第10話
焚き火の光に近づけて鳥の種類を観察してみたけれど、ミレイもシシーも、バドルス自身も何という名前の鳥か見当も付かなかった。
「魔法生物ではなさそうだがな……」
「食べられるのかな?」
「……大丈夫じゃないか?」
「とりあえず、捌いてみるよ」
そう言って、シシーが鳥の頭を鉈で切り落とそうとしたところで、カルネとデミが水を汲んで戻ってきた。
「それは何ですか?」
「鳥だが、詳しい種類は不明だ」
「んー、リュウオイでしょうか?」
デミは顔を近づけて観察しながら、自信なさげに鳥の名前を口にした。しかし、その場にいた誰もその鳥のことを知らなかった。
「リュウオイとは何だ?」
「この島に住む鳥です。竜を追いかけるからリュウオイだそうです」
「食べられるの?」
「え? いえ、そこまでは。食べられないんですか?」
デミは鳥の名前とその由来は知っていたものの、肝心の食べられるのかという情報は持っていなかった。情報通のカルネもこの鳥についてはノーマークだったようだ。
「えい」
「!! キャァーーーーーーッ」
このまま議論していても仕方ないと、シシーが一思いに鉈を振り下ろしたところ、心の準備ができていなかったデミは、突然頭と胴の分離した鳥の惨状を見て悲鳴を上げた。が、残りの4人は平然としたものだった。
「こんなことで悲鳴を上げるなんて軟弱な。そんなことでは戦場で死んでしまうぞ」
「バドルスくん、ちょーデリカシーなさすぎ」
ミレイはバドルスの言い方に文句を言いつつ、顔を真っ青にしたデミを離れたところに座らせて介抱してあげた。
いつの間にか日はすっかり落ちて焚き火の光の他は月明かりだけが全てだった。さすがに暗くて刃物を使うのは危ないとバドルスが灯りを作り出し、夕食の準備はその下で行った。今頃は、他のチームもめいめいにキャンプ地を決めて夕食を作っているに違いない。
「マナ、ちょー遅いね」
「もうすぐ帰ってきますわ」
ここでもアリアノ蜂で監視網を素早く構築していたカルネは、すでにマナの動向をリアルタイムで把握しているようだ。小さくて分かりづらいが、よく見るとカルネの周囲には常に数匹の昆虫が入れ替わり飛び交っていることがわかる。
夜に見知らぬ原生林の中を歩くのは、通常なら自殺行為とも言えるけれど、マナに限ってはそんな心配はないと誰もが安心していた。
「ただいま」
リュウオイを捌き終えたころにようやく帰ってきたマナの手には、大きな木の実がいくつかと大きなハチの巣があった。
「マナ、遅いと思ったらそんなのどこで取ってきたの?」
「近くでクマがウロウロしてたから、追い払ったらクマが狙ってたハチの巣があったのよ」
「まさか、ウルススか?」
バドルスが目を見開いてマナに問いただした。ウルススとはクマ型の魔法生物のことだ。危険度が極めて高いとして知られている。キリシュ島にウルススが確認されたことはないが、気を付けるに越したことはない。
「魔獣じゃないただのクマだと思うわ」
「ただのクマでも危険です!」
「念のためにクマ避けを出しておくよ」
「今のところ、近くにクマの姿はいないようですわ」
アリアノ蜂で周囲を警戒していたカルネがそう言ったので、全員ひとまず安心した。優秀な魔法使いがそろっているのでクマに遭遇しても撃退できるとは思っても、万が一と不安になることは仕方ない。気にしないのはマナくらいのものだ。
シシーが出したクマ避けとは、クマなどの大型動物が近寄らなくなる効果を持つ呪符だ。効果は絶対ではないし、特に強い魔法生物には効きにくいが、気休め以上の効果はあると考えられていた。
「マナさま、そっちはダダロですか?」
「そうよ」
「え、ダダロってこんな実だったの?」
「ええ。火で炙って皮を剥ぐのですわ」
ダダロというのは学園のあるトルン市でもたまに食べられる木の実だけれども、普通は加工された状態で流通していて木になっているのを見たことがある人はわりと少なかった。この中で現物を知っていたのはマナの他にはデミとカルネだけのようだった。
ダダロの実をよく見せるためにミレイたちに手渡すと、ヘータがマナの肩に乗って抗議するように前足を頭に置いて話しかけてきた。
「おい、マナ。それは俺のにゃからにゃ」
「分かってるわよ」
「どうしたの?」
「それはヘータが取ったものだから取られるんじゃないかって心配してるのよ」
「ヘータ君ってダダロも食べるの?」
「火で炙ったダダロに薄口醤油を掛けて食べるのがうまいのにゃ」
「みたいよ」
ハチの巣ははちみつとハチの蛹や幼虫が食べられる。蛹や幼虫を食べるのは度胸がいるけれど、はちみつはみんな大好きだ。ハチの扱いはカルネの右に出るものはいないので、マナはハチの巣の扱いはカルネにゆだねることにした。
「マナさま、この巣に成虫のハチはおりませんでしたか?」
「いたわ。クマと戦って気が立っていたみたいで危ないから全部駆除しておいたわ。もしかして成虫も食べたかった?」
「いえ、そうではなく、このハチの巣はワスビーの巣ではありませんか?」
「そうよ」
カルネの指摘に平然とした様子で答えるマナに、全員戦慄した。
ワスビーはアリアノ蜂と同様にハチの魔法生物だが、アリアノ蜂と違い大型で攻撃的であり、厄介な特殊能力と相まって集団で襲われると大型の魔法生物でも危険なのだ。クマとワスビーの両方を駆除して無傷でいるなんて普通ではない。
「一体どうやって1人で駆除なさったのですか!?」
「1人じゃないわよ」
「え、誰かいらしたのですか?」
「ヘータがいるじゃない」
黙って立っていれば大人しい少女のようなマナと、ただの子猫にしか見えない子猫が束になって掛かっても、クマとワスビーを同時に相手にするどころか、その片方ですら相手にならなさそうだ。実際にはクマの方は早々にして逃げ出し、いきり立って襲い掛かるワスビーは一方的に駆除されるだけだったとはだれも思わないだろう。
ミレイたち5人は、きっとマナがよく分からない派手な魔法を使ってハチを一網打尽に全滅させたのだろうと思っていたが、実際にはワスビーの特殊能力を魔法で防御しながら、飛んでいるハチの胴体を1匹ずつナイフで切断していったのだった。
マナとヘータはどちらがより多くのハチを駆除できるか競争していて、ヘータが1匹だけ多く駆除し勝負に勝って好物のダダロを総取りすることになったのだ。さっきヘータがダダロの所有権を強く主張していたのは、そういう背景があった。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。




