第6話
「マナ、これなんかちょーよくない?」
「なんでこんなことに……?」
「マナさまにはこちらも捨てがたいですわ!」
「あ、……あの、これとかどうでしょうか?」
会議の後、計画書を提出したマナたちはその足でナガールセンターに水着を買いに来ていた。ナガールセンターはトルン市中心部にある市内最大のショッピングセンターで、食料品、衣料品から魔道具まで揃う便利さから、市民にも学生にも利用されているのだ。
トルン市は、トルニリキア学園の学園橋とトルン駅を結ぶ大通りが市街を東西に分ける構造をしていて、ナガールセンターはその大通りに面していた。また、センターの反対側は駅と船着き場を結ぶ市場通りにも面している。
市場通りはその名の通り様々な種類のお店が立ち並ぶショッピングストリートとなっていた。駅と船着き場という2つの流通の要を結ぶ通り沿いに自然発生的に店が立ち並んで形成されたという歴史のある商店街だ。
また、ナガールセンターはもともと市場通りの商店主が競りを行う卸売市場として始まったものが、市場通りから溢れた商店が卸売市場の場外に店を持つようになって形成されたという経緯から、比較的新しい商店が軒を連ねているのだ。
老舗の高級ブランドであれば市場通りに店を構えるけれど、新しい若者向けのファッションであればナガールセンターの店の方が品揃えが多く、値段も手ごろなので学生はナガールセンターの方を好むことが多かった。
「ほらほら、マナ、早くこっち」
「いや、別にいいから」
「何言ってるの。ここ入って!」
ミレイに3人が選んだ水着を押し付けられて試着室に押し込まれたマナは、どうしたものかと途方に暮れていた。
水着と言うのは水中行動のしやすさと水中環境での魔法発現のアシストが重要であって、デザインは水中での迷彩に優れたものが望ましいのだけれども、渡された水着はどれも南国の花のようにカラフルで、布面積も少なめのものばかりだった。
「これとか、戦ってる最中に解けるんじゃにゃーか?」
胸元からヘータが飛び降りて、渡された水着を前足で持ち上げてそんなことを言った。この紐みたいな水着を選んだのはカルネだ。これじゃ裸みたいなものじゃないか。……、確かに魔法発現のアシスト機能は高性能ではあるけれど。
「これはなしね」
マナはカルネが選んだ水着を指でつまんで脇にのけて、ミレイとデミが選んだのを手に取った。この2つはまだそれなりにまともな水着の形をしている。多少激しく動いても外れたりはしなさそうだ。
「こっちは水中機動が付いてるのね」
「それ、役に立つのかにゃ」
「うーん。……、値段から考えるにあんまり期待はできなさそうだけど」
水中機動は水着に施された魔法陣で水中での高速移動を補助するという機能だ。カーピー=オスタンのマジックアーマーに施されている機能の超簡略版と言うと分かりやすいかもしれない。もちろん、値段相応の機能しか期待できないので、シリアスな用途より娯楽用と考えるべきだけど。
「まあ、最悪でも水着だけ飛んでいくくらいで怪我をしたりすることはないんじゃないかな」
機能面を比較していてもあまり意味もないだろうと思ったマナは、一つ取って広げて自分の身体に当ててみた。
「どう?」
「防御力に難があるにゃ」
「水着だからね」
ヘータにデザインを聞いても猫に小判かと思ったマナは、もう一つの水着も手に取って広げてみた。
「こっちの方がいいかな」
どちらのデザインも上下分かれたデザインだけど、マナが選んだ方が胸周りを支える布の形状がしっかりしていて、運動しやすいように思われた。陸上では身体強化と共に胸部固定も行うので運動に差し支えることは少ないけれど、水中では干渉があるので水着のデザインはそれなりに重要はずなのだ。
とはいえ、やはり一度着て少し体を動かしてみないとどのくらい効果があるかは分からないので、試着をするためにマナは服を脱ぎ始めた。
「マナ、こう言っちゃにゃんにゃんにゃけど……」
「何?」
「それ、サイズ、合うのかにゃ?」
「う゛……」
ミレイとデミの選んだ水着を両方合わせてみたけれど、どちらも胸のカップのサイズが全く合わない。頑張って着ると胸が潰れて脇からはみ出してしまう。試しにカルネのを着てみたら、こっちは測ったようにぴったりだったので逆に微妙だったのだけれど。
「ミレイ、デミ」
「マナ、どうだった?」
「サイズが小さい」
「え゛」
「これじゃ小さすぎて、パッドを外してカップに収まらないんだよね。……、ん? どうしたの?」
「ううん。何でもない」
ミレイとデミは、何とも表現しようのない表情で水着を受け取ってサイズ違いを探しに行った。マナはそれを見送りながら、どうしてそんな妙な顔をするのかと少し考えた。
「マナさま、私のはいかがでしたか!?」
「却下よ!!」
カルネに紐のような水着を投げつけると、次はまともな水着を探してくるように言って追い返した。一体、次はどんな水着を持ってくるつもりだろうか。何を持ってきても却下だと思うけれど。
「はぁ、疲れた」
マナは家に帰るなりバタンとソファーに倒れ込んでクッションに顔を埋めた。他人とこんなに長い時間、たわいもないことで一緒にいたのは何年ぶりかというくらいで、完全に気疲れしてしまっていた。
「だらしにゃいにゃ」
「何とでも言って」
ヘータがマナの上に乗って跳ねまわっていたずらしているけれど、マナは反撃する気力もなくするがままにさせていた。
「何にやにやしてるにゃ。気持ち悪いにゃ」
「にやにやなんてしてないわよ」
「そうかにゃ?」
反撃が来ないと思って気を抜いていた隙をついて、マナはヘータを捕まえて逃げられないように拘束した。
「にゃ、にゃにするにゃ」
「お風呂入る」
「やめるにゃ~~!」
疲れたので、子猫とお風呂に入ってもふもふでもしないと疲れが取れそうもない。マナは暴れるヘータをお風呂に連れ込んだ。
「だって、最近、お風呂入ってないでしょ。私が隅から隅まで洗ってあげるわ」
「にゃーーーーーーーー!」




