第6章「交流試合」 - 06
突如、観客席から黄色い歓声が上がった。カインリルが登場したのだ。どうやら観客席は中等部の学生しかいないにもかかわらず、バドルスにはアウェイの戦いになるらしい。
「あれがペガサスにゃのか」
ヘータが呟いた。世界有数の魔法学園のトルニリキア学園といえども、ペガサスを連れている魔法使いはいない。それだけ希少種なのだ。
それにしても、容姿端麗なカインリルにこれまた優美な姿で名高いペガサスの組み合わせは何もしなくても絵になる美しさでおとぎ話に出てくる勇者さながらだ。無骨なバドルスでは敵役の小物にしか見えず、見た目で完全に負けている。
だが、試合内容はルックスほどには一方的な展開にはならなかった。むしろ2歳も年上で格上の相手によく善戦していると言えた。いつもマナに瞬殺されているとはいえ、バドルスの実力も中等部の標準を大きく超えていることには間違いないのだ。
「ん? 何か変にゃ」
「どうしたの?」
試合中、ヘータが何か呟いたので、マナは子猫の耳元に唇を近づけて小声でささやいた。周囲にクラスメイトがいるが、声が小さかったことと皆の意識が試合に集中しているせいで、マナのささやきには誰も気づいていない。
「何か変にゃ魔法を外からかけてるやつがいるにゃ」
「それはエリアヒールよ」
「何にゃそれは?」
「試合中の攻撃のダメージを軽減する魔法よ。試合中の事故を防ぐためにかけてるんだわ」
「そんにゃの今まで使ったことにゃいにゃ」
「トルニリキア学園では使わないわ。でも、ハンセタール王国だと使うのよ」
「ふーん」
――そんにゃ妙にゃ環境で練習してたら変にゃ癖とかついちゃわにゃいかにゃ。
ヘータはふとそんなことを思ったが、逆に次の試合も同じ条件でやるのなら自分の方がこれに合わせないといけないのかと思って、少し注意して試合を観察することにした。
試合は終始カインリルが優勢に進んでいた。
カインリルの戦い方はペガサスの特性をよく利用したもので、単体での攻撃力がほとんどない代わりに地上でも空でも自在に駆けることのできるペガサスをまるで自分の足のように使って空を飛びまわり、上空から攻撃魔法の雨を降らせるというものだった。
それに対し、バドルスは機動力に劣るゼオウィルムで足の勝負をすることは諦め、攻撃をオロンのブレスに任せてバドルス自身は防御魔法に徹していた。
カインリルはペガサスの手綱を持つ必要性から片手印をマスターしていたが、散々マナと戦って負けてきたバドルスは片手印の解読もコツを掴んでいて、遠距離からの攻撃魔法はほとんどバドルスの防御魔法で防ぎきられていた。
かと言って近距離に近づくとオロンのブレスが正確にカインリルを狙って放たれるので、カインリルとしては防がれると分かっていても安全な射程圏外からの攻撃に頼らざるをえなかった。
そういう状況で戦局は膠着しているように見えるものの、射程圏外から攻撃するカインリルと防御を失敗するたびに被弾するバドルスでは長期戦になればどちらが勝つかは明らかだった。
「どう思う、この試合?」
「どっちもどっち。全くなっちゃいねーにゃ」
「どの辺が?」
「まずカインリルにゃ。あれだけ優勢にゃら一気に突っ込んで止めを刺すべきにゃ。安全圏からぬるい魔法を打つだけにゃんてサルでもできるにゃ」
「確かにそうよね。単調な攻撃を何度も繰り返すなんて攻略法を考える時間を与えてるだけじゃないのね。本当、バカじゃないかしら」
「そのバカ相手に手も足もでにゃいバドルスも大概にゃ」
「じゃ、ヘータならあれをどう攻略する?」
マナの問いにヘータはにやりと牙を剥いて見せた。




