第3章「デビュー」 - 05
「じゃ、この書類に必要事項を書いて、もう一度ここに来て下さい」
事務の受付で使い魔の届け出用紙をもらったマナは、子猫と一緒に空欄を埋める作業をしていた。
「種族は猫よね。血統書とかある?」
「にゃーよ、そんなもん」
「まあ、見るからに雑種だわよね」
「にゃんだと?」
周りから気づかれないようにひそひそ声で話をする1人と1匹だが、会話の内容は親密なのか険悪なのかよくわからない。
「色は黒。体長、体重は?」
「知るかにゃ」
「適当でいいわよね。体重2kg……と。猫の体長って尻尾は入るの?」
始めて書く書類に悩みながら書き込んでいってようやく最後の項目にたどり着いた。
「使い魔の名前……? ねえ、あなたって名前あるの?」
「野良猫に名前にゃんてものがあるわけにゃいじゃにゃいか」
「だわよね。じゃあ、どうしようか」
マナは少し考えてから書類に何か書き込んだ。
「ヘータ? これが俺の名前にゃ?」
「そ。理力よ。魔素と理力っていいコンビじゃない?」
「にゃるほどにゃ。いいんじゃにゃいか」
子猫は気づかなかった。書類にヘータの名前を書き込むとき、マナの手がわずかに震えていたことに。
届け出が済んだマナとヘータはようやく大手を振って学園内に入ることができるようになり、一緒に1時限目の授業のある教室へと向かった。ヘータの定位置はマナの胸元ということになったようだ。
「お前、飛べにゃいのか?」
「学園内は飛行禁止よ」
耳元でお互いに囁きながらこそこそと会話していると、離れたところからただならぬ気配の持ち主が接近してきた。
「マナさまーー」
「げ、カルネ!」
カルネはマナのクラスメイトで、赤毛をおさげにして眼鏡をかけた女の子だ。ちなみに眼鏡は伊達眼鏡らしい。新聞部のマナ担当記者として日々マナの言動を追いかけるのを使命としている面倒なやつだ。
「マナさま、使い魔の契約おめでとうございます!」
カルネが遠くからそんなことを大声で言うものだから、声の届く学生たちが一斉にざわめき始めた。
中等部に上がって以来全試合を通して無敗を誇っていながら、頑なに使い魔を持つことを拒否していたマナがとうとう使い魔を持つことにしたのだ。学園の学生として興味を持たないほうがおかしいというものだ。




