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第5話

「な、なんでしょうか、マナさま?」

「春合宿は空いてる、カルネ?」


 あの後、マナは寮時代の知り合いに春合宿のことをそれとなく聞いてみたが、全員既に参加する合宿は決まっているということが分かり、班分けや役割分担なども決まっているようだった。


 なので、それを自分のために敢えて取り消させる程に親しくもなかったマナは、誘う相手に窮して、とうとう一番厄介そうな人物に声を掛けることを決断せざるを得なくなったのだ。


「も、もも、も」

「も?」

「もちろんです、マナさま!! シャーミル先生の合宿に参加されると聞いた時には、私は無許可で合宿先に潜入する覚悟をしておりましたが、まさか、まさか、マナさまからお声を掛けていただけるとはっ!!!」

「やっぱり、止めようかしら」

「いえっ、是非とも参加させてください!!」


 やはりカルネはすでにマナがシャーミルの合宿に参加することも、マナが参加者を集めていることも知っていたようだった。しかし、マナがカルネに声を掛けることまでは予想していなかったようだ。


 ともあれ、これで人数は集まった。後は、チームでサバイバル計画というのを作って提出しないといけないらしい。まあ、これはマナが適当に書いて提出しておけばいいだろう、ということで、1晩で書き上げてきて、一応ミレイに目を通してもらった。


「1日目、ランニング、魔力錬成訓練。2日目、ランニング、魔力錬成訓練。3日目、ランニング、魔力錬成訓練……、マナっ!!」

「ん?」


 マナはミレイに計画を見てもらっている間、胸元から顔を出していたヘータのひげを引っ張って遊んでいると、ヘータが怒って猫パンチで反撃してきたので、デコピンでミニボクシングをしていた。


 お互い常時身体強化をして速度も力も人間離れしているので、ミニボクシングといっても指先の動きは常人の目で追える速度をはるかに超えていた。


「これは何!?」

「合宿のサバイバル計画よ。今日、提出しないとダメなの」

「こんな計画じゃ、ちょー計画にならないよっ」

「何言ってるの? ランニングと魔力錬成訓練は基礎にして一番大事な訓練なのよ。強化合宿なら基礎から強化しないといけないわ」

「この脳筋め」

「何か言った?」

「とにかく、これじゃ提出できないから、僕が全部書き直すよ」

「まあ、ミレイがやりたいっていうならいいけど」


 ということで、マナのサバイバル計画を見たミレイは、これをそのまま提出することはできないと考えて全面的に書き直すことにしたのだった。


 そういうことで、急遽、マナとミレイを含めた合宿参加者6人を全員集めて会議が開かれることになった。


「サバイバル計画書だと?」

「そう。合宿で何をするのか事前に計画を立てて提出するのよ」

「そんなもの訓練に決まっている」


 マナと基本的に同じようなことを言い放ったのはバドルスだ。この2人はいつも反発しているが、根本的なところで思考のベクトルが同じなのだと思われる。


「そんなんじゃ遭難するわよ」

「遭難など、軟弱者のすることだ。常に準備を怠らずにいれば、1週間程度生き延びるなどできて当然」

「だから、その準備の計画を立てるんでしょうが! ちょー人の話聞いてる!?」


 こんな脳筋だが、バドルスは名門の軍人家系の血筋なので、将来は王国軍幹部になることがほぼ決まっている。だからなおさらここできちんと常識を教え込んでおかないとと頭を悩ませるミレイだった。


「とりあえず書いてみましたわ。これを元に話を進めるのはいかがでしょうか?」


 バドルスがバカを言っている間に、カルネはさらさらと計画書の草案を書いていたようだ。さすが新聞部だけあって字を書くのが早い。


「ちょーすごい。ちょー早いね。えっと……、ん?」


 カルネが書いた計画書を一瞥したミレイはそこに書かれていた妙な言葉に引っかかった。


「クジキ避けのおまじない?」

「知らないんですか? 南の方にはクジキが出るので、呪いに掛からないようにおまじないをしておかないといけないんですよ」

「へー」


 カルネが妙な蘊蓄を語ると、他の人は感心したように声を上げた。バドルスは知っていたのか、顎に指を当てて頷いていた。しかし、マナは不機嫌そうに口を挟んだ。


「そんなの迷信だわ」

「そんなことはない。僕もその話は聞いたことがある。クジキに取りつかれると国が亡ぶと」

「バドルス、あなた、クジキがどういうものか知ってるの?」


 マナに問い詰められて、バドルスは首を振った。他の皆も同様に知らない様子だった。分かっているのはマナと、マナの胸元から顔だけを出すヘータだけだった。


「クジキはハーフエルフのことよ。エルフと人間の混血を貶める流言飛語の類に、理性を尊ぶトルニリキア学園の学生が乗せられるなんて恥ずべきことだわ」

「何! それは僕の勉強不足だ。反省しよう。むしろ、そのような流言飛語こそが国を亡ぼす元だ。僕の力の及ぶ範囲、今後一切クジキに対する中傷は禁止させるぞ!」

「バドルスくんはちょー大袈裟すぎるよ」


 ミレイが思わずつぶやいたが、それは大体その場にいた全員の気持ちを代表していた。


「あ、でも、こっちはちょー大事だね」


 話を変えようと、再びミレイが計画書に目を落として、目を輝かせた。


「せっかく海に行くんだから、水着は用意しておかないと」

「そうだね。ランニングだけじゃなくて遠泳もメニューに追加しておく方がいいね」

「マナ、僕はそういうことを言っているんじゃないんだよ」


 すぐに脳筋に走りたがるマナを、ミレイは呆れた様子で訂正した。この場にいる全員が同じ気持ちだったに違いない。……、バドルスを除いては。


「海で水着を着るのはトレーニングのためじゃなくて海で遊ぶためなんだよ」

「何をするの?」

「例えばビーチバレーとか」

「なるほど」

「マナが考えているようなのじゃないからね」


 ミレイが止めのくぎを刺したけれど、マナはいまいち何が問題なのか分からない様子だった。


 その後、ミレイとカルネが中心になって、シシーとデミの意見を取り入れながら計画書は完成した。一応、マナとバドルスの意見も反映して、毎日訓練の時間も取ることになった。


「俺は海には入らにゃいからにゃ!!」

「そんなに嫌なら、魔力結晶を貸してあげる。それがあれば溺れたりしないわよ」

「にゃ、まるで浮き輪みたいな言われようにゃ」


 頑なに海を拒むヘータには、カインリルから預かった魔力結晶を渡して上げることにした。魔力結晶は魔法の制御を助けるので、理力が干渉しても最低限の制御が維持できるようになるのだ。これで、少なくとも水に落ちても溺れることはなくなるはずだ。

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