第4章「デモンストレーション」 - 06
「……遅いっ!」
バドルスはいらつきを隠すつもりもないようだった。
もう後5分もすれば約束の時間なのに、まだ対戦相手が来ないからだ。会場である闘技場にはすでに観客席が満席になっていて、審判となるシシーとミレイも準備を終えていた。
「いつまで待たせるつもりだっ!!」
「まあまあまあ、バドルスくん、まだ約束の時間じゃないからね」
そんなバドルスをなだめているのは、バドルスが呼んだ審判役の生徒であるシシーだ。
彼はバドルスと仲がよいだけでなく、中等部2年で彼に次ぐ成績上位者の1人であり、かつ性格的にも温和で公平として知られている。生真面目だが短気なところがあるバドルスの手綱を握れる数少ない人物だなのだ。
と、闘技場の外のほうで歓声が上がった。
何事かとバドルスたちが歓声の上がった方を見ると、闘技場の入り口から台車を押した少女が入ってきた。マナだ。
「遅いぞっ!!」
「えっ、遅刻した? なんだ、まだ30秒前じゃないの」
「ふざけるな。本来ならこういう大切な試合の前には30分は早く来て準備するべきだ。不真面目にもほどがある」
「まあまあまあ」
「心配しなくても準備ならしてたわよ」
激高するバドルスをなだめるシシーを横目で見ながら、マナは台車の上の箱を開けてヘータに防具を着させ始めた。
ヘータの防具は4足の使い魔に着けさせる一般的な防具だが、子猫のサイズに合わせているのでかなり小さい。猫のしなやかな動きを妨げないようにところどころ毛並みが露出しているところもあり、象のように大きいオロンと戦うには何とも心もとない。
ただ、防具には魔法陣が組み込まれていて攻撃によるダメージを軽減させることができるので、防具の有無は見た目よりも効果がある。魔法陣の種類により効果のある攻撃が決まるので、どういう防具を選ぶかは試合の結果にかなり影響があると言える。
「マナさん、武器は使いますか?」
「もちろん。今準備するから。<発現>」
シシーの問いに答えたマナが呪文を唱えると、木製の箱から太いつるが伸びて、箱の中から直径50cm程の金属光沢のある大きな黒い球体を持ち上げてきた。
つるは球体につけられた把手の部分に絡みついていて、重そうにぶらぶらと揺れながら闘技場の脇へと運んで静かに下ろした。
メキッ
「おっと」
地面に下ろした瞬間何かが割れるような音がしたので慌てて球体を持ち上げると、下に敷き詰められているタイルの1つにひびが入って割れてしまっていた。
「ごめん、ここだとタイルが割れちゃうから、闘技場に載せちゃってもいいかな」
闘技場のタイルは特殊な素材で魔法の直撃にも耐えられるからちょっとのことで割れたりはしない。試合前に闘技場に上がるのは良いマナーとは言えないけど、むやみに施設を壊すわけにはいかないということで、黒い球体は闘技場の上に置くことになった。




