15-02 ジャンガル王国から次へ
こちらではあけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
その日はジャンガル王国に泊まることになる。
当然、迎賓館に……だ。
『ANEMOS』に残っていたヴェルシアとラーナ、ルナールも呼ばれ、泊まっている。
さすがにフランクは留守番だ。
そして、人外の乗員である『木の精』の『フロロの分体』、『クー・シー』であるポチ、『エサソン』のミュー、『水の妖精』のクレーネー、そして『屋敷妖精』のマリーの『分体』も留守番となる。
夕食後、ゴローたち迎賓館のラウンジで寛いでいた。
「旅の第一夜が迎賓館とはねえ」
快適すぎて拍子抜けだよ、とハカセ。
「過酷すぎるのも遠慮したいです」
とはヴェルシア。
「それはそうだ。……でもまだ旅は始まったばかりだから、焦らずのんびり行こう」
「それはそうですね」
「明日はまず『三連湖』に行ってみますか?」
「そうだねえ。その青い水を見てみたいよ」
「クレーネーに見てもらえば、何かわかるかもしれませんね」
「『ANEMOS』に残してきた彼女らは大丈夫ですか?」
気になったようで、ラーナが尋ねた。
「夕方、一旦『ANEMOS』に戻って様子を見てきたから大丈夫。みんな、明日の朝まで待ってくれるとさ」
「ポチさんも?」
「大人しくしてたな。まあ、明日は『三連湖』付近で思い切り走り回らせてやろう」
「うん、それが、いい」
「鉱石も、少し探したいのです」
「ほどほどにな」
今から集め始めたら、旅が終わる頃には山のようになっているはずだ。
「……空間収納ができるといいのにな」
とゴローが『謎知識』に導かれ、呟くと、
「空間収納!? なんだい、それっ!!」
と、ハカセがものすごい勢いで喰い付いてきた。
「あ、え、ええと、空間収納というのは……」
『謎知識』に教わった情報をゴローは説明していく。
「こことは別の空間、あるいは亜空間……に物品を収納するのかい……理屈はわかるけど、できる気がしないねえ……」
ハカセでさえ、できないようである。
「……今のところは」
あ、それでも『今のところは』なんだ、と、ハカセらしさに感心したゴローであった。
* * *
リラータ姫が訪問して来るかもという予想は外れ、その夜は穏やかに過ぎ去った。
そして朝が来る。
「おはようなのじゃ、ゴロー、サナ!」
午前8時半、元気よくリラータ姫は迎賓館にやって来た。
ちょうどゴローたちが朝食を食べ終えたタイミングだ。
「今日は西へ行くのじゃろう?」
「え、あ、はい」
その勢いに気圧されるゴロー。
「妾も一緒に行くぞ!」
「え……!?」
「姫様、それでは意図が伝わりませんよ。……おはようございます、皆様」
「おはよう、ネア」
一緒にきたネア・ジャンガルが従姉妹姫の言葉足らずさを注意した。
実際は、『三連湖』までジャンガル王国の『PICUS』が随伴するので、リラータ姫もそちらに同乗していく、ということなのだそうだ。
「それなら、まあ……いいのか」
昨日、旅に出たそうにしていたからな、とゴローは、姫の心情を察したのである。
リラータ姫の件を別にすれば、『ジャンガル王国』による先導は助かるので、こちらには素直に礼を言った。
「道案内、助かります」
「いえいえ、では参りましょう。どうぞ、こちらへ」
随伴のリーダーであるケーンが、一行を馬車へと誘導した。
* * *
飛行場では、『PICUS』の発進準備が整っていた。
ゴローたちも『ANEMOS』に乗り込む。
……その前に、
「これをお持ちください」
と、『夫婦石通信機』が手渡された。
先日納品したものではなく、『ジャンガル王国』で作ったものだそうだ。
「まったく同じにはできませんでしたが、実用には堪えると思います」
飛行中にも情報のやり取りができるというのは便利である。
聞けば、『PICUS』と王都の間も、同じく『夫婦石通信機』で繋がっているという。
当然、『ARDEA』と『PICUS』間、それに『ARDEA』と王都間も。
「役に立っているようで何よりだねえ」
「そうですね、ハカセ」
開発者であるハカセも嬉しそうである。
《こちら『PICUS』。それでは、発進します。当船に続いてください。オーバー》
《『ANEMOS』了解しました。オーバー》
午前9時、2隻の飛行船は『ジャンガル王国』の首都、『ゲレンセティ』をスタートした。
《このまま西を目指します。オーバー》
《先導よろしく。オーバー》
双方向通信ではないため、きちんと通話のルールを守っている。
「うーん、こうしてみると、やっぱり『双方向夫婦石通信機』って便利だよねえ」
いちいち『こちらの話は以上です。今度はそちらからどうぞ』という意味の『オーバー』を付けて交互に話すには少々まだるっこしく感じるのだ。
「とはいえ、これまではこんな会話はできなかったんですから」
「それはそうだねえ。人間というのは慣れると贅沢になっていくものだものねえ」
「向上心がある、ということじゃないですか?」
「うーん、ゴローの言うのもわかるけどねえ」
ゴローとハカセは、なんとはなしにそんな会話をしていた。
そして他のメンバーも、初めての風景に興味津々である。
2隻が時速100キルほどで飛ぶこと1時間と少し。
「ああ、『三角山』が近くなったねえ」
王都からおよそ120キル来た、ということになる。
《ここは通過します。『三連湖』で着陸します。オーバー》
《着陸できる平地があるんですか? オーバー》
《湖の畔に絶好の平地があります。オーバー》
そして2隻の飛行船は更に西へ。
眼下は相変わらず緑、緑、緑。
「フロロ、何か変わった気配なんかはあるかい?」
「んー……、特にないわね……」
『木の精』であるフロロの『分体』に尋ねると、特に異常はないようだった。
「クレーネー、ほら、外を見てみるといい」
「はいですの……わ、わあ……お空を飛んでいるですの……」
研究所からジャンガル王国までの道中では、初めての空の旅に驚いたクレーネーは水槽から出てこず、共に景色を楽しむことができなかった。
2度目の飛行でようやくこうして共に旅を楽しむことができるようになった、とゴローは嬉しくなった。
「ポチー、外界が見えるか?」
「うぉん、わふわふ」
「そうかー、面白いかー」
「わふ」
『クー・シー』のポチはマイペースに窓から外を眺めている。
「ミューは外を見ないか?」
「私は……いい、です……」
光に溢れた空中は居心地が悪いのか、『エサソン』のミューは葉の下へ引っ込んでしまったが。
「マリーは楽しんでるか?」
「はい、お陰様で」
もう『分体』として何度も旅をしている『屋敷妖精』のマリーはあまり表情を変えていないが、それなりに空の旅を楽しんでいるようだった。
「……しかし、混沌とした『乗員』だよねえ」
ハカセがポツリと呟いた……。
* * *
そして午前11時半、目的地である『三連湖』に到着。
「おお、本当に3つの湖が細い水路で繋がっているねえ」
(だんご3兄弟……)
『謎知識』が何やら理由のわからない単語を教えてくれたが、ゴローはそれを無視して下界を観察。
本当に、『串団子』のような形の湖が見える。その『串』は北西から南東に向いている。つまり3つの湖も北西、中央、南東と並んでいるわけだ。
「真ん中の湖の東側に平地が見えます。あそこに着陸するんでしょうね」
そこへ通信が入る。
《こちら『PICUS』。着陸準備されたし。オーバー》
《『ANEMOS』了解。オーバー》
『PICUS』は、ゴローの予想どおりに、真ん中の湖の東に広がる平地を目指している。
草も灌木も生えていない、石ころだらけの荒れ地である。
『ANEMOS』も『PICUS』に続く。
そして午前11時40分、2隻は平地に着陸していた。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は1月15日(木)14:00の予定です。




