第6章「交流試合」 - 01
「おはよう、マナ。昨日はよく眠れたかにゃ」
朝、いつものようにダイニングキッチンに向かうと、妙に機嫌のよさそうな猫がいて怪訝な表情を浮かべるマナ。
食事のときにけんか腰になったのは初日だけで、2日目以降は食事の好みの違いについてはお互い不干渉ということでなんとなく一応暗黙の了解となっていた。もっとも、マナはまだ米を炊く臭いに慣れなくて、ヘータに換気を義務付けていた。
だが、それは朝からけんかをしないというだけでヘータが機嫌がよい理由にはならない。むしろ、毎朝窒息死の危険と隣り合わせのヘータは、朝はご飯を食べるまでそれほど機嫌はよくはない。
「どうしたの、ヘータ。朝からバナナと間違ってナメクジでも食べちゃった?」
「食べるわけにゃーだろ」
マナが言ったナメクジというのは大きくて黄色い体色をした一見小さいバナナにも見えるバナナナメクジと呼ばれるナメクジのことだ。茂みの中などを探すとわりと沢山見つかるが、間違っても食べるようなものではない。
「じゃあ、どうしてそんな気持ちの悪い顔でにやにやしてるのよ?」
「いいからいいから」
どうにもヘータの様子がおかしいので警戒を強めるが、特に変わった様子はないので何か得体のしれない食材でも手に入れてにまにましてるだけだと結論づけ、バゲットとハムとチーズとジュースを持ってテーブルに座った。
「いただきます」
ごくごくとジュースを喉が通る様子をじっと見つめるヘータ。
「何?」
「いや、何でもないにゃ」
おかしなやつだと、今度はバゲットに手を取って、バターをたっぷりつけて一口かじりついたところで、マナの背中に冷汗が滝のように流れた。
「うゎ、何この食感」
「はっはっは。引っかかったにゃ。これぞ秘伝納豆パンにゃ」
ヘータはわざわざちょっと朝早く起きて、たっぷり混ぜて糸を引いた納豆をマナのバゲットの中にきれいに詰め込んでおいたのだ。
しかも、パン切り包丁で切られて中身がばれてしまってはいけないので、わざわざ切らなくても食べられるサイズのバゲットがちょうど残るタイミングを狙ってずっとこのいたずらを計画していたのだった。
「この間のねちょねちょして臭い飯のお返しにゃ。あんにゃひどいものを食べさせたくせにお返しにこんにゃ美味しいものを代わりに食べさせてもらえるにゃんて、にゃんて贅沢にゃやつにゃ」
「……っ、<発現>」
パンを口に入れたままぷるぷるしていたマナだったが、口に入った分をどうにか飲み込むと即座に偽装もかけずに最速で魔法を放った。
「! <発現>」
しかし、超至近距離にも関わらず、神懸った反応速度でヘータが防御魔法を発現して魔法を相殺する。
ちなみに、ねちょねちょして臭い飯というのは以前ゲロを吐きそうな顔になってようやく食べた昼ご飯の海鮮リゾットのことだ。
「なんてことをしてくれるの。せっかくの朝食が台無しじゃない」
「にゃに言ってんにゃ。朝から納豆も味噌汁も焼き魚も海苔もない不健康にゃ生活にゃからせめて納豆はという親切心にゃ」
「へー。親切心ね」
そう言うと、マナはヘータのご飯の上にバターをぼたっと落とすと、その上からドレッシングをかけた。
「にゃ、にゃにするんにゃ」
「その味気ない穀物を煮ただけの食べ物に人間らしい味を付けてあげたのよ」
「ふ、ふざけるにゃ。せっかくのほかほかご飯が……」
「人のバゲットを台無しにしておいて言うセリフ?」
「えいっ」
「あ、ちょ、バカ猫!」
その後は、お互いのご飯に明らかに取り合わせの悪そうなトッピングかけまくった挙句、最後は泣きそうな顔で直視できない状態になったご飯を食べる羽目になった2人なのであった。




