第13話
「ダメだね。全然できてない」
「はぅぅ」
「いい、周囲にある水の理力を感じるの。魔法を発現しようとすると自分の理力に対する抵抗みたいなものを感じるはず。それに反発しないで、受け流して力を利用するの」
マナはデミにそんな風にコツを説明しようとしたが、デミは全く理解できない様子だった。そもそも「自分の理力に対する抵抗」を感じるというけれど、思い出そうとしてもそんなものを感じた覚えはなかったのだ。
「やってみます」
でも、マナの言うことだと思って、デミは神経を集中させて魔法を繰り返してみた。しかし、何度やっても発現には失敗するし、抵抗も感じることはなかった。
「仕方ないわね。……、これを使ってみて」
「あ、お前、それは俺のにゃ」
「うるさい。あなたはここにいなさい」
ヘータに貸していた魔力結晶を取り上げてデミに渡すと、ヘータが暴れ出したので首根っこを捕まえてTシャツの胸元に突っ込んだ。ゆったり目のTシャツの下は水着なので、いつもと違い座り心地が悪いが、張りのあるこぶの上にバランスを取って腰を下ろした。
「後で返せにゃ」
「あれはあたしのよ。ヘータには貸してあげただけなんだからね」
ヘータの抗議に耳を貸さずに、デミに魔力結晶を身に付けさせてもう一度魔法を使うように促した。
「<発現>」
すると、これまで一度も発現したことのなかった魔法が突然成功して、海面に水柱が上がった。高さはなかったものの、成功したというだけでも目を見張る進歩だった。
「今、感覚が違ったでしょ。とりあえず、その感じを魔力結晶なしにできるようになるまで特訓ね」
「は、はい」
「魔力結晶はしばらく貸しておいてあげる」
マナは軽く言うが、デミにはその感覚の違いが微妙過ぎて何をどうすればこの違いを再現できるのか全く見当もつかなかった。この先どれだけ練習すればよいのか想像もできない。
「マナ、ちょー無理。ヒント」
何度やってもちっとも改善しないのにしびれを切らせて、ミレイがギブアップしてマナを呼んだ。
「んー、呪文を唱えてから発現するまでの間にちょっと間があるでしょ?」
「え、あるの?」
「あるよ。1秒の半分か3分の1くらい」
「ちょー短か!」
「その間に、つるつるした岩の表面の凸凹を指で探るみたいな感じで理力の調子を合わせて……」
「例えが難しい」
「じゃあ、長い鉛筆の端っこだけを指でつまんで、目を閉じて字を書くみたいな……」
「それも分からない」
「うーん。人肌に暖めた水と油の境界を触覚だけで探り当てて、油だけをかき混ぜるような……」
マナは例えを駆使して説明しようとするけれど、どれもミレイにはピンとこないようで、頭をひねって何度も解説を試みた。
「バカだにゃ。そんな言い方で伝わるわけにゃいにゃ」
「じゃあ、あなたは何かいい考えがあるの?」
「あれはだにゃ、米を炊くときに、土鍋の蓋を取らないで中の水の量を推測して火加減を調整するようなことにゃ」
「米を炊くときに土鍋の蓋を取らないで火加減を調整する?」
「え、米って炊飯器で炊くんじゃないの?」
「何でにゃ? 米は土鍋で炊くのが一番おいしいのにゃ!!」
自信を持って言ったヘータの例えは、残念ながらマナにもミレイにもピンと来るものではなく、ヘータの叫びは空しく空に消えるだけだった。
マナの特訓を見学していた学生たちの中には、自主的に同じ練習を近くで始めるものもいたけれど、大半の学生は何度かやってみてうまく行かないので止めてしまっていた。
「マナ、この練習はお前がやったらできるものなのか?」
あまりに失敗ばかりする練習風景を見て、見学していたシャーミルがマナに問いかけた。
「もちろん」
「疑うわけじゃないが、一度手本を見せてくれないか。どのくらいのものを目指せばいいのかはっきりするほうがいいじゃないか」
シャーミルがそう言うと、マナは軽く頷いて、海に向かって素早く片手で結印した。
「<発現>」
1拍おいて海面が泡立ったかと思うと、丸太のような巨大な水柱が高さ10メートルほどまで立ち上がった。
さらに、マナが印を結んだ手を右に振ると、水柱は生き物のように頭を振って右へと旋回した。手を左に振ると左に、下へ振ると下へ、上へ振ると上へと自由自在に水を操った後、手のひらをぐっと握ると水柱がパンと割れて霧状になって霧散して消えてしまった。
「すごい……」
圧倒的な魔法の制御に全員が呆然となる中、デミのため息が妙に大きく響いた。
「合宿中にこのくらいはできるようになってほしいわね」
「「「ええっ」」」
「待って、僕、生産職なんだけど!」
「<発現>、……<発現>」
マナの脳筋発言に全員がドン引きだったが、一人だけ仲間に加わらず無言で魔法を撃ち始めたものがいた。もちろん、もう1人の脳筋、バドルスだ。
「さ、さっさと続けて。ほらほら」
マナに促されて他のメンバーも練習を再開した。その後、マナの「基礎練」は昼食の時間までみっちりと続けられたのだった。




