表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/32

15. バカンスはこれから

 とんでもない夏休み初日が過ぎて、数日が経った。

あの後一晩中千尋を宥めすかしたが、機嫌は一向に治らずそれから一週間は大変だった。「た」から始まる言葉を聞くだけで眉をひそめていた。……ちーちゃん、それはちょっと理不尽。


 瀧川くんもそんな千尋のことをよく分かっているのか、課外の為に出てきた学校で私たちに話かけることはなかった。イケメンは、空気も読めるのか。


 今日はやっと千尋の機嫌が治り、久々にみんなそろってお弁当を食べた。本当はお弁当はいらない。課外は午前中しかないしね。しかし今日は瀧川くんから事前に「お弁当を作るからみんなで一緒に食べよう」と誘われたので、課外後にみんなで集まったのだ。


 相変わらず瀧川くんは料理が上手だ。蓮が家庭の優しい味だとしたら、彼の料理はプロの味だった。女子として男子に毎回お弁当を作ってもらうのはどうかと思うのだが、ダークマターの生成している未来しか思い浮かばないのでおいしくいただくことにした。人生あきらめって大事だよね。



「あーどうしようかな……」


 ぼそっと呟いた私の一言がことのはじまりだった。


「どうしたんだ?」


 蓮が聞いてくる。


「今日から親が旅行に行くんだよね、一週間も。だからこれからどうしようかなって」


 うちのお父さんとお母さんはこっちが恥ずかしくなるほどラブラブだ。最初はみんなで旅行しようって言ってたけど、間近でいちゃいちゃされてもたまらない。丁度結婚記念日も近いことだし2人で行ってきてと言ったのだ。


「隼人がいるじゃないか。大丈夫じゃないか?」

「そうだね」


 弟がいるから大丈夫って普通逆じゃないか?何で大丈夫なんだよ、蓮。しかし実際は、さすがに子供2人残しては旅行に行けないと渋っていた両親を説得したのは隼人だ。「僕が姉さんの面倒を見るから」とうまく丸め込んだ。面倒見るっていう弟も弟だが、それに納得する親も親だと思う。……そんなに私、信用ないかな?


「ご両親がいらっしゃらない間は私の家に来ればいいわ、隼人くんも」

「う~ん……」


 千尋の提案はありがたかったのだが、私は曖昧ににごした。隼人は千尋が好きだ。そんな女の子が気軽にお家においでっていうのはあからさまに意識されてないってわかるっていうか、思春期男子的につらいっていうか……心中複雑であろう。お姉ちゃんは察する。


 一週間、どうしようかな。家事とか大変だよなー。なんだかんだいって隼人がなんとかしてくれるだろう。「姉さんじゃ足手まといだからゲームでもしといて」とか言われて。……うわ、リアルすぎて傷つく。


「じゃあ、僕のところにこない?」

「!!!???」


黙って聞いていた瀧川くんが、さらりと爆弾発言をした。それを聞いた私はぽかんとしていたが、千尋の目は吊り上がっていた。


「僕、夏は別荘にいくんだよね。明後日から学校の課外もいったんお休みにはいるでしょ?いつも颯と行っているんだけど、行村さんと弟君もおいでよ。神楽木と六条さんもね」


なるほど……って、え!別荘!?瀧川くんってお金持ちなの!?


「へー。お前と生駒、そんなに仲良いんだな」

「うん、従兄弟なんだ」


 ……蓮、食いつくところが違う。てか瀧川くんと生駒くんって従兄弟だったんだ。美形は血筋か。うらやましい。


「別荘の近くには海があるんだ。きっと楽しいよ」

「海!!」


 わぁぁ!海はいいな。泳ぎたい!浮き輪でぷかぷかしたい!焼きそば食べたい…じゅるり。目を輝かせた私に、千尋は苦々しげに見ていた。……いや、でも突然押しかけたら迷惑じゃないかな?


「みんなでわいわいやるのもいいよね。全然迷惑とかそんなことは考えなくていいから」


 顔にでていたのか、瀧川くんは笑顔を向けた。


「……お前らが、くるのか…?」

「颯、何か言った?」

「いや、別に」


 ぼそりと呟いた生駒くんに、瀧川くんは私とは違う種類の笑顔を向けた。すぐさま訂正する生駒くん。……君の立ち位置は見えた。


「海か、楽しそうだな!」


 蓮も乗り気だった。アウトドア系、好きだもんね。私とちーちゃんじゃそんなハードはことできないけど、弟も入れて男の子4人だったらいろいろできそうだし。


あとは………


「ちーちゃん………」

「………」


 最大の難関、千尋だけだ。蓮がこっそり私をつついてきた。説得しろってことですか。千尋は黙っている。


「ちーちゃん、海、一緒にいこ?」


 小首をかしげて可愛くお願いするなんて芸当ができたら楽だっただろうに。私は真摯に頼むしかできない。……私がやっても反感買うだけですけどね。えぇ、分かっていますとも。ううぅ。


「…………い」

「?」

「夏休み最後の3日間、絢音が私に付き合ってくれるならいいわ」


 シークレットボスの千尋はようやく折れてくれた。


 やったーー海だ!!!


 瀧川くんと生駒くんがいるけど、こっちには蓮と千尋がいる。きっと安全だ!!

私は早速海へと想いを馳せた。水着新しいの買おうかな?あ、日焼け止めもいるよね。お気に入りのワンピースを着ていこう!


 そうやって私は一人浮かれていたから、勝ち誇った笑みの瀧川くんと、悔しそうな千尋、笑っている蓮、そして何故か諦めたような顔の生駒くんなんて視界に入らなかった。



夏はまだまだ終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ