16. 姉と弟の攻防
帰宅後、さっそく隼人に話してみることにした。
「我が弟よ、バカンスに行かないかね?」
「はぁ?頭でも打ったの?……あといつもノックしてから入ってって、言っているよね」
「………」
悲しきかな、我が弟は私を胡乱げな目で見るだけだった。瀧川くんの別荘へみんなで行こうということになったと話す。
「へぇー、よかったね」
「いや、隼人も行くんだけど」
「え、僕も?……僕は姉さんと違って一人で留守番できるけど」
留守番くらい私もできるよ!!なんてこと言うんだ!
「てか、お邪魔じゃない?突然。相手の迷惑考えなよ」
「相手から言ってきたんだよ。結構好意的だったよ?」
「……相手って、あのかっこいい人?」
「うん」
「………」
隼人は難しい顔で黙り込んでしまった。え、そんなに考え込むこと?みんなで遊びに行くだけだよ?何で??単純思考な私は、複雑な弟の考えなど予想もつかない。
「………行く」
「そっか」
何だその間は。しかし、私にだってわかることは一つだけある。
「ちーちゃんもくるよ!」
「───っうっさいバカ姉貴!」
その場にあったクッションを投げつけられたので、速やかに退散する。弟は顔を真っ赤にしていた。うん。青春、青春。
しかし一つだけ問題があった。
「母さんたちへの電話、どうする?」
「………」
夕飯時、隼人にそう問いかけた。
きょうのメニューは麻婆豆腐だ。ちょっとピリ辛な味付けで食が進む。……ご飯あとでおかわりしようっと。夕飯は隼人が作った。私も最初は手伝ったよ?でもね、すぐに司令官から撤退命令がでてしまった。野菜すら切らせてくれなかった。野菜洗っていただけなのに。
「僕は嫌だよ。姉さんが電話かけてよ」
「えー」
「夕飯僕が作ったよね?それくらい姉さんがしてもいいと思うんだけど」
「だって隼人が追い出したんじゃないか!」
「姉さんがいたら家の絆創膏がなくなるんだよ!!食べ物が食べ物じゃなくなるんだよ!!!」
「………!!!」
ひどい侮辱を受けた。姉として、女子として。許すまじ………!しかし何一つ言い返すことはできなかった。だって事実だもん。
なんで両親の電話一本で揉めているのかというと、親のいちゃいちゃを聞きたくないからだ。「あ、絢音。どうしたの、何かあった?今ママね、パパとケーキ食べてるんだぁ。はいあなた、あーん」なんて電話口から聞こえてきたときは用事など忘れて無言で切った。すごい胸やけがした。大好きなケーキを一週間見れなかった。
2人だけのとき、「ねぇ、ダーリン」「なんだいハニー」とか言っているの知ってるんだからね!小さい頃はいいけど、親のいちゃいちゃを見るとか子供にしたらホラーでしかないから。
しかし今回は他所様の所へご厄介になりに行くのだ。さすがに事前連絡しないとまずい。
「メールでよくない?」
「それ、たぶん後で怒られるよ。そして電話かけ直しされる」
「深夜に電話かけて留守電にするとか」
「……電話とったらどうするんだよ」
「………」
ホラー再来。絶対に立ち直れなくなる。
色々話し合った結果、私が電話を掛けることになった。分かっていたけどね!!
深呼吸をする。この時だけは「姉さんファイト!」とか小声で隼人が応援した。応援するくらいなら、電話代わって欲しい。
プルルルルルルルルルル───
心臓がバクバクだ。着信ボタンを押した後のカチャっとした音がした。
「はい、もしも「お母さん!!私たち、旅に出るから!探さないで!!じゃ!」え、ちょ」
沈黙。
電話を切った後、静寂が私たち2人を包んだ。
「………」
「………」
「………なんで、旅?全然違うだろ」
「………とっさに出ちゃった」
「…馬鹿なの?」
「………」
そして、
チャララララーチャララララー………
隼人の携帯が鳴りだした。そろり、と顔を見合わせる。
「───っこんの、バカ姉貴ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃぃぃぃ~!!!」
私は自分の携帯を置いて、自室のある2階を駆け上がった。そりゃもうすごいスピードで。きっと、隼人が泣く泣く説明とのろけを聞いているのだろう。
しばらくして。
無音が広がっていた世界で、不吉な音がした。
みしっ、みしっ、みしっっ、
ゆっくりと階段を上る音がしたので、慌ててベットへと潜り込んだ。これからのことに備え耳を塞ぐ。お家がホラー劇場にミラクルチェンジした瞬間だった。
その後
出発するまで、白米とたくあんしか我が家の食卓には出なくなったので、隼人の怒りが身に染みて分かった。
ごめん、隼人。これはお姉ちゃんが悪かった。




