第2章「契約」 - 07
マナが右手を体の後ろに隠したのはほんの一瞬だった。通常ならそんな一瞬で結印が完了するとは思えないのだが、マナの攻撃魔法はその一瞬のタイミングで発現したのだ。
何とか防御を間に合わせたが、わずかでも判断が遅れたら魔法の直撃を食らっていたに違いない。
――ならこんなのはどうかにゃ!
子猫は竜巻から飛び降りて、即座に次の魔法を発現させた。
「<発現>」
マナは即座に土属性の単一属性魔法だということを見て取った。そして防御魔法の属性を木属性に決定した。
そして攻撃魔法が着弾することを予想して身構えた瞬間、地面が揺れて大きな地割れが走った。
「<発現>」
だが、マナは慌てることなく手を下に向けてそう言うと、地面に木の根が現れて地割れを縫い付け、元の状態に復旧させて消滅した。
「その攻撃、あたし、知ってるから」
正面からの攻撃と見せかけて地面に地割れを起こすというパターンは、昔、寮の隣人と試合をしていたときによく仕掛けられて、そのたびに尻餅をつかされていたという記憶がある。
その経験から、マナは防御魔法の位置指定を一般的に使われる体を基準にした座標ではなく、結印した手を基準にした座標で決めることを習慣にしていた。
だから今回、攻撃の方向が下だと分かった瞬間、手を下に向けるだけで防御できたのだが、体座標だと結印そのものを修正しなくてはならず、防御が間に合わなかったに違いない。
――それにしても、強い!!
マナは戦いを通して気分が高揚して来ているのが分かった。こんな気分になったのはいつ以来だろう? もう、マナは子猫に魔法攻撃をすることに戸惑いを感じることはなかった。
マナは考えた。子猫は確かに強い。しかし、弱点はあるはずだ。例えばあのくるくるとよく動く尻尾。
子猫の魔法はあの尻尾で印を結ぶことで発現される。それは人間が指1本で結印するのと同じだ。ということはそれと同じ弱点があるはずだ。
指1本で行う結印の最大の弱点は速度だ。単純計算して、指10本使う両手印と比べて、指1本の結印は速度が1/10になる。子猫の尻尾は異様に早く動く上、結印そのものも工夫して両手印と同程度以上の速度を保っているが、その速度向上にも限界はある。
だから、スピード勝負に持ち込めばマナが有利なはずだ。
「<発現>」
マナは素早く印を結ぶと風の魔法の力を補助にして人間の脚力の限界を超えた速度で子猫に詰め寄った。至近距離から魔法を放てば発現から着弾までの時間が短縮されて防御魔法を発現する余裕がなくなるからだ。
「<発現>」
呼び出したのは足元の地面を柔らかくして底なし沼に引きずり込む土属性の魔法。さっきの子猫の地割れ魔法と同じく、正面から突撃すると見せかけての足元への攻撃。発現時の距離はわずか1メートル。
――勝った。




