未来
優勝トロフィーを抱え、圭介と遊星が、出場者控室に戻ってきた。
その肩には、花吹雪が付いている。
圭介を見つけた綾子がニヤッと笑って声を掛ける。
「まじでむかつくな!」
「ああ、ありがとね。」
「祝ってないわ!」
「もうちょっとだったのにね?出ちゃったかな~実力の差が…」
「うわ~。ダル~~。」
これが、二人のノリなのだろうと、輝幸が何も言わずに横で見ていると、
圭介が、輝幸の方を向いて、言った。
「どうだった?俺らの漫才?」
「なんだ?まだ自慢続けるのか?」
輝幸は、半笑いで圭介に返したが、圭介の顔をよく見ると、目が笑っていないことに気づいた。
輝幸は、
「すごい漫才だったよ。」
と素直に答えた。
それを聞いて、満足そうに頷いたあと、圭介が続ける。
「俺たちは来年も出る。もちろん連覇だ。島本さんも言ってただろ?次の“お笑い”を担うのは俺たちだ。」
輝幸は、その目を見ていると、先程胸の中で燃え始めた火が、大きくなるのを感じた。
「お前は、文脈ってヤツを読めないのか?あれは、俺たちも含めて言ってたんだよ。それに、お前たちだけだと、そんな重いもの背負えないだろ?遠慮するな。俺たちも背負ってやるから。」
その火の勢いに任せて、輝幸が言った。
隣で綾子が自分を見ているのに気づき、輝幸が綾子の顔を見ると、綾子は、慌てたように、圭介の方を向いて言った。
「むしろ、私達が背負ってあげようか?あんた、お尻が大変そうだし。」
「ははは、まぁ、お前たちと競い合ったから、あれが生まれたのは認めよう。せいぜい俺たちを脅かせよ。」
輝幸は、圭介の隣にいた遊星が、ずっと輝幸を見ているのに気づいて、遊星の方を向き、目を合わせた。
遊星が口を開く。
「分かっただろ?」
そう言って、背を向けて歩いて行った。
輝幸は、その続きに”俺の方が上だ”という言葉が聞こえた気がした。
それを聞いていた圭介が、輝幸の目を見て、
「遊星がこうなるのは、お前だけだからな?」
と言って、遊星の後を追って歩き出した。
会場の出口で皆藤が二人を待っていた。
「お疲れ、惜しかったな。最高の出来だったぞ!」
「ほんと、惜しかったよ。」
綾子が大げさに返す。
「だが、ただ負けたわけじゃない…その証拠に、さっきからスマホが鳴りやまないぞ?」
「まじで?アヤコ体力大丈夫か?」
輝幸が心配して綾子に声をかけると、
「何を他人事のように言ってる?アヤコにこそ及ばないが、ナカジへのオファーも殺到してるぞ?」
「えっ、俺も?」
「そうだ、もはやナカジの言葉は、皆が知るところになったんだよ。」
皆藤が断言する。
「俺の言葉が…」
「お父さんにも届いているといいな?」
「あぁ、そうだった。」
「なんだ?忘れてたのか?大事な約束だろ?」
「いや、それどころじゃなくて…」
輝幸が笑う。
綾子はそれを見て、輝幸の心の呪縛が解けていることに気づいた。
輝幸は、この試練に真っ向から挑み、お笑い芸人としてだけではなく、人間としても、男としても大きく成長した。
輝幸の横顔を見ていると、綾子の心臓が”トクン”と鳴った。
綾子に見られていることに気づき、輝幸が綾子の目を見ると、綾子は言った。
「改めて言うよ。決勝のツカミで、私が静流くんに詰め寄った面白さは、ナカジが言語化したことで一気に形を持ってお客さんに伝わった。しかも、あの大舞台の土壇場で。」
「‥‥‥‥‥」
輝幸が、綾子の目を見たまま黙っていると、
「ナカジ、私の世界を広げてくれてありがとう。」
そう言って綾子は、微笑んだ。
――かつて、輝幸が閉じこもっていた本で、
彼とともにあった言葉たちは、
輝幸を連れて外の世界へと溢れ出した。
言葉たちは彼を連れて行く。
「楽園から続く道」の先へ――――
第一章はこの後、エピローグと番外編を予定しております。
この先もお付き合い、よろしくお願いします。




