銀幕戦記 ~殉教者戦争編 第三幕
『狂犬部隊「ケルベロス」の招集』
極寒の雪原を必死の思いで走り抜け、大地獄連合の総本部施設へと命からがら逃げ戻った木島所長。
その衣服はボロボロに焦げ、全身煤まみれの凄惨な姿だった。
直ちに開かれた最高幹部会議の席上、木島は未だ震えの止まらない声で、身を以て体感した「三華」の圧倒的な恐怖を語った。
「重装甲歩兵が紙クズのように引き裂かれ、厚さ数メートルの防錆隔壁が内側から沸騰して爆縮した……。奴らは人間じゃねえ、完全に制御不能の『人体兵器』だ。今までの戦力じゃ一瞬で消される」
緊迫した沈黙が作戦室を支配する。
誰もが言葉を失い、生唾を飲み込む音だけが響く。
前線の要塞をわずか数分で大焚火に変えたあの圧倒的な狂熱。
それに対抗できる戦力など、いまの大地獄連合の正規軍には存在しない。
不条理な熱量を前に、木島は深くため息をつきながら通信機の暗号コードを震える指で入力した。
導き出された結論は、唯一つしかなかった。
「……あいつらを呼ぶしかないか……」
◇
翌日。
総本部最深部、重厚な鋼鉄の爆破防護扉が油圧の音を立ててゆっくりと開いた。
通路の奥から立ち上るのは、作戦室の温度を数度引き下げるかのような、肌を刺す緊迫した空気。
臨戦態勢の圧倒的な戦闘オーラを漂わせながら、闇の中から三つの影が一歩一歩、確実な足取りで木島へ向かって歩いてくる。
足音が近づくにつれ、室内の誰もが本能的な戦慄に身を硬くした。
檻から解き放たれた本物の狂犬──大地獄連合が誇る最凶の遊撃突撃隊『ケルベロス』が一堂に会したのだ。
「あー、木島さん久しぶりです! 俺たちを呼ぶなんて今回の任務はやばいってことですね」
先頭を切って歩み出たのは、黒いロングコートの奥に筋骨隆々の肉体を隠した東條十志ジュウだ。
獰猛な狼のごとき鋭い眼光をぎらつかせ、これから始まる死線を前に不敵な笑みを浮かべている。
【大地獄連合:遊撃突撃隊『ケルベロス』壱ノ犬】
東條十志 ── 別名:鬼壬生狼
・【兵器】 高周波超硬度振動メリケンサック / 己の拳
・【属性】 獰猛な豪傑・我慢強い熱血漢・筋肉フェチ
・【概要】 上司からは「東條」、同期からは「ジュウ」と呼ばれる男。両拳のメリケンサックのみで戦場を壊滅させる完全純ステゴロスタイルを貫く。鋭く勢いのあるツッコミが持ち味。
「ち~す木島さん、今日も渋いっすね!」
続いて姿を現したのは、冷徹な王子様の顔をした超ドS元ホストの脚フェチ・四ノ宮小辰(こたつ/別名:危鬼麒麟)。
ホストらしい軽いノリで手を振りながらも、その腰には特殊高周波隠れ刀『化ヶ猫刺し』が不気味に鎮座している。
【大地獄連合:遊撃突撃隊『ケルベロス』弐ノ犬】
四ノ宮小辰 ── 別名:危鬼麒麟
・【兵器】 特殊高周波隠れ刀『化ヶ猫刺し』
・【属性】 自信家・過敏症・超ドS王子様な元人気ホスト・重度の脚フェチ
・【概要】 チャラく軽いホスト特有のノリを崩さない、凄まじい脚フェチの男。
ジャラァ……
正式な挨拶もせず、最後尾からフリルと金属の鎖を鳴らし、首元に蛍光ピンク色のヘビ『毒林檎』を巻き付けた長身の塩顔イケメン、香村凛(リン/別名:朧白狐)が歩み出る。
その顔には、どす黒い歓喜を孕んだ不敵な笑みが張り付いていた。
【大地獄連合:遊撃突撃隊『ケルベロス』参ノ犬】
香村凛 ── 別名:朧白狐
・【兵器】 特殊自傷式衝撃チェーン『贖罪の鎖』 / 蛍光ピンク色のヘビ『毒林檎』
・【属性】 陰気な純粋マゾヒスト・パンクメンズゴスファッション・無口で不器用なツンデレ
・【概要】 フリルや鎖を纏うパンクゴス。無口で変な独り言が多く、ボソボソと短い自虐を呟く陰気な男。首元に飼い蛇を這わせ、常にどす黒い歓喜の笑みを顔面に張り付かせている。
「……よく集まってくれた」
木島は神妙な面持ちで彼らを見据えた。
そして、過激派武装組織『勇羅武ミー』への変異、人体兵器と化した『戦闘偶像ヴァルキリー戦線』の三華、あるいは基地を破壊し尽くされたこれまでのすべての経緯を、生々しい傷跡とともに吐き出した。
「なるほどねぇ……。防壁を内側から沸騰させて爆破、ね。血沸き肉躍るってのはこの事ですわ。正直、最近の訓練だけじゃ生ぬるくてつまらねぇと思ってたんですよ」
ジュウが両拳の高周波超硬度振動メリケンサックをガチリと噛み合わせる。
火花が微かに散り、獰猛な熱血漢の本性が剥き出しになった。
「いや、マジで話してる木島さんも雰囲気あって激渋っす。それにしても、その人体兵器の女三人衆ですか……。そいつらボコしたらいろいろなんか貰えんすか? 今回の任務、命懸けの割に報酬が安かったらホスト辞めて連合戻ってきた意味ないんすけどー」
こたつが下卑た笑みを浮かべ、指で金のマークを作って報酬を要求する。
その横で、凄惨な戦場への想像に胸を躍らせたのか、ゴスマゾのリンが興奮して不気味に笑った。
「(´ `)イヒヒ……最高ですね……」
リンがボソボソと、陰気な自虐を含んだ声を漏らす。
「お前たち、あいつらはとてつもなく強いぞ。半端な覚悟では一瞬で消し炭にされる。冗談を言っている場合ではない」
木島は苦虫を噛み潰したような顔で警告した。
だが、狂犬たちの闘志がその程度で挫けるはずもなかった。
「ははは! 心配しすぎですよ大将。奴らがどれだけヤバかろうが、俺たちはもっと強ぇですよ! なあ、お前ら?」
ジュウの全身から圧倒的な覇気が放たれる。
彼は、同意を求めるようにそれぞれ独自のこだわりに入り込んでいる両脇の二人を交互に睨みつけた。
だが、期待した男気の返答は1ミリも返ってこない。
こたつは任務などそっちのけで、「キャバ嬢の日常」というまとめサイトをスマホで熱心にスクロールしている。
その隣でリンにいたっては、虚空を見つめたまま完全に魂が抜けたようにぼけーっと突っ立っていた。
──って、聞いてねえのかよ!!
作戦室に流れる、あまりにも間の抜けた空気。
ジュウの額に青筋がバキバキと浮かび上がる。
「おいこたつ! お前は作戦会議中にキャバ嬢のブログで無意味な情報収集してんじゃねえよ! チャラ男は卒業しろ! それとリン! お前はどこ見てんだよ! 完全に幽体離脱してんじゃねえか! 呪いのビデオの静止画かよ!」
ジュウの鋭い怒号が作戦室の防音壁を震わせる。
しかし、言われた二人の狂犬は怯むどころか、それぞれのスタイルを崩さぬまま、平然とこれを受け流した。
「え~、ひどいっすねジュウさん! 人聞きが悪いなぁ。これは『クライアントの流行』研究っすよ。チャラ男じゃなくてビジネスっす。
太客──いや、上司をこうやって気持ちよくさせてポロっと予算を引き出す、これがホストの基本っすから。ね~? 木島さん、今日も激渋で最高っす。今回の危険手当、がっつり期待してますよ?」
こたつはスマホから目を離さず、木島に向かってパチンとウインクを飛ばす。
一方、呪いのビデオの静止画呼ばわりされたリンは、首元の『毒林檎』を愛おしそうに撫でながら、不気味などす黒い笑みを浮かべてボソボソと呟いた。
「(´ `)イヒヒ……呪いのビデオですか、いいですね……。僕の顔を見た人たちが一人残らず絶望して死に絶えれば、少しは地球も静かになるんじゃないですか……? ぜひダビングして世界中に配りましょう……」
「配るんじゃねえよ!!」
頭を抱える木島を余所に、ジュウはため息をつきながらも両拳のメリケンサックをガチリと噛み合わせ、凶暴な笑みをハゲタカのように剥き出しにした。
「チッ、どいつもこいつも狂ってやがる。だがよ、そのくらいのイカれ具合じゃねぇと、あの人体兵器の女どもは殺せねぇか。──その任務、俺たちケルベロスが承りました。かならず殲滅しますよ」
木島が強く拳を握りしめた。
剥き出しの現実リアルを死守するため、最凶の狂犬部隊『ケルベロス』が、出撃へのカウントダウンを刻み始めた。




