話は聞いていたわ。ミューがイワタケを栽培するのをサポートしてあげればいいのね?」
「お願い、できる?」
「いいわよ、やったげる」
「ありがとう」
「ああ、そういう岩があと3つ4つあっても大丈夫よ」
むしろその方が効率もよさそうである。
ゴローは再度岩壁まで飛んでいったのだった。
* * *
「なんだかシイタケの栽培みたいだ……」
とはゴローの『謎知識』による感想である。
岩塊が5つ、ミューの『テラリウム』の隣に立てかけられている。
そこにイワタケが生えてくるというのだ。
「これでいいわ。水分は『癒やしの水』を霧状にして3日に1ぺんくらい吹き掛けてあげればいいわよ」
「ありがとう、フロロ、ミュー」
こうして、『ANEMOS』の中でもイワタケ栽培ができることとなった。
ただし、自然界では1年に1ミルほどしか成長しないイワタケなので、ミューとフロロの力を借りて促成栽培しても10日で1ミルくらいしか育ちそうもないという。
「それでも30倍以上の早さですからね」
「いざという時に役に立ちそうだしね」
とにかく、船内で栽培できるというのは大きい。
今後の旅路できっと役立ってくれるであろう。
なお、ここの岩山にも『マーカー』を埋め込んでいる。
ちなみに、山の名称は『岩茸山』である……。
* * *
そして『ANEMOS』はまた西を目指す。
「このあたりはゴツゴツした岩山もあるけど、高原状のようだねえ」
「そうですね」
山々の標高は2000メルから3000メル。
低い部分には常緑の針葉樹が、高い部分には高茎草原(背の高い草本からなる草原)が広がっている。
イメージとしては、日本の中部山岳北部にある『弥陀ヶ原』もしくは『五色ヶ原』をうんと広くした(面積で言えば500倍以上)ような地形である。
(『弥陀ヶ原』は富山県の立山の北に広がる、大昔の火砕流によって作られた高原台地、『五色ヶ原』は同じく立山の南に広がる溶岩台地)
「湿原や池が見えるねえ」
「適当な場所に着陸してみましょうか。ちょうどお昼時ですし」
「そうだねえ、任せるよ、ゴロー」
ということで、ゴローは着陸できそうな場所を物色。
その結果、大きな池の畔に、広い岩原が広がっていたのでそこに着陸することにした。
「フランク、頼むぞ」
「お任せください」
『ANEMOS』は危なげなく着陸。
空は青空、白い雲がポッカリと浮かんでいる。
そして、池は……。
「……赤いね」
「赤いですね」
赤茶色をしていた。
銀のペンダントには変化はないので硫黄系のガスはないようである。
しかし。
「水は汲めそうもないですね……」
「いや、それ以上に、何か化学物質が溶け込んでいそうなんですが」
「後で調べてみたいねえ」
果たして今度は、何を発見するのであろうか……。
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次回更新は3月12日(木)14:00の予定です。




