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タロットカードの導き~愚者は死神と共に世界を目指す~  作者: 蒼井茜


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目的地

 トコトコと路程を進む事数日、ナルたち一行はアルヴヘイム共和国ミストレスの街の隣にあるホワイトアウトという街にたどり着いた。

 周囲に比べて比較的標高の高い位置にあり、冬になれば雪で視界が塞がれるという事から名づけられた街の名前に不穏な物を覚えながらも無事手続きを終えて街の中に入った一考。

 馬と馬車を指定された場所に停めて、必要な荷物だけを下ろして宿をとる事になったのだが……。


「安すぎる宿は安全面が不安だ! 」


「だからと言ってあそこは高すぎるだろ! 」


 二人の間では火花が散っていた。

 どの宿に泊まるべきかという論争が人だかりを呼んでいる事も気にせずに、街のど真ん中で口論を繰り広げる二人を街の住民は面白そうに見物している。

 その様子を尻目にナルはこっそりと思考を巡らせる。

 剣を持った兵士風の女と、同じく剣を持った男が口論をしているのに彼らの様子はどこか軽いものがある。

 普通の街であれば少なくとも兵士の一人くらいはこの場に駆け付けているはずだというのにそれもない。

 なにか、おそらくは多少のけが人が出ても問題ない程度の理由が存在するのだろうと当たりをつけたナルはカード保有者の身分をおおよそではあるが把握した。


「わかった、折衷案だ。俺が決めた宿、その二つ上のランクで手を打とう」


「む……しかしその額ならば……」


「リオネットが提示した所は食事も豪華な物だが、あれ食事代と宿代別に取られる店だからな」


「……グリム、どう思う」


「任せ、る」


「グリムが問題ないというのであれば、それで納得しよう」


 あえてランクを二つ上げた事でリオネットも納得したのだろう。

 ここで一つだけランクが上の物を選んでも納得していなかっただろうなと性格を把握しながらそれなりの宿に二部屋を確保した一行は一度集まってから今後についての会議を開いていた。


「俺は心当たりがないか探すから、お前らは自由行動でいいぞ」


「ふむ……しかし自由行動と言われてもな」


「この街は冬の間やることがないらしいから娯楽用品は充実しているらしいからな。新しいゲームでも買ってきたらどうだ」


「ほほう? 」


「四年に一回開かれる各国代表者のゲーム大会、あれの上位入賞者はこの国のこの街に集まっているくらい猛者が多い。どの分野でも相当なつわものがいるし、遊ぶための店も充実しているから暇つぶしには困らないはずだ」


「面白そうだな。グリム、このあたりでもチェスの腕前を披露してみてはどうだ」


「……強い人、戦って、みたい」


 殺し合いの類でなければという前提はあるものの、ここ最近グリムはゲームに関して貪欲である。

 相手を殺さずに勝利するという事に喜びを見出している節もあり、この様子ならば正式に傭兵を引退した後でもグリムの生活はそれなりに充実したものになるだろうと考えたナルは笑みを浮かべながら部屋を後にした。


(さて……カードの持ち主はともかくとして、遊戯が盛んと言うだけじゃなさそうだ。俺達の言い合いさえも楽しんでみていた連中の表情から察するに相当腕のいい医師もいる。正直【塔】のカードの持ち主が医者だとは考えにくいけれど……万が一と言う事もあるしな。何か情報があればそれだけでも十分だ)


 そう考えながら街の中を歩き回っていたナルは、先程の自分の言葉を反芻する。

 この街は遊戯が盛んである。

 ある種賭け事の街という側面を持っているため、方々でチェス盤やトランプを使って人々が笑いながらそれらに興じていた。

 ならば、ナルがやることは一つである。


「さぁさぁ、次の挑戦者は誰だ! 」


 そんな風に声を張り上げて客を呼び込む店舗をいくつも見かけ、その中からナルが得意とするゲームを見つけ出して前へと躍り出る。


「おや、見ない顔だ。旅人さんかな? 次の挑戦者が現れたぞ! 」


 目の前に置かれたのはチェス盤。

 いつも通り、腕自慢の男を相手に適当に遊んでこの街の人間がどこまで打てるのかを試そうと考えての事だった。


 噂通りであれば、そこら辺の人間を捕まえてもそれなり以上にナルを苦戦させるだろう。

 リオネットもここ最近はグリムの相手と指導を受けていたことから善戦はできるが、勝ち越すとなれば難しい。

 その事を念頭にナルは賭けを楽しむことにした。


 初めのうちは金を賭ければいいが、ある程度打ち解けたら会話術や、あるいは周囲への警戒心を高める事になってしまいかねないが賭けの対象としてそれらしい人物の情報を貰えれば重畳であると煙草に火をつけながら白のポーンを進めた。

 それから20分後。


「チェックメイトだな」


 ナルは宣言と同時にナイトの駒を動かした。

 黒のキングはどこへ逃げようとも次の一手で必ず打ち取られる位置に追い込まれてしまい、なすすべなく敗北、白の駒を持っていたナルの圧勝にも見えたが内心穏やかではない人物が二人。

 片方は黒の打ち手である男、全身から脂汗を流している様子はいかにも余裕がないといったものであり、ここまで圧倒されてしまえば全面的に負けを認めざるを得ない。

 もう片方はナルである。


(あ、あぶねえ……本当に強いわ……レムレスの爺なんか鼻で笑えるくらいに強い……途中揺さぶりかけて、そこでミスしてくれなければ負けてた……)


 ナルが得意とするのは盤外戦術。

 チェス盤の外で行われる舌戦である。

 加えて悪手を用いた誘いで相手を油断させたところで、背後から一突き。

 その戦法が上手くはまってくれたからこその勝利だった。


 まさしく綱渡りだったが、何本目かの煙草を吸い満足げに賞金を受け取ったナルは再び次の店を目指す。

 すぐに作戦を変更したのだ。

 このまま同じ相手と何度も打ち合えばいずれナルは負ける事になる。

 それほどに手ごわい相手がひしめいていると理解した以上、一か所にとどまるのは危険と判断していきさつを見守っていた人間の顔を覚えてから別の店へ足を運び、賞金を荒稼ぎしていった。


 その結果、ナルの噂はたちまち街中に広まることになった。

 その晩帰ってきたリオネットとグリムが、心当たりがあるといっておきながら遊び歩いていたナルに噂はどういう事かとにらみを利かせる事になるほどにである。


「まぁなんだ、向こうが尻尾をつかませないからこっちが誘いをな。有名になれば情報を集めるのも容易くなる。デメリットはこっちの情報が漏れやすくなることだが、知られて困るようなことはないだろ」


「ドスト、帝国の、暴動」


「あれは……俺じゃない誰かの仕業って事になってるから……」


「レムレス皇国の叙勲はどうだ」


「それはばれても問題ないだろ。むしろ箔がつく」


「ならば初めから共に行動すればよかったのではないか? 」


「今にしてみればそうかもしれんが、別個で動いた方がよさそうだと考えてたもんでな。まぁなんだ、暇なら明日は付き合ってやるから機嫌を直せ」


 反省などみじんも感じさせないナル。

 もとより反省する必要などないのだといわんばかりの態度だが、それも致し方なしとあきらめたように額に手を当てたリオネットは部屋に戻り、グリムは昼間遊び歩いた熱が残っているのかナルにチェスを申し込んできた。

 結果は、ナルの惨敗だった。

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