第8話
「竜ってバドルスくんの使い魔みたいなやつのこと?」
「いえ、大型魔法生物の総称としての竜ではなく、『神龍』という現象のことですわ」
「現象なの?」
カルネの不思議な物言いにミレイは首を傾げた。
「神龍を見たという報告は世界各地にありますが、それが何なのかを確かめたものはいませんの。新種の魔法生物かもしれませんし、あるいは何らかの自然現象や魔法的現象かもしれません」
「へー」
「それが、最近、キリシュ島で目撃されたという情報があるんですわ」
「ちょっと待って。キリシュ島って何?」
他の人たちが神龍に興味を持つ中、全く違うところに食いついてきたのはマナだ。
「マナ、僕たちがこれから行くところだよ」
「あ、あれ、そんな名前だったんだ」
「待て。キリシュ島で神龍が目撃されたのはそんなに最近か?」
バドルスが記憶をたどるようなそぶりを見せながらカルネに聞いた。バドルスはキリシュ島で神龍が目撃された件のことは知っているようだ。
「ええ、高々32年前のことですわ」
「そんなのちょー全然最近じゃないよ!!」
「これはここだけの話だが……」
そう言って、バドルスは顔を寄せて声を潜めた。
「軍は神龍を追っている」
「そんなもの、秘密でも何でもないわよ」
神妙な顔をして語るバドルスに、マナが呆れた様子で横やりを入れた。
「歴史の教科書にすら載っている話だわ」
「そんなおとぎ話じみた話ではない」
「神龍を巨大な魔法的現象か強力な魔法生物であると仮定して、その力を軍事力に利用したいということでしょ。そのくらい、世界中の誰でも同じことを考えるわよ。それとも、神龍の正体の目星でもついてるの?」
「うむむ」
バドルスが言い負かされて悔しそうに唇を噛んでいるが、別にマナは勝ち誇った様子もなく平然としていた。
「とにかくですわ、以前一度目撃されているということなら、もしかしたら今回見られるかもしれませんわ」
「そうすれば、神龍の正体が何かもわかるかもしれないってことだね」
「ええ。そのために、今回、こんなものを用意してみましたの」
そう言ってカルネが取り出したのは、握り拳サイズの白い岩石だった。
「これは魔石ですわ」
魔石とは魔素を大量に含む岩石だ。
通常の状況下では、環境中の魔素は魔法を使った程度ではなくならないが、狭い空間で大量の魔素を消費するような状況下では魔素が枯渇することがある。そういう時に、魔石を投入すると、魔素が魔石から放出されて回復する。例えば、鉄道の機関炉の中などだ。
「一説には、神龍は魔素を好むと言われています。なので、これでおびき寄せてみようと思いますの」
「え、待って? それを持ってたら、もしかしたら僕たちが神龍に襲われるかもしれないってこと?」
「そうですわね……。可能性はありますわ」
「ちょ、それちょー怖いんですけど」
「大丈夫よ。神龍の観測報告は国内で20年に1度くらいしかないわ。富くじに当たるより確率は低いわよ」
「んー、それは安心できるのかな?」
ミレイは首を傾げているが、カルネには悪いけど神龍に会える確率は限りなく低いと言っていい。
鉄道の旅は窮屈で、人ごみの苦手なマナには苦行に近かった。ミレイの配慮で窓際に匿われてはいたものの、知り合いであっても長時間顔を突き合わせて何か話題を探さなければいけない状況はストレスのたまる環境だった。
「お前はいろいろ難儀なやつにゃ」
「うるさいわよ」
と言っては見たものの、これは多少は慣れないと、これからの合宿生活がしんどいかもしれないと、すこしうんざりしていた。ヘータをもふもふしてストレス発散したいけれど、ここではできないし。
「マナ、どうしたの?」
「しばらく瞑想してるわ」
「あー、はいはい。ごゆっくりどうぞ」
ミレイはマナの様子に気付いて声を掛けて来たが、瞑想だという返事を聞いていつものことかと納得していた。マナとしても、説明せずに済むのは楽なので瞑想の世界に逃げ込もうとしたのだけれど、それにデミが待ったをかけた。
「あの、瞑想って何ですか?」
「……、瞑想っていうのは、目を瞑って頭の中だけで魔法のトレーニングをすることよ」
「あ、いつもマナさまが目を瞑ってらっしゃるのって、それだったんですね!」
デミが納得したようなので、さて瞑想しようと目を瞑ろうとすると、またデミに遮られた。
「あの、私もしてもいいでしょうか?」
「すればいいわ。というか、今までしていなかったのが問題よ。すごくためになるトレーニングだから、今すぐやるといいわ!」
これで全員が瞑想を始めたら、静かになって好都合だという打算もあって、マナはデミに瞑想を売り込んだ。が、それは裏目に出たようだ。
「はい。……、あの、どうやればいいんですか?」
マナは思わず天を仰いだ。いつものように「面倒くさいな」と言いそうになったけれど、自分が薦めた手前、放っておくわけにもいかない。
そして、それからしばらくの間、マナはデミだけでなく、チームメンバー全員の瞑想指導を行う羽目になったのだった。




