第4話
「あ、あのっ」
マナがヘータのひげを引っ張っていると、デミが一大決心をした様子で声を掛けてきた。
「わ、わた、私と春合宿に参加してもらえませんか!!」
「よろこんで!!!!」
「えっ? えええええっ!!」
デミの申し出の意図はよく分からなかったけれど、春合宿に参加する人を探していたマナにとって、デミの申し出はまさに渡りに船だった。むしろ、あまりの即答っぷりに言い出したデミの方が驚いたくらいだった。
「春合宿でしょ? ちょうど人を探してたのよ。あ、今からキャンセルとかはダメだからね。言い出したからには責任は取ってもらうわ」
マナは釣れた魚を逃してなるものかと柄になくプッシュしたのだけれど、そんなマナの態度は今まで見たことがなかったデミはすっかり面食らってしまった。
しかし、マナとしてはそれがシャーミルの合宿だと分かったら逃げられてしまうかもしれないので、今のうちに言質を取ってしまわなければと早口になってしまったのだ。日頃、人と話し慣れていないといざというときに挙動不審になってしまうという典型だった。
「もちろん、キャンセルなんてしません。というか、マナさまはもう合宿先は決まっていらっしゃるんですか?」
「ん、まあ、決まっているんだけど、人数に余りがあって。誰か他に行く人がいないかなと探しているところなのよね」
「で、でしたら、是非、私に参加させてください!」
「言ったわね。後からやっぱりやめましたっていうのは、なしだからね」
マナが念を押すので、どれほどの恐ろしい地獄の合宿に参加することになるのだろうと、デミは空恐ろしくなった。マナがこれほど警告するのだから、きっと肉体と精神を徹底的に痛めつけるような過酷な合宿なのに違いない。
「覚悟は、できています」
でも、デミは今回、どうしてもマナと一緒に合宿に参加したいという強い思いがあったのだ。
もともと、デミは初等部の頃から同級生でありながら他を圧倒する才能に輝いていたマナに憧れを抱いていたのだ。そして、事故の後で復帰してから、さらに研ぎ澄まされた才能を開花させていったマナにさらに傾倒していった。
しかし、同時にデミは徐々に難度を増していく勉学に自分の限界を感じ始め、憧れの人と自分の才能の差をより強く感じるようになってもいたのだった。
そして、マナがベルデグリの称号を得たことと、ハンセタール王国の貴族であるカインリルからプロポーズを受けているという話を聞いて今を逃せばマナのような人と知り合える機会は一生巡ってこないのではないかと思い詰めていた。
なので、それがたとえ活火山の火口に降りて合宿をするだとか、海に潜って海底でキャンプするなどという極限に挑戦する合宿であっても、今回はマナについて行くと心に決めていたのだ。
「分かったわ。私が参加するのは……」
「……」
「シャーミル先生の合宿よ」
「……??? え、シャーミル先生ですか?」
「そうよ」
深刻そうな顔でいうマナだったが、デミは頭の上に浮かんだ疑問符が取れないでいた。
シャーミル先生の合宿と言えば、春合宿で1,2位を争う超人気合宿だ。もうとっくに参加申し込みは締め切られて参加者は確定しているはずなのに、まだ人数が余っているとはどういうことなのか? それに、どうしてそんなに深刻な顔をしているのか?
「先生の合宿に人が集まらないから私と後5人参加者を集めるって約束したのよ。ということで、もう決まったから。いいよね」
「え、ええ。それはもちろん、というか大歓迎ですけれど」
「じゃあ、決まりね」
そして、あっけにとられるデミを置いて、マナは機嫌よく軽い足取りで礼拝堂を後にした。
「お前は悪いやつにゃ」
「私は人助けをしているのよ」
2人のやり取りを黙って聞いていたヘータは、人気がなくなったところで皮肉っぽくマナに言った。でも、マナは飄々とそう答えるのだった。
「あー、手紙の主はあのデミだったんだ」
翌日、マナの報告を首を長くして待っていたミレイは、事の顛末を聞いて何か納得したようにそう言った。
「ミレイ、もしかして知ってた?」
「知らないけど、デミは昔からマナのファンでちょー有名だったからね」
「そうだったの?」
ミレイはそう言うが、マナにはあまり心当たりのないことだった。でも、まあ、そうでもなければいきなり合宿に一緒に参加したいとは言わないかもしれない。
「とにかく、これで3人集まったわ。後3人。誰かいないかしら」
「そのことなんだけど……」
「何? まさかやっぱり参加したくなくなったとか?」
「いや、そんなんじゃなくて、2人、一緒に行きたいって人がいるんだけど……」
「誰、誰!?」
まさかミレイが参加者を連れてくるなんて思ってもいなかったマナは食い気味にその話に飛びついた。
「それがね、男の子なんだけど」
「大丈夫。その辺は気にしないわ」
「後、マナとちょっと反りが合わないところがあるかもしれないんだけど」
「この際、ある程度なら先生のために我慢するわ」
「じゃ、言うけど」
長々と前置きを置いてからミレイが口に出したのは、意外な、しかしマナの狭い交友関係を考えてみるとそれほど予想外ではない名前だった。
「シシーくんとバドルスくんよ」
「え゛」
確かに聞くからに反りが合わなさそうな相手だ。バドルスはマナの同級生で、事あるごとにマナに勝負を挑んできては、そのたびに返り討ちにあっている。そんなわけなので、もしバドルスが来たら合宿中も大騒ぎになることは目に見えていた。
もう1人のシシーはバドルスとよく行動を共にしている友人だ。バドルスのせいであまり目立たないが、実は同学年でもマナ、バドルスに次ぐ成績優秀者でもある。
「昨日、あの後シシーくんに会ってマナが人を探してる話をしたら、ちょー興味があるっていう話になって」
「昨日会ったの?」
「た、たまたまよ。たまたま」
「ふーん?」
ミレイはなぜか急に顔を赤くして慌てた様子だったが、マナはどうしてミレイがそんなことを言うのかいまいちよく分からなった。
とにかく、これで5人は集まった。残るは後1人だ。




