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タロットカードの導き~愚者は死神と共に世界を目指す~  作者: 蒼井茜


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決勝前

「で、あと何回戦えばいいんだよ」


「喜ぶと良い、次で最後じゃ」


「そりゃ本当に喜ばしいな」


 準決勝まで残ったという実績、それだけでもナルはチェスの駒として十分な働きをしたという事になる。

 つまりここで棄権しても何の問題もないわけである。

 とはいえ先程の準男爵の件もあり流石にここでそれを反故にするつもりも無かった。

 見ず知らずの人間のためではなく、自分の保身のためである。


 あの場でシルベニア準男爵を殺していれば背後にいたカエル公爵が騒ぎ立ててナルを追い詰めようとしたことだろう。

 そうなればナルは面倒ごとに巻き込まれることになる。

 だからこそ、邪魔なカエル公爵を先に殺したのだ。

 そして後に残ったのは主を守れなかったという汚名を被った準男爵ただ一人。


 彼の言い分を聞いてくれるような人間は存在しない、加のように思われた。

 しかしナルの口聞きでシルベニア準男爵は新たな雇用主を得た。

 それが老齢貴族であり、改めて公爵家につかえる騎士となったのである。

 これによりカエル公爵の不審死、シルベニア準男爵の口封じ、強力な駒を得た老齢貴族、身辺を疑われないナルという構図が出来上がったのだった。


 そもそも裏賭博に足を運んで死んだともなればそれは不名誉な死であり、下手をすれば家を傾けかけないほどの事であるため、よほどのことがない限り公表はされないだろう。

 おそらくは病死とされるが、それもあの肉の塊のような体系ならばさもありなんで片付くのだろう。

 そう思えばナルは幾分か落ち着きを取り戻す事ができた。


「決勝の前にだ、面倒だからここにリオネット連れてこいよ。今頃半べそでグリムを探してるだろうから」


「ふむ、いいじゃろ。すぐに手配する」


「特等席で見せてやれよ。グリムと並べてな。ただ間違っても勧誘とか脅迫なんて真似はしない方がいいぞ。下手したら国際問題になる」


「……ほう」


「グリムと一緒にいたデカいの、あれレムレスの人間だからな。それも結構な地位の人間だぞ」


「なるほどのう……」


「それと、さっき俺が倒した死神っているだろ。あれ偽物で本物はグリムだから。これは秘密にしとけよ。どっかで漏れたら殺しに行くぞ」


「……まっこと、恐ろしい男じゃのう」


 もはや隠し立ても面倒くさいと情報を吐き出し始めたナル。

 それは裏を返せばお前らはいつでも殺せるという意思表示であり、同時に貴族たちに首輪をつけた事になる。

 彼らが今回得た情報を一切公開しなくてもその手の情報が流れればもみ消さなければいけない。

 さもなくばナルが殺しに来るという構図を作り上げたのだ。


 結果としてナルはわずかばかりの情報を吐露しただけで身の安全を得ることに成功したのである。

 なによりも、リオネットの情報は少し探ればすぐにわかる物でありグリムに関しても傭兵や酒場で管を巻いている人間を当たれば簡単に行き着く程度の内容でしかない。

 そもそもあの二人を狙う理由が、世間的に見て薄いというのも大きい。


 加えて言うならばナルの情報はチェスの幹部と言う事しか知られていないのだ。

 裏組織の人間とのつながりがあるというのは貴族にとっても隠しておきたい事実である。

 結果的に老齢貴族たちはナルを守らなければ自ら破滅することになるのだ。


「で、最後の相手は? 」


「ふむ、魔法剣士と聞いている」


「魔法剣士……よく決勝まで残ったな。裏工作でもしたか? 」


 本来剣士は剣を、魔術師は魔術を磨くことで類稀なる戦闘力を身に着ける。

 その両方を修める事ができればそれは最強と言ってもいいだろう。

 ただし理論上ではという話であり、実際にその道を目指したものの大半は中途半端な魔術師と中途半端な剣士という劣化品にしかなれないのだ。


 大抵の場合はどこかで諦めて剣か魔術、世間的には習得の難しい魔術を諦めて簡単な魔術を扱える程度の剣士に収まる物だ。

 それが決勝まで生き残っているというのはナルにとっても意外な話だった。


「お主に関してはそれなりの工作はしたが、その者は誰も触れておらんよ」


「……ってことは、まさかとは思うが本物か? 」


「試合を見る限りは、だがな」


「まじか……」


 本物、つまり魔法も剣も達人と呼んで差し支えない実力を身に着けているという事実。

 少なくとも裏賭博の闘技場で偽物の実力者はいなかった。

 偽死神や偽怪力は薬の力で人間を辞めているのではないかと言う戦闘力を見せていたし、マジャクに関してははっきりと人外の戦闘力、グリムも神の名を冠する二つ名持ちだ。

 暇つぶしに眺めたいくつかの試合も決して侮れない実力者が揃っていたと考えているナルは面倒くさそうに煙草に火をつける。


「……速攻、かねぇ」


「定石であるな」


 魔法剣士の対抗策は速攻に限る。

 近づけば剣、離れれば魔術でと翻弄してくる相手にはアクションを起こす前に倒してしまうのが一番の近道であり最善策だ。

 だとすればナルの考えは一つに絞られた。


(【悪魔】……あまり使いたくないんだよな……。でも【力】じゃ少し役者不足だしなぁ……。同時発動の効果も副作用も、それに使えるという事実も分かったけど……まぁいざとなったらッてことで、仕方ないか)


 半ばあきらめたように【悪魔】のカードを見据えたナルは深いため息を吐くのだった。

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