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第14話

「ちょー疲れた。もう、動けない」

「よし。じゃそろそろ終わりにしようか」

「やったー」

「じゃ、次は……」

「待て。まだやるつもりか?」


 へとへとになるまで魔法を撃ち続けた後、マナがさらに練習を続けようとしたので、脳筋で知られるバドルスまでもが驚いてマナに待ったを掛けた。


「計画では午前中はトレーニングの時間だわ。午後は自由時間なんだから、午前中はみっちりやるよ」

「午後になる頃には動けなくなってるよ!」

「さ、立って、立って」

「うぇー」


 ミレイが文句たらたらで立ち上がり、他も準備を整えると、マナを先頭にしてランニングを始めた。ランニングと魔力錬成訓練は魔法の基礎なのだ。


「一体、どうしてランニングが魔法の基礎なんだ?」

「魔法使いだって移動は徒歩が基本よ。体力不足で現地に着いた時にへばってたんじゃただの役立たずだわ」


 飛行魔法が使えれば空を飛んでいくということも可能だけれども、長距離の移動では消耗が激しくて現実的ではない。列車などの交通網が利用できれば利用するけれど、結局は徒歩での移動が必要になるのだ。


 それに、戦闘時だって走れない魔法使いより走れる魔法使いの方が良いに決まっている。


「僕はオロンに乗って行くから問題ない」

「そのセリフはオロンをここに連れてきてから言うことよ」

「ぐっ」


 バドルスがマナに噛み付いて、マナが言い返してバドルスが黙るという定型のやり取りの後、大人しくマナの後を走るようになった。


 マナは島を一周するつもりだったが、それは無理とミレイが強硬に反対し、残りのメンバーもミレイに同調したので、途中で引き返すことになった。ミレイはともかく、デミがかなり苦しそうだ。


 走っていくと、しばらくして砂浜が途切れ、海岸線が岩場になり、崖になってきた。


「今、ここから落ちたら、俺、やばいかもにゃ」


 ヘータがマナの肩の上で崖の下を覗きながら言った。魔力結晶をデミに渡してしまったので、ヘータが落ちたら身体強化魔法が海の水属性と干渉してほとんど身動きが取れなくなってしまう。その上、この崖では自力で這い上がるのはほぼ不可能と思われた。


「あそこに洞窟がありますわ」


 走りながらカルネが崖の下を指さした。覗き込んでみると、確かに下に洞窟があるようだ。


「神龍が生物なら、ああいうところに住んでいるかもしれませんわね」

「よし。後で探検してみよう」

「お、なんかちょー合宿らしくなってきたね」


 カルネとバドルスとミレイが洞窟探検のことで意気投合している。シシーは相変わらず物静かに近くを走って話を見守っているが、デミは少し遅れ気味だ。一緒に付いてきた使い魔のフルムー犬のショコアがデミを励ますように並走していた。


「あの木のところで曲がるわ」


 折り返した帰りの道は、同じ海岸線を走るのではなく内陸の方を走ってみることにした。この時点で戦士職でないカルネとミレイも少し遅れ出した。特にミレイは大分きつくなってきたようで、口数が目に見えて減ってきている。


 島には整備されたランニングコースなんて存在しないので、マナが先頭で道なき道を踏み分けていた。先頭で走りながらコースを整備しているので、他のメンバーは「ランニング」をすることができているが、そうでなければ別の種類のトレーニングになっていただろう。


 とはいえ、アップダウンが大きく、足場も平坦でないコースなので、かなりきついランニングコースであることに変わりはなかった。すでにバテ気味の人たちのとっては特に。


「こっちは体が軽いにゃ」


 ただし、子猫だけは海から離れて調子が良いようで、マナがまだ整備していないところを軽い足取りでひょいひょいと走り回っていた。


「にゃわっ、っ、とと、あぶにゃいにゃっ」


 と、調子に乗って先を行くヘータが突然大きな声を上げて立ち止まった。


「何バカなことやってんの?」

「バカとは何にゃ」

「ん? これは、温泉じゃない」

「どうした?」


 3番手を走っていたバドルスが追い付いてきて、マナとヘータが立ち止まっているのに疑問を持って問いかけてきた。


 ヘータが見つけたのは自噴している温泉だった。間欠泉のようで、ヘータが通りかかったタイミングで突然噴き出し始めたのだ。近くにできている湯だまりに手を付けてみると、適度に冷やされてちょうど適温になっていた。


「これだけ大きければ、全身で浸かれそうだね。お風呂として使うなら、目隠しとかを用意しないと」


 シシーも追いついて温泉のお湯に手を浸しながらそんなことを言った。お風呂で疲れた体を癒すことができるなら、トレーニングも捗るというものだ。


「じゃあ、午後は風呂場作りだな」

「冗談じゃにゃいにゃ!」


 ヘータは声高に反対するがその声に反応するものはなく、ようやく追いついてきたミレイとカルネも交えて、午後に温泉を露天風呂にする作業をする議論が始まった。


 トレーニングの途中だが、ここはもうキャンプ地の近くで予定していたコースの終点付近だったので、マナも予定より早めにランニングを切り上げることにした。それに、デミが一向に追いついてこないことも少し気になっていた。


 普段ならマナはそんなことを気にしたりするタイプではないのだが、今回はデミを合宿に参加させた経緯もあって、多少気に掛けていたのだ。


「カルネ」

「どうしましたか、マナさま?」

「デミはどうしてるか分かる?」

「……、使い魔に助けられながらこちらに向かっていますわ。もうすぐ見えてくるのではないでしょうか?」


 カルネは訓練中であってもアリアノ蜂の活動を止めることはなく、当然、ランニング中も周囲の情報収集を中断してはいなかった。ランニングではミレイと並走していたけれど、息を切らしていたミレイに対し、カルネは淡々と走っていて、島の様子を調査しながらランニングを行っているくらいだった。


 なので、デミの動向くらいは把握していて当然だった。


 はたして、カルネの言うとおり、しばらくするとデミが繁みの向こうから姿を現した。すっかり息が上がっていて使い魔のフルムー犬が先導して引っ張っているような状態だった。道も、使い魔がしっかりしているから迷わずに辿れているものの、そうでなければ逸れてしまっていたかもしれなかった。


「あの子には、あの使い魔が合ってるみたいね」

「そうだにゃ」


 最初に見た時にはピンと来なかったデミの使い魔だけれども、あれはあれで賢い選択だったのだと、マナとヘータはお互いに頷き合っていた。

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