15-01 旅立ち 〜まずはジャンガル王国
その日の朝は、前日とは打って変わって雲一つない快晴だった。
「旅立ちには絶好の朝だねえ」
「幸先がいいですね」
ハカセが言い、ゴローが応じた。
「忘れ物はないね?」
「はい、ハカセ」
「はい!」
「それじゃあ、出発するよ!」
『ANEMOS』に乗り込むゴローたち。
「フランク、発進だよ!」
「はい、ハカセ」
春もたけなわの日、ゴローたちは西を目指し、研究所を旅立ったのである。
* * *
「いやあ、空が青いねえ、いい天気だねえ」
ハカセは非常にテンションが高い。
『ANEMOS』は時速100キルほどで西へ向かって飛んでいる。
「まずは『ジャンガル王国』でしょうね」
「素通り、というわけにはいかないでしょうし」
「まあ、そうだね」
「できれば『醤油』と『味噌』を補充しておきたいですし」
「そういうことなら仕方ないねえ」
「うん、食料は、大事」
「それに、西の方の情報も聞いておきたいですし」
「それならわかるよ」
『ANEMOS』は『ヒ川』を越え『ガーノ川』を越える。
「お、『ゲレンセティ』が見えてきたな」
「あと数分で到着します」
日本の『青ヶ島』のような、首都『ゲレンセティ』が見えてきた。
さらに近付くと、地上で手を振っている人たちも見える。
『ANEMOS』がゴローたちの飛行船だと知っている人々だ。
もっと近付くと、新たに整備された飛行場が見え、そこに2隻の飛行船……『PICUS』と『ARDEA』が着陸しているのが見えた。
そして地上にいる係員が手を振ってその2隻の横に着陸しろと言っているようなので、『ANEMOS』はそこを目指してゆっくりと下降していった。
もちろん『ANEMOS』は無難に着陸。
ドアハッチを開けてゴローが外に出ると、歓迎の声が。
「ゴロー殿、ようこそ!」
出迎えてくれたのはジュール・ジャンガル。
リラータ姫の叔父にあたり、外務大臣を務めている。
「今日は何か、急用でも?」
「いえ、そういうわけではないんです」
これから西へ、行けるところまで行ってみたいと思っている、とゴローは説明。
「で、西の地の情報がありましたら伺いたくて」
「なるほどなるほど。では、関係者を集めてみましょうかな」
「……あまり、大げさにならないようにお願いします」
「わかりましたぞ」
* * *
場所は第一迎賓館。
ここは主に国賓を迎え入れる由緒正しい場所である。
そして、先程わかったと言っていた割に、集められたのは錚々たる顔ぶれである。
まず、先ほどゴローたちを出迎えたジュール・ジャンガル。
それに従士長バウワン、兵士長ウハンド、王立研究所所長キールン、技術士から出世し技術長となったケーン。
さらに王女リラータ・ジャンガル、王子ズック・ジャンガルが。
極めつけは女王ゾラ・ウルペス・ジャンガルまでがやって来ていた。
「ゴロー、サナ、ティルダ、アーレン、ハカセ、久しぶりじゃな」
「はい、陛下もお元気そうで何よりです」
対してゴローたちはというと、ゴロー、サナ、ティルダ、アーレン、ハカセの5人が出席していた。
ヴェルシアとラーナはフランクとともに留守番である。
またルナールは呼ばれていない。
「ちらと聞いたが、西へ行くのじゃと?」
女王ゾラが話の口火を切った。
「あ、はい。……この機会に、行けるところまで西へ西へと行ってみようかと」
「おお、いいのう、ロマンじゃのう」
羨ましそうにリラータ王女が言う。
「ほんに、そうじゃなあ」
女王ゾラもそれに同意した。
「妾も、立場がなければ行ってみたいがのう」
「母上、妾もなのじゃ」
『獣人』は女性もまた、冒険を好むものらしい、とゴローは感じた。
「それでですな」
話が一段落付いたところで、王立研究所所長キールンが口を開いた。
「西方の情報をお求めということですので、我らの持つ地図の写しをお持ちしました」
「それは助かります」
ゴローたちは、テーブルに広げられた地図を確認する。
「西へ120キルほどの所に『三角山』があります」
「そうでしたね」
先日、『飛竜の巣』を探しに行った時のランドマークの1つである。
「そこからさらに西へ100キルほど行ったあたりに、変わった形の小さな湖があります」
「変わった形?」
「小さな湖が3つ、連なっているのです。3つとも同じくらいの大きさでして、『三連湖』と呼んでおります」
それだけ変わった形であれば、いいランドマークになるであろう。
「『串団子湖』なのじゃ!」
「姫、黙っておれ」
茶々を入れたリラータ姫が、母である女王ゾラにたしなめられていた。
とはいえ、非常にイメージしやすかったゴローである。
「そして更に100キル、『鋸山』と呼んでいる山塊があります」
「名前からして、ぎざぎざの稜線を持っているんですか?」
「そのとおりです。とはいえ遠くから確認したのみなので、詳細はわかりません」
『ジャンガル王国』の地名は、王都付近はともかく、ストレートに見た目で付けているものが多いのだ。
ミラー湖しかり、二子山しかり。
「そして残念ながら、このあたりが我々の限界でして」
そこから西方向は未踏の地だそうだ。
「我々としても、2隻の飛行船を使って地図を作成しようとしているのですが、まずは首都周辺から、ということで辺境は後回しなのです」
「そうでしょうね」
重要度の高い順に詳細な地図を作るのは当然だろう、とゴローも納得した。
「それでも、ここまでの情報があれば助かります」
「そう言っていただけると、かえって恐縮してしまいますな……何かご質問はございますかな?」
「それでは」
ここでアーレンが挙手をした。
「アーレン殿、何か?」
「ええ、この『三連湖』は淡水だと思いますが、生息する生物についての情報はありますか?」
「おお、それはまだ説明しておりませんでしたね。……それにつきましては兵士長ウハンドに説明させましょう」
「ウハンドです。……『三連湖』周辺には大型の動物はおりませんが、小型の魔獣はいます。『ホーンドウィーゼル』と『イビルウルフ』ですね。『トリッキースクワール』もいますが、こちらは人は襲いません」
『ホーンドウィーゼル』は角の生えたイタチに似た魔獣で、『イビルウルフ』は狼型の魔獣である。
そして『トリッキースクワール』は作物を食い荒らす、小型のリスの姿をした魔獣だ。
「わかりました」
「湖ですが、きれいな青色をしてはいますが、何か毒素が溶け込んでいるらしく、生物はおりません。あ、水も飲まないようにしてください」
「飲むとどうなりますか?」
「腹痛や吐き気を生じますね」
「皮膚に付いただけでも危険ですか?」
「ええ。赤くなって痛みを生じ、水ぶくれもできたりします」
「それは危険ですね……」
「お気を付けください」
「はい、ありがとうございます」
他に何か、との問いに、ティルダが挙手をする。
「ティルダ殿、何でしょうか」
「ええと、その湖周辺では、何か変わった石が採れるのですか?」
この質問に答えたのは技術士から出世し技術長となったケーンだった。
「それは私から。……青や黄色の鉱物が産しますが、硬度が低くて宝石には使えません。他はこのあたりと変わらない石ですね」
「わかりましたのです」
「ええと、植物は?」
今度はサナが質問した。
「何か、食べられる実の生る木とか草とかは?」
「ありませんね……植生も乏しいようです。荒れ地が多いのですよ」
「……そう、ですか」
ちょっと……いや、あからさまにがっかりするサナであった。
「もう1つ、教えてほしいんだけど」
「ハカセ殿ですね、どうぞ」
「『鋸山』の詳細はわからないということだけれども、わかっていることだけ、詳しく教えてほしい」
「わかりました、では私が」
以前調査団に加わったことがあるという従士長バウワンが口を開いた。
「山の岩肌は真っ黒に見えました。高さとしては『三角山』と同じくらいでしょう」
「植生は?」
「広葉樹が多い森ですね」
「生き物は?」
「先程ウハンド殿が説明したような魔獣がいるくらいです」
「普通の動物は?」
「あ、そちらですか。ウサギ、シカ、それに鳥類ですね」
あまり詳しくは調べられていない、ということだった。
それでも、何も知らずに行くよりはいい。
「ありがとうございました」
ゴローは一行を代表して礼を述べたのであった。
お読みいただきありがとうございます。
今年1年、ありがとうございました。
次回更新はお正月休みを挟んで、
2026年1月8日(木)14:00の予定です。




