エピローグ
数日後――。
「営業中」のプレートがぶら下がった扉を開け、道具屋の中に入る。
オヤジはいつも通りカウンターで雑誌を読んでいたが、俺に気づいて顔を上げた。
「おう、坊主か。これ読んだぜ」
そう言って読んでいた週刊情報誌を広げて見せてくる。
俺が浮気されたことが記事になっているようだ。
先日、朝刊でクソ女の不貞が報じられてからは、この手の記事がよく出回るようになった。
どれも同じような内容だから、どんな記事かは想像が付く。
まあ、一応見てみるか。
どれどれ、
『裏切られた悲劇の勇者』
予想通りの内容だ。
他の記事は、
『大貴族の戦争を、間男を奴隷に落としただけで回避した勇者』
『女奴隷を死刑から守るために解放した、優しい勇者』
……相変わらずの内容だな。
すべて俺に対して好意的な内容で書かれている。
だが、これは俺が一方的に被害者に見える情報だけを渡してあるからだ。
件の映像までは渡してないが、十分だったようだな。
「坊主、昨日、あのオンナを見かけたぞ」
「……そうか」
曰く、死人のような目で、黒髪の人形を大事そうに抱え、ブツブツと何かを呟いていたらしい。首には首輪のつもりなのか、汚い布を巻いていたようだ。
ろくに飯も食えていないのか、やつれて別人のように見えたとのこと。
周囲の人々に罵声を浴びせられ、石を投げられても無反応だったらしい。
完全に廃人と化しているようだ。
「オレもあの時は殺すだの殺せだのとだ叫んだが、こうなると死ぬより惨めだな」
「そうだろうな」
微妙に反応に困る。
まあ、オヤジもあの女との付き合いは長い。
単純だがもともと情に厚い人だし、色々と思うところはあるのだろう。
本当にあのクソ女が死にそうになったら、助けてやる気なのかもしれないな。
教会とかに放り込めば死にはしないだろう。
あの女の精神を壊した張本人である俺が言うことじゃないが、あの女が壊れたままでいるか、立ち直れるかまでは知らん。
仮に立ち直っても、反省が無いようならもう一度潰すだけだ。
それからしばらく、オヤジと情報交換をしていたら、フィーユがやってきた。
「ゆうき様ぁ」
「ああ、フィーユ。迎えに来てくれたのか。それじゃ――」
「もう行くのか?」
「ああ」
なぜかフィーユは未だに俺の恋人役を続けている。
恋人がいないと縁談の話が引っ切り無しに来るから、その弾除けになってくれているのだろう。有難い気遣いだ。
とはいえ、それでも縁談の話は完全には無くならない。
最近、トーコ侯爵の押しがすごく強い。
このままだと負けそうだ。
さらに心配なことがある。
14才の少女が恋人役っていうのは俺の風聞が心配だ。
ロリコン認定を受けたら言い逃れ出来ない。
……まあ、大丈夫みたいだが。
「また来る」
「おう」
手短に別れを告げて外に出る、時刻は昼前ってところかな。
日差しが暖かい。
「飯でも食っていくか?」
「はい!」
今日は天気も良いし、風が気持ちいい。
明日も晴れるといいな。
フィーユと手を繋いで歩き出す――。
ここまで読んでいただき有難うございます。
これにて勇者様の復讐は終わりです。
離婚後って再婚できるか等の不安が付き纏いますが、勇者様にその心配はなさそうですね。羨ましいです。
次回はもう少しおバカな話を書いてみようかなと思います。
機会があればまたよろしくお願いします。
それでは