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野良試合

 街へ買い物へ出た4人だったが、問題はすぐさま発生した。

 いかんせんここ数日でグリムもナルも、そしてその付き人としてリオネットも有名になっていた。

 正しく言うならばリオネットはカモとして有名になっていたというべきだろうか。


 定石を正しく使い、時には当たり前のように定石崩しを行い百戦錬磨のグリム。

 奇抜な手、いかさますれすれの手段で場を盛り上げるナル。

 そして、定石通りでありながら攻め一辺倒のリオネット。


 いずれもそれなりの実力者ではあるが、三者三葉に負けることもある。

 その中でナルはあっさりと負け分が込む前にその場から逃げ出すか、あるいは卑怯な手段で無理やり勝利をもぎ取っていく。

 グリムは一度負ければ二度と同じ手段は通じないと言わんばかりに負けた数倍、数十倍の勝利をもぎ取る。


 そしてリオネットは、負けると熱くなるという難儀な性格のせいで一度でも勝つことができればそのままずるずると勝ち続けられるため三人の中ではこの街で一番負け越している人物だった。

 そんな三人が、正確にはサキもいるわけだが街中を歩き回っていて目立たないはずがない。

 やれ再戦だ、やれ勝負だと方々から人が集まり人だかりができてしまったのである。


「やれやれ……買い物しようと思っていたんだがなぁ……おい、この中に商人いるか? 」


 頭を掻きながら、ナルはふと思いついたように声をあげる。

 それに反応するように何人かが名乗り出てきたのをいいことにナルは笑みを浮かべる。


「ナル、悪い顔してる」


「あぁ、碌でもないことを考えている顔だな……」


「絶対酷いことするよねあの人……」


 女性陣が冷たい視線を送る中でナルは一人交渉を始めていた。


「つーわけで、あんたら優先的に勝負してやるから割引してくれよ。掛け金の代わりに商品を譲ってくれるって話でもいいぜ」


「負けたら定価で買ってくれるのかい? 」


「おいおい、優先の条件が割引だぜ」


「それじゃあ俺は順番を待つことにするね」


「まぁ待てって、俺らあと数日でこの街は慣れるから順番待ちしてたら勝負の機会を逃す事になるかもしれねえぞ? 」


「俺はギャンブラーだからな、あんたらの滞在中に順番が回ってくる方にかけるよ」


「そうかい、じゃあ他の人はどうだ」


「乗った」


「1割引きで良ければその条件を飲むぞ」


「うちは2割引いてやるから最優先でな! 」


「あ、ずりいぞ。うちは……2割5分だ! 」


「まてまて、あんまり値引きしても怒られるだけだろ。最大2割5分、今出てるこれを最高にして4人以上最大割引してくれるって人がいたらじゃんけんで決めてくれ。それ以降は各々好きな方法で順番を決めてもらう。それでいいか」


 その言葉に全員が両拳を掲げて喝采した。

 そしてすぐさま商人たちは持ち前の交渉力で周囲の人間を説き伏せ始めて、そしてナル達は道の端でその様子を眺めながら順番が決まるのを待っていた。


「いやぁ、カモがネギ背負ってきたって言うんだっけか? こういうの。ちょろいわぁ」


「……たまに君の事が恐ろしいく見えるよ」


「なに言ってんだ、俺ほど人畜無害な男を捕まえて」


「その人畜無害さんとやらはどこにいるのか教えてくれないか。私の目には行く先々で暴動や暗殺に関わる悪党しか見えないんだが」


「そんな酷い男がいるのか。リオネットそいつから逃げた方がいいんじゃね? 」


「国の命令で逃げられないのを知っているだろ……この冷血漢」


「暴動に暗殺って……この人そんなに危ない人なの? 」


「……初対面で抱きしめられた」


「え、まじ? その上ロリコンなの? やばいじゃん、なんでこんな人とパーティ組んでるの? 」


 リオネットと軽口を叩いている間にグリムがナルの評価を地に落としていた。

 そんなことはつゆ知らず、ナルは煙草に火をつけて時間を潰していた。

 主にリオネットをからかって。


「おし、順番決まったぞ兄ちゃん! 」


「おー早かったなぁ」


 ちょうどタバコを吸い終えたころ、人だかりは三つの列になっていた。

 どこから持ってきたのか彼らの手には紙切れが握られている。

 よく見ればそこには順番が書かれていた。


「後はあんたらがサイン入れてくれ。それで正式な整理券として使えるように話はまとめた」


「へぇ、手際もいいな。よしよし、テーブルの代わりになる物とペンとインク持ってこい」


 そう言って用意された木箱の前に腰を下ろしたナル達は100枚近い整理券にサインをしていく。

 普段書類に携わることのない、つまりは自分の名前を書く機会もほとんどないグリムが一人苦戦していたがナルとリオネットは物の数分で全てにサインを終えて勝負を始めていた。

 ルールは事細かに決められており、勝負は知っているゲームに限るという前提条件と合わせて一回こっきりの再戦はなし。


 勝負に参加できるのは今日この場で整理券を受け取った人間に限り、ナル達はそれ以外の野良試合は避ける。

 そしてこれは主にリオネットのために設けられたルールだが、勝負を受ける側が再選を挑んでもそれは無効とするという物。


 他にも整理券の譲渡や売買は可、賭け金の代わりに使う事も良しと言う事で一部の人間は小遣い稼ぎにそれを利用としている者もいた。


「なるほどね、悪くない……ところでこの勝負で金を賭けるのは有りか? 」


「常識の範囲内ならな」


「へぇ……俺に最初に勝てた奴には130万払うぞ! その代わり負けたら1万もらうからな! 」


 唐突な宣言にナルの整理券を持った者達がざわつき始めた。

 ただのお遊びと思っていたところに不意打ちを食らったため、皆が皆うろたえている。

 早々に勝負を諦めてそっちにしておけばよかったと頭を抱えている者に整理券の交換を持ちかける者、130万という大金に目がくらみ鼻息を荒くしている者、思考が追い付かずに呆然としている者。

 様々な反応を見せる者達を眺めながら、新たに取り出した煙草を摘まんでいる指の下でニヤリと口角をあげるのをサキだけが見ていた。


「……ねぇ、なんでこんな人と一緒に旅してるの? 」


 そして改めてグリムに、そしてリオネットに尋ねるのだった。

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