第9話
「やっと着いた……」
半日近くの列車の旅の果てにようやく地上に降りたマナはすっかり消耗し切っていた。
「ひ弱にゃよ」
「……うるさい」
ヘータのからかいに反抗する声も弱弱しい。
「ようやく終わりか」
そう言うバドルスも若干疲れた様子だった。三等車にすし詰めは誰でも疲れるが、エリート一家のバドルスには特にきつかったようだ。
「まだ終わってないよ。これからフェリーに乗るんだから」
先頭を歩くミレイが言った。合宿が行われるのは無人島なのだから、列車で直接行くことはできず、途中でフェリーに乗り換えないといけない。しかも、フェリーの座席も三等席だ。
「え、休憩とかないの?」
「ないよ。ちょー急いで行かないと日が暮れるまでに島に着けないよ」
「えー」
マナは文句を言ったけれど、これは文句を言っても仕方がない。フェリーの出発時刻に間に合わせるために急いで港に移動して、待っていたフェリーに乗り込んだ。
フェリーは小型の船で、座席が三等席といっても全席が三等席なので、二等席や一等席があるわけではなかった。乗客はトルニリキア学園の学生たちだけで、事実上の貸し切りだった。
「……、だめ。ちょー、もう、無理……」
「しっかりしなよ」
フェリーに乗り込んで、最初にダウンしたのはマナではなくミレイだった。マナの方は、フェリーが列車ほど混んでいないのと、デッキに自由に上がることができることで、むしろ気力が回復していた。ミレイは船酔いだ。
「やっぱり、トイレ行く」
そう言ってミレイは出港早々にトイレに入ってしまった。他にもバドルスが若干顔色を悪くしている。
「俺はここを動かないからな」
あと、ヘータもこんな調子だ。ヘータの場合は船酔いじゃなくて、身体強化魔法が海の水属性と干渉して動きが鈍くなる問題なのだけど。
「しょうがないわね。これを着けてていいわよ」
そう言って、マナはヘータに、カインリルから預かっている魔力結晶を渡した。魔力結晶は魔法の制御を助けて、属性が干渉するような環境下でも魔法の行使が楽にするので、海の中でもヘータの動きが鈍くなることがないのだ。
しかも、ヘータの首に着けられるように首輪を付けておいたので、激しく動いても落とす心配もない。
船酔いはしていなくとも、さすがに長い列車の旅で疲れた生徒たちが三等席で静かにしている中、マナが一人デッキで海を眺めていると、日が傾いてくる頃になってようやく目的地の島が見えてきた。キリシュ島だ。
島は想像よりも大きく、中央に山がそびえていた。地図によると、あれは火山で山頂には火口があるはずだった。海岸線はほぼ全周に渡って砂浜が広がるが、一か所だけ切り立った崖になっているところがあった。
フェリーはその崖の近くにある木製の桟橋のところに停泊した。丸太を切ってくみ上げた桟橋は、塩水でところどころ朽ちていて、修繕が必要なように見えた。
「ようやく着いたわね」
「うぅ。まだ気持ち悪い」
船を降りてもミレイはまだ船酔いの余韻が残っているようで、うずくまって口を押さえていた。
「ま、待ってください……」
そろそろ全員降りたかなと確認しようとすると、桟橋の方から弱弱しい声が聞こえてきた。見ると、デミが使い魔のショコアにつかまりながら、桟橋の上を恐る恐る歩いていた。
「早くおいでよ」
「あの、すいません。怖くて……」
どうもデミは朽ちてぐらぐら揺れる桟橋の上を歩くのが怖くてなかなか前に進めないようだった。
もう日が傾きかけてきているので、デミには悪いけれど先に行ってキャンプの準備を進めておくことにした。のんびりしているとテントもご飯もないまま夜を迎えることになってしまう危険がある。
「先に行ってるからデミは後から来て」
「はい。すみません」
キャンプ予定地は、サバイバル計画を立てた時に事前にもらった地図で決めてあり、上陸後の行動も事前に打ち合わせ済みだった。それに、多少の予定外があっても、マナの実力行使の前には凡そ些細な問題に過ぎなかった。
「じゃ、ごはんを作るよ!」
かまどを組み立てていたミレイが完成を宣言した時にはすでに辺りは暗くなり始めていた。どうやら何とか間に合ったようだ。
調理担当はミレイとシシーとデミで、残りの3人は食材調達の担当になっていた。一応、半日分の食材と2日分の非常食は持ち込んでいるが、食糧の節約と水の確保はサバイバルの上で最優先なのだ。
「どなたか水を運ぶのを手伝ってくださいませんかしら?」
「あ、私、行きます」
使い魔を通してあっさりと水場を見つけて来たカルネは、人手を借りに帰ってきてデミと一緒に水くみに戻っていった。マナとバドルスはすでに狩りに出ているので、この場に残るのはミレイとシシーだけだ。
「……、あ、えっと、じゃあ、先に食材を切ってようか」
「そ、そうだね」
ぎこちない感じでミレイが食材を取り出してシシーに手渡すと、その拍子に指先が触れてしまってミレイが思わず顔を赤らめた。でも、もう暗くなってきているのでその表情の変化はシシーには気付かれなかったようだ。
「やっぱり、俺は火をおこしてるよ。暗くなってきて手元が危ないから」
そう言って食材を置いて焚き火をおこしに行ったシシーを後ろから見て、ミレイはちょっと残念に思いながらもこのままでは別の意味で手元が危なかったと少しほっとしていた。
「帰ったぞ」
その雰囲気を破って現れたのはバドルスだった。手には狩りの獲物が握られていた。
「暗くて大したものは捕まえられなかった」
そう言いながら見せたのは緑色の羽を持った体長30cm強の鳥だった。
12月はなろうの姉妹サイトで連載する別作品の強化月間で、この小説の更新は中断する予定です。
そのため、次回更新は来年の1月になる予定です。
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