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タロットカードの導き~愚者は死神と共に世界を目指す~  作者: 蒼井茜


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酒は怖い

「さぁ着いたよ、ここがこれから君たちの過ごす部屋だ」


「……いや、立派な部屋だなぁおい」


 詰所に着いたナルを待ち構えていたのはどこぞの宮殿と見紛う豪勢な部屋だった。

 無駄に広い部屋は馬車を三大詰め込んでもまだ余裕があるだろう。

 調度品一つ取っても今日のナルの稼ぎが吹き飛ぶくらい値段ではないかという高級品ばかりだ。


「おい、ベッドが一つしかないぞ」


「ソファーがあるじゃないか」


 このような部屋に泊るのは貴族だけであり、そして貴族の大半が同行させるのは護衛とその親族、主に正妻くらいのものだった。

 その為ベッドは一つで十分、その他御付きが滞在するための部屋は他の軍人と同じ禁酒禁煙の部屋しかない。

 必然的にナルはこの部屋でグリムと過ごさなければいけなくなる。

 そのことを指摘したナルはベッドは女性に譲りなさいと諭されたのだ。


「……軟禁ってさ、もうちょい待遇よくするもんじゃねえの? 」


「これ、まだ破棄してないよ」


 そう言ってちらつかせたのはナルの逮捕状だ。

 罪状は違法薬物の売買と記されているが、この男の指先1つでそこに新たな罪状をかき込むこともできる。

 なんということか、王都に着く前から権力と戦わなければいけない状況に持ち込まれてしまったとナルは頭を抱える羽目になったが自業自得である。


「酒が飲みたい……」


「酸化してるので良ければあるけど」


「酢じゃねえか……」


「あとは消毒用」


「……もうそれでいいから持ってこい、今日は死ぬほど酔いたい気分なんだ」


 工業用だろうが消毒用だろうがアルコールであることに変わりはないのだ。

 ならばもういっそ何でもいいと諦めたナルはそれを要求した。

 今夜の晩餐でグラスには消毒用アルコールが並ぶという異様な光景が待ち構えているだろう。


「わかった、あとで手配しておくよ」


「それとあんたの名前、知ってるけどまだ聞いてねえぞ。重役なら名乗れよ」


「あぁ忘れていたよ。僕の名前はエコー、よろしくね」


「よろしくしたくないからお前の事は先代って呼ぶ事にする」


 自己紹介を求めておいて無視するという程度の低い嫌がらせを実行したナルだったがそれで構わないとあっさり交わされてしまうのであった。

 非常にやりにくい思いをしながらも禁酒禁煙という事態に追い込まれなかったことに内心安堵する。

 これから一切の娯楽を捨てて王都出発までの日々を過ごすとなるとそれはまさしく地獄である。

 ミーシャを待ち構えている地獄とはまた別の物だが、どちらの方がましかと問われればナルは間違いなく特別訓練地獄編とやらを選んだだろう。


「それじゃ、ごゆっくり」


「……はぁ、超めんどくせえ」


 ようやく一人になれたとため息を吐いたナルは無駄に柔らかいソファーに腰かけてタバコに火をつけた。

 ここ最近個人行動をとる事は多かったが、しかし一人で過ごす夜というのは久しぶりである。

 その事をここにきて実感したのだった。


「おーい、誰かいねえか」


「呼んだかい? 」


「チェンジ」


 ナルの問いかけにこたえるようにエコーがドアを開ける。

 すぐさまそれを排除しようとしたナルだったが、エコーは忘れていたと付け加えて先ほどまでちらつかせていた逮捕状をナルに手渡すのだった。


「これを君に預けるよ。信頼の証としてね」


「本当に胡散臭いなお前……」


「よく言われるよ、それで何か用があったんじゃないかな」


「俺の荷物がどうなっているか聞きたかっただけだ、無くとも今日一日困る事は無いが落ち着かないんだよ」


「あぁそれも後で届けるから安心して、例の違法薬物も押収したりしないから……でも」


「出所だろ、そっちも掴んでるんだろうが」


「うん、でも証言も必要だからね。ここで証言すれば君は軍の協力者で潜入捜査の手伝いをしていたってことにできるから」


「くそ……掌で転がされてるのが本当に腹立つな」


 ペースを握られている事に腹を立てたナルだが意趣返しすら難しいこの状況、下手な事をすればナルは自分の首を絞める事になりかねない。

 あらゆる面で飢えをいかれてしまった事に頭を抱えていた。


「それじゃ、改めてごゆっくり。何かあったら外に護衛を置いておくから彼に言いつけてね」


「……あぁ」


 気に食わないが、しかしここでの生活は比較的快適そうだと気を取り直して部屋を見渡す。

 そしてすぐに委縮した。

 生まれは田舎町、育ちは英雄の反乱で作られた村、そこからの生活は路地裏での寝泊まりから安宿を転々とする毎日、これほど豪勢な部屋に泊るのは初めての経験であり、あまりの広さに圧迫感すら覚えていた。


「……禁酒禁煙で馬小屋か、酒と煙草の為にこの部屋か、どうしよう、マジで悩む」


 究極の選択を勝手に作り出していたが、誰であろうと後者を選ぶだろうそれを選択肢とは言わない。

 その事に気付いていないナルは立派な小市民だった。


「……グリムの為にも我慢するか」


 煙草を一本吸い終えるまでじっくりと考えたナルはようやく結論を出した。

 それは他でもないグリムの事を案じての物であり、またうっかり馬でも切り殺したら洒落にならないという冷静な判断も付け加えての物だった。

 常識的に考えればナルだけが馬小屋に行きタバコを吸う時だけここに来ればすむ話だが、さんざん心を乱された後ではそこまでの考えに至らなかったのである。

 そもそも獣騎士隊が禁酒禁煙なのは馬が臭いを嫌がるという物だが、戦場では傭兵やほかの部隊も同じ場で過ごす事になるため日頃からある程度の臭いには慣れさせている。

 ナルのような禁酒禁煙とは縁の遠い人物を訓練に同行させたり、他の部隊との遠征、今グリムが出ているような共同戦線といった形式から街の巡回まで全てが馬の訓練でもあるのだ。

 故に多少酒やたばこの臭いを漂わせる程度であれば馬たちは数日寝床を共にしても精神や体調を崩すことはない。

 だからといってリオネットがそれをどう思うか、また先日のミーシャの一件に合わせて違法薬物売買という前科のあるナルがそこまでの自由を謳歌していたら他の隊員がどう思うかという部分も含めてエコーはこの部屋に押し込めたのである。

 あくまでも賓客という扱いにすることで不平不満を抑え込んだのだ。

 そこにナルの意識は関係なく、むしろ多少苦しめという嫌がらせも含んでいる。

 なにせ法を犯したのだからその程度は当然という物だ。


「やっぱりあの男、嫌いだわ……」


 どうにか精神の均衡を取り戻したナルは、ようやく一連の流れを理解して納得して、そしてエコーに対する評価を固定させたのだった。

 そんな時である、豪奢な扉を叩く音が広い部屋に響き渡った。


「どうぞ」


 にべもなくそう返したナルは部屋に入ってきた人物を見る。


「ふむ、元気そうだな犯罪者」


「そうだな、お前の想い人に連行されて心中穏やかではないけどな」


 リオネットである。

 開口一番ナルの事を犯罪者と呼ぶ口元はひくひくと震えている。

 思わず漏れそうになっている笑みを隠しているのだろう。

 手には消毒用アルコールと布に包まれた何かを持っている。


「まぁ、あの人は確かにお前とは合わないだろうと感じていたが……」


「合わないと思うならお前が連行してくれたらよかったのにな……ここ百年であんな面倒くさい男初めてだぞ」


「お前も大概だと思うぞ、しかし怪我でもしたか? お前に消毒が必要とは思えないが」


「飲むんだよ、酢しかないって言ってやがったからなあの野郎」


「……いや、構わないが大丈夫なのか? 」


「酔えれば何でもいい」


 そう言ってひったくるように消毒用アルコールを受け取ったナルはその中身を口の中に流し込み、嚥下した。

 味は言うまでもなく不味い。


「ふぅ……」


「まさか本当に飲むとは思わなかったが……これを総括から預かってきていたんだがな」


「なんだそれ」


 差し出されたのは布に包まれた物体。

 丁寧な手つきで布を剥がすとそこには高級そうなワインがあった。

 20年物のそれは埃が被っているが、それこそが長年保存されていた証拠と言わんばかりに存在感を醸し出していた。


「これ……高級品じゃねえか! なんでこんなとこに! 」


「いやだから総括が持って行けと酒蔵から取ってきたのだが……」


「詰所は禁酒だろ、なんで酒蔵なんかあるんだよ……」


「貴族との晩餐会なんかもあるからな。それに詰所は禁酒だが馬に携わらない者に禁酒禁煙の規則はないぞ」


「なん……だと……? 」


「一般職員にまで軍の規則を押し付けるわけにもいかんだろう」


「くそ……いや、まて。なら一般職員用の宿舎は酒も煙草もいいのか? 」


「その質問をされたらこう答えるように言われている『残念ながら一般職員用の宿舎に空きは無いんだよねぇ。如何せん人が多いからさ』だそうだがどういう意味だ? 」


「あの糞野郎……俺に何のうらみがあるんだ……」


「恨みはあるぞ、先日の暗殺未遂で軍がふがいないと市民からも上層部からも怒られて、更にその当人が違法薬物売買に関わっていたという事で揉み消しだのなんだのと今は寝食の時間も惜しいと仕事に追われているようだ」


 その言葉を聞いた瞬間ナルの体中から汗が噴き出した。

 暗殺未遂の剣はナルとグリムが対処しなければ大惨事になっていたから感謝されるべき立場だが、その恩人とも言うべき相手が犯罪者で、更には昼間の占いである。

 自分が起こした一件が原因であるにもかかわらず仕事は上昇運だけど上と下からせっつかれているんじゃないかと図星を付いてしまったのだ。

 それは不評も買うだろう。

 その事に気付いて愕然としたのだった。


「やっべぇ……どうりで敵愾心丸出しなわけだ」


「いや、あの人はいつもあんな感じだぞ。いい気はしていないだろうがそれを表に出すこともない。いつも飄々と相手の嫌がる所を突いてくる」


「お前……男の趣味悪いぞ」


「性格だけ見れば惚れるような相手ではないな。しかし顔が好みだった、ひとめぼれというやつだな」


「おまけに人を見る眼もなしか……大丈夫なのか? 獣騎士隊」


「いまだに人事関連はあの人が握っているからな。私がその辺りまで任されていたらとっくに解体されている」


「だよなぁ……冷めたりしないのか」


「しないな、不思議な事に」


「本当に不思議だな……」


 そう言いつつもナルはある確信をもっていた。

 リオネットの恋愛感情がいまだに冷めていない理由は根底にある強力な力のつながりが原因である。

 つまりカードだ、おそらくはエコーが一線を退く際にカードをリオネットへと譲渡したのだろう。

 その繋がりこそがリオネットがエコーへ向けている感情を熱し続けているのだ。


「まぁいいさ、それより今はこのワインだ……そういえば酸化している酒とはいったが酢とは言ってなかったな」


「嘘は言わないが本当の事も言わない人だからな」


「なんかお前の事が不憫に思えてきたよ……」


「そうか、ならば今後は違法行為は慎んでくれ。あれで少なからず私の仕事も増えたのだ」


「必要な事だったんだって、グリムの抱えている問題についてはどれくらい知っている? 」


「それなりに、浅い付き合いではないからな。毎晩うなされているというのも、その理由も大体は聞いている」


「ならいいか、俺が買った薬は睡眠薬としての効能がある。この国で売られてるのは特別効能が強いから御禁制なんだろうけど、他の国じゃ医者が進めるくらいにはありふれたものだ。それでグリムが悪夢を見ない程深い眠りにつかせているんだよ」


「そういう理由ならば……いや、しかし法は法だからな……言ってもらえれば此方で代用品くらいは用意したんだがな」


「無理だな、少なくともグリムには薬煙草を吸えばよく眠れるという思い込みもある。それを利用して徐々に薬の量を減らしているんだ」


 プラシーボ効果を利用した治療の一環であると言い切るナル。

 しかしそれほど医学に詳しいわけでもないので今のところその試みはうまくいっていない。

 そもそも薬の効能にムラがあるため、調整が非常に難しいのだ。

 他人に任せるわけにはいかないと日夜微調整を繰り返していた。


「友人のためにそこまでしてくれている事には感謝しなければいけないな」


「そうしなきゃ俺が切られるんだよ」


 試すわけにもいかず死蔵している薬の量を減らした煙草もあるが、下手をすれば部屋を血で汚す事になる。

 その上グリムにも嫌な思いをさせる事になると有ってはさすがのナルもおいそれと試しになんていう事をするつもりになれなかった。


「素直ではないな。だが、そういうのは嫌いではないぞ」


「浮気するなよ、やけどするぞ」


「私にも相手を選ぶ権利はあるさ」


「そうかい、まぁなんにせよ俺も先代もいい男じゃないからやめといたほうがいいぞ」


「君は論外だから安心しろ、総括に関しては……どうしたものか自分でも悩んでいる所だ」


「その結果が極秘情報扱いか、みんな大変だな」


「あれは……その、酒の場で漏らしたという事を問題視してだな」


「本音は? 」


「人の恋愛事情を酒の肴にしたことが許せん」


 その言葉にナルは思わず噴き出した。

 つられてリオネットも小さく笑う。

 少し和やかな雰囲気になったところでリオネットがワイングラスを二つ棚から取り出した。


「なんだ? 飲むのか? 」


「あぁ、明日は久しぶりに休暇を貰ってな。総括からせっかくの機会だから酒を経験しておくように言われたのだ」


「お、初体験か」


「言い方がいやらしいぞ」


「それはお前の心が汚れているだけだろ。他意は無いのに勝手にそう感じたんだから」


「本当に嫌な奴だな、君は」


「先代のあの男には負ける」


「む……否定できないのがまた悔しいが、せっかくの酒だ。楽しく飲ませてもらうとしよう」


「おう、こんないい酒をつまらない話で濁すのも勿体ないな」


 そう言って少量グラスに注いだナルは手の平で温度を確かめる。

 そしてグラスを回して空気を含ませ、鼻を近づけて香りを楽しんだ。

 リオネットも見様見真似で同じ動作を行い、そして頬を緩める。


「いい香りだな……」


「あぁ、こいつは古いワインだが熟成は完璧だ。同じもの買おうとしたら目が飛び出るような値段になるぞ」


「それは困ったな、今後飲む機会があってもこれが基準となってしまうと楽しめそうにない」


「禁酒なんだから問題ないだろ。さて……」


 一口、ワインを口に流し込む。

 先程の消毒用アルコールがまだ口内に臭気を残していたが、それを全てかき消すようにワインの風味が押し寄せる。

 少し酸味のある味だが、甘みが強い。

 渋みは抑えられており、じんわりとアルコールの風味が後から続いてくる。


「美味い……」


 思わずこぼした言葉に、リオネットも無言のまま頷く。

 目を細めて初めて飲む酒の旨味に酔いしれている。


「あぁ、香りが豊かで味の奥行が素晴らしい……やはり今後は酒の味で苦労しそうだ」


「だな、俺もしばらくは困るかもしれん」


 そんな事を言いながらも、おそらくナルは明日になれば安酒でも満足できるだろう。

 膨大な時間というのは感動を一時の物で済ませて日々を楽しむための感覚を鋭敏にしていた。

 そうしなければ生が苦痛だと知っていたからだ。


「……リオネット、ちょっとペース早くないか? 」


「そうか? 」


 最初の一口を飲んでから何度も酒を注ぎなおしているリオネットにナルは顔をしかめる。

 高い酒の楽しみ方ではないし、酒を飲むにしてももう少し考えて飲まなければ味が分からなくなる。

 しかし残念な事に初めて酒を飲むリオネットにそのような配慮はできなかったのだ。


「うむ、美味いな……む、無くなってしまったか。もう二,三本持ってきてくれ」


「おいおい、いいのか? 」


「かまわん、大隊長命令だ」


「……酔ってるのか? 」


「いたって普段通りだぞ、少し気分が高揚しているがなにその程度の事だ」


 口ではそう言ったものの、リオネットは完全に酔っていた。

 ナルは以前グリムに酒を飲ませなかった時の事を思い出す。

 あぁ、そういえばあの時は身の危険を感じて飲ませなかったんだったと記憶を探ったナルだったが、目の前の酔っぱらいにそのセンサーは働かなかったらしい。

 あるいは、もしかしたらこれもエコーの意趣返しなのかもしれないと嫌な考えを振り切ってせっかくなのだからと自分も飲むことにした。

 そしてそれから数時間後。


「だから私は常々言っているのだ! 騎士たるもの酒も煙草も控えるべきだと! 身体が資本なんだぞ! それを自ら壊すというのはだな! 」


 リオネットはすっかり出来上がっていた。

 対してナルはと言えば、不老不死という肉体が災いしてか一定以上のアルコールを摂取すると酔いがさめてしまうのだ。

 文字通りの意味で死ぬほど酔うとアルコールが毒と認識されて即座に無効化されてしまうのである。

 結果。


「酒も煙草も心を満たしてくれるだろ……」


「そんなものは気合いだ! 」


「いやそれグリムの前で言えるのかよ」


「グリムは騎士ではないからいいのだ! 騎士になったならばそれ相応の覚悟というのをだな! 」


「でもお前今べろんべろんに酔ってるじゃん」


「酔ってない! 」


 素面に近い状態で酔っぱらいの相手をしなければいけないというある種の拷問を受ける事になっていた。

 すでに空になった酒瓶は七つ、ナルがグラスに注ぎながら飲んでいるのに対してリオネットはその膂力でグラスを粉砕して代わりを用意するのも面倒だと直接瓶から酒を煽っていた。


「その辺にしとかないと明日つらいぞ……」


「何を言うか、私はまだまだ飲めるぞ! もう一本持ってこい! 」


「まじかよ……」


「マジだ! さぁ今夜は飲み明かすぞ! 」


「……おーい、あるなら度数がきついのもってきてくれ。面倒だからさっさと酔い潰させて寝かせる」


「なんだと! 私が酒に負けるというのか! 」


「あーはいはい、リオネットは酒には負けないよな、わかってるわかってる」


「そうだ! 獣騎士隊大隊長リオネット中佐はこの程度では負けんのだ! 」


「……俺、明日から酒控えようかな」


 他人の醜態程薬になる物はない。

 リオネットが晒している姿にナルはため息を漏らすのだった。

 それから数時間、夜も十分に更けた頃にようやくリオネットは酔いつぶれた。

 熱いと言い出して鎧を地面に投げ捨て、私が強いという事を教えてやると剣を振り回して出鱈目な型を見せて、更に熱いと言って服を脱ぎ始めようとしてナルが【力】のカードを使ってまで抑え込み、そしてどうにかこうにか酔いつぶれたリオネットを前に一服を済ませたのだった。


「……さて、どうしたもんかな」


 考えても見ればリオネットの寝室は獣騎士隊用の物だ。

 そこは禁酒禁煙はもちろん、臭気を漂わせることさえも厳禁とされている。

 更に先日休日の飲み歩きを禁止した手前、上官命令とはいえ酔いつぶれたリオネットをそこへ運び込むのも問題である。

 となれば自ずと結論は一つしか残されていなかった。


「ソファーか……」


 リオネットを抱きかかえて布団に横たわらせたナルは何度目かのため息を吐きながらドアの外にいるという護衛に毛布を要求してソファーに横たわったのだった。

 一つある事実を見落としている事に気付かないまま。

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