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チェス

「さて、と……まずはあんたか」


「おうよ、130万貰えて店の物買って言ってくれるなら俺は大儲けだぜ」


「勝てたらな」


「負けるつもりで勝負に挑む奴はいないだろ? 」


「そりゃそうだ」


 そんな軽口を叩きながら、男の用意したチェス盤を見る。


「じゃあ、白を貰ってもいいか? 」


「いやいや、その手には乗らねえぞ。ここは街の協定に従いじゃんけんで決めようぜ」


「そうか、ならせめて俺の手間を省く手伝いをしてくれるか? 」


「手伝いってなんだ」


「いやなに、人が多いんでな。1手30秒の早指しにしてもらえないかって思ってな」


「30秒過ぎたら? 」


「その場で負けだ。時間はこいつが教えてくれる」


 そう言ってナルは懐から海中時計を取り出した。

 比較的新しい物だが、この辺りでは……悪い言い方をすれば田舎町では早々お目にかかれない物である。

 そもそも時計は貴族階級でしか必要ない物であり、あるいは大都市の鐘撞きが下賜されるほどの物品である。

 それを平然と取り出したナルは再び煙草を抑えるように口元に手を当てる。


「条件を飲むなら、勝てたらこいつも持って行っていいぞ」


 そう言ってコツコツと時計を叩くナルは悪魔のような笑みを浮かべていた。


「乗った! ……ええ、時計ってどうやって見ればいいんだ? 」


「このカチカチ動いてる針、これが一回進むと1秒。半周で30秒だ」


「ほう……」


 そう言いながらじゃんけんをして先攻後攻を決める。

 結果、ナルは先手の白を取ることができた……が、【力】のカードを応用して動体視力の強化によるいかさまの結果である。


「秒針、このカチカチ動いている針がてっぺんに来たら1分進む。60進法って言うらしいがまぁそれは忘れていい。あと10秒で開始、そしたら俺は30秒以内に打つ」


「60進法ね……そんじゃよろしくお願いします」


「あぁ、よろしく」


 そう言ってナルは秒針が頂点に達すると同時に、煙草を落として新たな煙草に火をつけた。

 それから時間ギリギリの25秒のタイミングで駒を進めた。


「そうだ、30秒目で駒を掴んでいたならそれを動かせば負けにはならんと言うルールを加えようか」


「悪くない、それなら打ってる途中で負けるということは無いな」


「そうそう、30秒経つ前に打たなきゃいけないとなると面倒もあるからな」


 勝負が始まってもナルの軽口は止まらない。

 男が10秒ほどで1手進める度にナルは20秒以上の時間をかけて駒を動かす。

 時に悩むように駒を摘まみなおしては動かし、時に頭を掻きむしりながら手を進め、そうしているうちに勝敗が見え始めていた。


「チェック」


 ナルが先にチェックを仕掛ける。

 つまり優勢なのだ。

 対戦相手の商人は苦々しげな表情のまま30秒をたっぷり使いキングの駒を逃がす。

 直後、3秒とかからずにナルが駒を動かし宣言する。


「チェック」


「な……」


「どうした、驚いている時間は無いだろ」


「ぐっ……」


 再び30秒、そして3秒とチェックが続けられ徐々に逃げ道は消えていき……。


「チェックメイトだ」


 ついに勝負はついたのだった。


「あーくっそ……負け分の支払いは商品でいいか? 」


「あぁ、おたくは何屋さんだ? 」


「肉屋だ、干し肉なんかもいいのを揃えているぞ」


「へぇ、とっておきをくれるなら負け分は安めにしてやるよ」


「参ったなぁこりゃ……かみさんにどやされる」


「ははっ、欲に眼がくらんだな」


 かんらかんらと笑うナルは商人と握手を交わし次の対戦相手と相対した。

 今度の相手はトランプを手にしていた。

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