第2章「契約」 - 05
子猫の思わぬ反撃を受けたマナは驚くとともに、疑惑を確信に変えていた。
――この子猫、魔法を使う!
一部の知性体にしか使えないはずの魔法を使う生物がいるというだけでも驚きだが、さらにこの子猫の魔法発現の仕方も驚くべきものだった。
通常、魔法の発現には両手を組み合わせた印を結ぶ必要がある。ただ、両手を使うことは必須ではなく、練習すれば片手でも結印は可能だ。それどころか、使う指の本数を制限して結印することも不可能ではなく、究極的には指一本でも可能なのだ。
子猫の場合、印を結ぶのに自由に動かせない前足の指を使うのではなく、尻尾の先を指のように動かして使っていた。
「やる気満々じゃにゃいか。にゃらこれでどうにゃ。<発現>」
マナが感心して隙に今度は子猫が魔法を使った。
周囲から木の枝やつるが伸びてきて、マナの手足を縛って宙に釣り上げた。
「<発現>」
子猫が追撃しようとしたところで、少女の魔法が発現してかまいたちが枝やつるを切り刻み、拘束を断ち切った。
――拘束されたまま魔法を使うにゃんてにゃかにゃかやるにゃ。
拘束されたまま魔法を使うには少なくとも片手で印を結ばなければならないので、大抵の人間の魔法使いは拘束された時点で詰みになることが多い。だが、片手で結印するマナには関係のない話だ。
「<発現>」
だが、それも想定の範囲内であり、子猫の尻尾は止まらなかった。今度は少女の着地の隙をついて魔法を発動した。
木片が手裏剣の形に変化して、風に乗って高速で飛んで少女に襲い掛かる。
――速い!
マナは子猫の尻尾の動きを見て、とっさにさっきとは反対の手に攻撃用で仕込んでいた結印を解除し、新しく別の印を結びなおして土壁の盾を作りだした。
直後、目で追うことも困難な速度で飛んできた手裏剣がトストスと土壁に突き刺さり、土壁もろとも崩れ去った。
ここまでの攻防で、信じられないことだが、この子猫が近代魔法のいろはを理解していることを確信していた。
魔法の攻防は属性が大きな意味を持つ。防御魔法は攻撃魔法と異なる属性の魔法を使わないと効果はなく、逆に攻撃魔法は防御魔法と同じ属性の魔法でなければ防がれてしまう。
これは魔法属性の干渉によるもので、異なる属性の魔法が混ざりあうと打ち消し合い、同じ属性の魔法が混ざりあうと共鳴する効果を魔法の攻防に適用した結果だ。
マナはかまいたちで拘束を断ち切った時、反対の手にさっきやられたのと同じ木属性の拘束魔法の結印を反撃用に仕込んでいたのだが、子猫はそれを見てわざと木属性の攻撃魔法をぶつけてきたのだ。しかも、マナの魔法の発現より早く。
おかげでマナは拘束魔法の結印を再利用して防御に回すことができず、新たに土属性の防御魔法を結びなおさなければならなくなった。
新しく結印をやり直すということはそれだけ時間のロスが発生するということだ。今回は何とか防御が間に合ったが危ういところだった。




