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116話 変革


「クソ野郎ぉぉ!みんなのとこには行かせない……この僕が相手になってやる!」


「……カイ?」


 カイは一人、恐怖で震え泣きそうな顔でその敵にそう叫ぶ。

 その声に反応してその敵はカイの方へと歩き出していく。

 カイ……何でここに?それにどうして敵はカイを狙って……

 そんなこと考えてる暇ねぇか……

 カイは街のどこかで拾ってきたであろう剣を振り回し、そいつの注意を引いていた。

 だがその剣の重量に耐えきれないのか、振り回すたびに剣の方向に体が持ってかれていた。


「うわぁぁぁ!」


 その敵は右腕を振りかぶり、まるで虫でも殺すかのように思い切り振り下ろした。

 過剰強化により右脚を壊しながらも何とか割り込み、カイに抱きつきその攻撃を回避した。

 その攻撃は地面に当たり、土埃と共に強い風が発生する。

 それにより上手く体勢を立て直せず転がるが、俺はカイに怪我をさせないように強く抱く。


「大丈夫……か?」


「なっ……んで」


 俺が何でカイを助けたのか、理解できていないようで怖いものを見るような目で俺を見つめる。


「お前はこの街の住民だから……師匠のことを大事に思ってるから、それで十分だ。

 早く逃げろ、カイ」


「だとしても……助けてくれても、僕は……」


「許さなくていい、けど生きてくれ。死ぬのは……傷つくのは俺の役目だ」


 そして俺は立ち上がり、壊れた右脚を引き摺りながらそいつに向かっていく。

 右脚は酷すぎて治せねぇな、攻撃も通じねぇ……だったら時間稼ぎだけでもしてやるか。

 俺はそいつに向かって手招きをしながら……


「来いよ大福野郎、餡子ぶちまけてやる」


 そいつの右腕がさらに肥大化して俺の方へと飛んでくる。

 死を覚悟した、だがその時背後から一つの影が現れた。

 現れたそいつはでかいハンマーのようなものを持ち、振りかぶり大福野郎の頭に向かって振りぶっ飛ばした。


「なっ……ノヴァさん?!」


「助けに来たぞぉ!慎二!」


 ノヴァさんは俺にそう叫ぶと、近くに寄り一つの手紙を手渡した。

 それは俺の名前が書かれたもので、その文字はどこか見覚えのある筆跡だった。


「慎二……!」


 そしてノヴァさんに続いてルル、リリがこちらへ近づいてくる。

 ルルは心配した様子で俺の傷を真っ先に治すが、リリは俯いていて表情が見えなかった。

 ノヴァさんは俺の傷が癒えるまで、大福野郎の方へ走って行った。

 そしてその時……


「この馬鹿がぁぁ!」


「フグッ……!」


 その瞬間、リリはそう叫び頭突きした。

 いきなりのことで反応ができずよろめくと、リリは俺の胸ぐらを掴みグンと顔を近づけた。


「やっと覚悟決まったから言いたいこと言うけどね!

 あんたは無理にキリサメになろうしなくてもいいのよ!慎二は慎二、キリサメはキリサメ!

 なれるわけないでしょ馬鹿じゃないの?!」


「いきなり、頭突きして何言い出すかと思えば……

 仕方ないだろ、俺は師匠を殺したんだ。だからみんなのために師匠みたく──」


「もう一発いくわよ」


 リリは脅すように俺にそう言う。

 俺は自分のデコを守るように、手で覆うとリリは口を開いた。


「あんたが頑張ってるのは、たまに見てたわよ。

 庭で何回も何回も、木刀振ってて……

 本気で前を向こうとしてるあんたやルル、本当にすごいと思った。

 だから私も前を向くことにした!けどね、あんたまで死んだら悲しいでしょ!

 だから生きなさい、絶対に……

 少なくとも私だけがそう思ってるわけじゃないらしいしね」


 リリはそう言うと、後ろを見る。

 その方を見ると、そこにはカイが泣きそうな顔で立っていた。

 そしてカイは気まずそうに目を逸らしながら、口を開いた。


「僕はまだ、お前を許したわけじゃない。けど……変わろうとしてることとか、僕たちのことを思ってくれてるのはわかった。

 だからまぁ……できる限り頑張ってくれよ」


 カイは恥ずかしそうにポリポリと頰をかきながらそう言う。

 そう思ってくれるのは、とても嬉しかった。

 けど、それでも……


「はぁ……その手紙、見てみなさい。それはキリサメが書いたあんた宛の遺書よ」


「師匠が書いた……遺書!?」


 それに俺だけでなく、カイも驚愕した。

 だが同時に、筆跡に見覚えがあった理由がわかった。

 だが……何が書いてあるのか、それが怖くて開けることを躊躇っているとルルが手紙を持つ俺の手の上に手を置いた。

 そして……俺はそれを開き、それを読む。


『慎二へ

 これが渡されてるってことは多分俺は死んでてお前が俺を殺したってことだよな。

 まず悪かった、殺させちまって。

 遺書っての書くの久しぶりだから言いたいこと書いてくな。

 まぁ自分で言うのも何だが、俺はお前の精神的支柱になってるはずだ。

 多分かなり精神もすり減ってるだろうな〜って思って言うぞ。

 "キリサメを殺したことなんて忘れろ"。気にすんな』


 キリサメを殺したことを忘れる……?

 一度俺は半分まで読み、その言葉に困惑する。そんなことできるわけがない。

 師匠の言う通り、キリサメという存在は俺の精神的支柱になっていた。

 なのに、そんなのできるわけが……

 そしてまた、残り半分を読み進める。


『でもお前は否が応でも気にするだろう。

 だからこれからは"新しい伊藤慎二として生きていけ"。

 そんなことできるわけないとか抜かすだろうがな。失敗しても、ミスしてもまだまだ人生は続いていく。

 それを全部背負ったままなんかキツいだけだ。だからこそ……全部かなぐり捨ててバカになれ。

 それは"俺にはできなかったこと"だ。

 だがよ、ずっと変わろうと努力し続けてきたお前なら……俺が見てきたお前なら必ずできる。

 お前はお前のやるべきことをしろ、藤宮とやらを助けるんだろう?

 だったらこれからは新しい自分として、お前の冒険譚を……綴っていけ。

 親愛なる"人間"より』


 新しい自分に……なる?

 そうだ、自分であまり気にしてなかった。だが俺はずっと変わることに固執してたんだ。

 記憶を失う前の俺でも、いじめられてきた俺でもない、新しい自分に変わりたかったんだ。

 けど柳への恨みが消えることはなかった。何も変わってなかった俺に絶望した……

 けど、新しい自分になる。今までのダンジョンの全てをかなぐり捨てて……また新しく始める。

 俺はみんなの目を確かめるように見つめる。

 それを止める人なんて、いなかった。


「治療、終わったよ」


 ルルは俺の背中をパンと叩き、そう言う。

 俺はルルに礼を言い、立ち上がる。

 だったら、まずはあの大福野郎を倒さないとな。


「ルル、声大きくする魔法って使えるか?」


──────────────────────


 場面は飛び、ノヴァの方へと移る。


「流石に少しキツくなってきたか?」


 ノヴァはあまり戦闘向きというわけではなく、口から吐き出た血を拭う。

 ナイフに潰された左耳も全く聞こえねぇし……どうしたもんかね。


「大福!野郎ぉぉぉぉ!!!」


「うるっせ!」


 その時、どこからか子供の叫び声が聞こえ思わず右耳を塞ぐ。

 声デカすぎんだろどういう声量してんだ?

 そしてその声に反応、その敵はゆっくりとそちらへと歩いていく。

 なんだ?止め刺さねぇのか?

 そしてその時、リリとルルが走ってきてノヴァは傷を治してもらう。


「ごめんね遅くなった」


「あの声……お前らがやったのか?」


 リリとルルは自信満々な笑みを浮かべ、そのことについて話していく。


***


 時は少し前に遡る。


「ルル、声大きくする魔法って使えるか?」


「いや使えないけど」


「……え?」


 まさかの返答で思わず思考が停止した。

 まずい、まずはあの大福野郎の気を引こうとしたってのに……


「慎二……くん!」


「藤宮?!」


 他の作戦を考えていると、藤宮が頰に汗を垂らしながらこちらへ走ってきた。

 声を大きくする魔法を使えるか聞こうとしたが……


「えっと……久しぶりだね」


「うっ……うんそうだね」


 最後に会話したのが喧嘩別れのような感じだったせいで、少し気まずくなり顔を逸らした。

 リリは空気を察し、俺の横腹を何回か小突いてきた。

 俺は一度深呼吸をした後、覚悟を決めて藤宮に頭を下げた。


「前はあんなこと言って本当にごめん!虫のいいことだってのはよくわかってる。

 けど藤宮の力が必要だ。力を貸してくれ!」


「うんいいよ」


 藤宮は笑顔で俺のお願いを快諾した。

 まさかすぐにそんなことを言ってくれるとは思っていなかった。


「慎二くんがそれを望むなら、私は力を貸す。私は何をすればいいの?」


「ありがとう……!声を大きくする魔法って使える?」


 藤宮は首を縦に振る。

 よしっ、だったら次は……!

 俺は後ろを向きカイの肩を掴み、しゃがみカイの目をちゃんと見る。

 カイは何が何なのかわからないようで困惑していると、俺はカイにも頭を下げた。


「お前の力が必要だ。恐らくあいつは音に反応する。

 だからあの時、避難所に行こうとしたあいつがお前の方に行ったんだ。

 だからお前にあいつの引きつけ役を頼みたい、できるか?」


「けど、僕にそんなことできるわけ……」


「じゃあどうしてここに来た?みんなを助けようとしてここに来たんじゃないのか?

 そんな勇気のある、カイに頼みたいんだ」

 

 カイは拳を強く握り、首を縦に振った。

 そしてカイを藤宮に預け、街を出た避難所の真逆の方へと移動してもらう。


***


 そして現在、俺は建物に身を潜め街の外で藤宮と共に拡声魔法で注意を引いているカイを見つめていた。

 街の外じゃないと建物壊しちまうかもしれないからな。

 ずっと考えていた、どうしてあいつはあの時……わざわざ全部放出したのか。

 もし俺があいつならできる限り溜めて、街を破壊できるくらいに溜めてから放出すればいい。

 それにあいつは子供のカイや、瀕死の俺を殴る時ですらスキルをわざわざ使って威力を上げていた。


「そろそろか」


 俺は刀を構えて、目を瞑る。

 恐らくあいつには容量があるんじゃないか?と思った。

 けど俺の全力で撃ったあれじゃ、それには届かない。

 『天絶』を使ってもよかった、だがそしたら溜められたエネルギーはどこに行く?

 もしかしたら無差別に爆発し続けるかもしれない。

 それで思いついた、前に"悪食"を使った時……気づいたら『天絶』ができるほどに気が溜まり、そして出すことができた。

 だったら、"事前に喰わせておけばいい"。


「"喰らい続けろ悪食"」


 その時、空気中にある気や俺の中にある気……神気を喰らっていくのを感じた。

 そして十分にあいつが外へ出た瞬間、俺は飛び出した。


「反転率50%」


 今の俺の限界ギリギリ、溢れ出る神気を刀に喰わせ続ける。

 俺が出てきたと同時に藤宮はカイと共に転移で消える。

 俺は大福野郎の上を取り、刀に込められている力を炎へと変換する。

 俺には覚悟が足りなかった。これ以上罪を背負うという覚悟が……


「『不倶戴天』」


 そいつの体内へと刃が入った後、炎を爆発させる。

 今までにないほどの爆発が起きる。

 その爆発の影響で床にクレーターのようなものができ、そいつの体は四散し飛んでいく。


「俺の……勝ちだ」


 力を使い果たし倒れる。そして同時に街の方からみんなが走ってくる。

 それを最後に俺は意識を失うのだった。


──────────────────────


「行くぞ大雲慎!!オレの全力、受け止めるのだぞ!」


 その仮面をつけた大男は慎に対して嬉々とした表情でそう叫ぶのだった。



裏話……

ちなみに"悪食"には上限はありません。

どうしてないのかというと『雨之御嘉神(アメノミカガミ)』は生まれて何百年……ずっとスキルを持っていました。

なのでめちゃくちゃ進化してるので、上限なんかとっくのとうになくなってます。

次の回……仮面vs神童の戦いです。

ずっと前から作りたいと構想にあった回です。ぜひ次の回気になるという人はブックマークや評価お願いいたします。


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