14.おい、きみ-しまった、警官か。こりゃあまいったぞ-
全43話予定です
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カルギリには明け方ごろ着いた。闇夜に紛れて移動していたのもあるが、職務質問に出くわす場面もなく案外[すんなり]とたどり着けたのだ。そして向かう先は中流階級が住む地区のとある建物である。目的の人物はそこにいる、という話だ。
――中流階級、か。オレには縁のないところと思ってはいたけど。
まぁ、目的の人物がそこにいるという話なのだから行かない訳にはいかないだろう。
マタルは辺りを見回しながら決して不自然にならないように努めつつ歩く。明け方という時間もあって人影は殆どない。
「まぁ、このくらいはね」
などと呟いていたのが油断へと繋がったのだろう。
「おい、きみ」
マタルから見てちょうど死角になっている路地から、二人組の人物がこちらへゆっくりと向かってくる。よく見れば片方はいかにも[話は聞きますよ]という風体で身分証を掲げながらこちらに向かっているが、もう一人は既に銃をこちらに向けている。どちらも制服を着ているという点からすれば、
――しまった、警官か。こりゃあまいったぞ。
マタルが、いや彼でなくともこのシチュエーションは対処に困るだろう。彼がこの地に住んでいて、ただ早朝の散歩に出ているというものであれば特段何も心配する必要はない。素直に[いやー散歩してまして]となどと答えておいて持っている身分証を見せればいいだけの話である。
しかしマタルが手に入れた身分証はあくまで移民籍、つまりは難民扱いである。そんな身分の人間が早朝に、中流階級の住むこの地で歩いているのがまずおかしいのだ。
ここでマタルがとる行動は三つに分かれる。
一つは素直に身分証を見せ、かなり苦しい言い訳を並べるというもの。だが、この策はあまりよろしくない。何故ならこの策はあまりに急ごしらえ過ぎてボロが出かねないからだ。
では二つ目は? そう、携行している拳銃でいっそ二人とも撃ってしまう、というものだ。だがこれも策としてはいい出来ではない。何故ならマタルが現在携行している銃にはサイレンサーが付いていない。それは早朝とはいえ銃声を響かせる結果につながるからだ。銃声がすれば、遅かれ早かれ住人が気が付くはずだ。もしかしたら近くには同僚の警官がいるかもしれない。一発ずつで仕留めればそれもありかも知れないが、いくらマタルだって本業は鉄砲撃ちではない。そんな離れ業は決められないだろう。
――これも、相手によるんだけどな。
マタルが示した三つ目の案、それが、
「すみません、道にはぐれてしまって」
そう言いながら両手を上げて近づいていく。互いの顔が見えた距離で、
「これで見逃してもらえませんか?」
そう言って[相場]よりもちょっとだけ少なめの金額を見せる。すると相手は、
「おい、馬鹿にしているのか!」
と、少々腹を立てながらもその紙幣を離そうとしない。
――これは、かかったな。
「すみません、それではこれで」
マタルはそう言いながら[相場]の金額になるように追加で握らせる。
相手はどうか。
二人の警官と思われる人物たちは、
「あまり怪しい動きはするなよ」
そう言ってマタルからもらった紙幣を二人で分けて、もと来た道に去っていたのだ。
――話の通じる相手でよかったよ。これが高給取りだったら逆上されかねないからな。
この案というのは、それほどに危険と隣り合わせなのだ。そしてマタルが一瞬躊躇した理由というのが、今いるこの場所である。そう、ここは中流階級の住んでいる場所、つまりは[さほどお金に困っていない]人間たちが住む場所だ、というところである。そんな場所を巡回する警官だってそれなりの給与を得ている可能性のほうが高い。それでもこの案で行くしかないとマタルは判断したのだ。
そして上手くいった。次は分からない。だが、
「まっ、その時はその時さ」
マタルはあまり深く考え込むのを嫌う。それは裏の仕事をメインにしている彼にとってはある意味必須項目なのかもしれない。
そして目的の場所は案外と近くにあった。
全43話予定です




