表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/133

走り出しは賑やかに

「お姉ちゃん、頑張ってね!」


 出発時の「無理はしない」という宣言どおり、ルイーズとはここでお別れだ。

 私も引き返す一団との挨拶を済ませ、走り出す準備は整っている。


「じゃあ、作戦通りいくよ。」

「リル先生、よろしく!」


 次の区間だけ参加する、ジョイとシャカ。

 アリスと作戦を共有し、私への挑戦を宣言する。


「いいねいいね、みんなお顔が凛々しいね!それじゃ、あげぽよで行ってみよ~っ!」


 瑠璃語を交えながら、高らかに走り出しを宣言するのはハピィ。

 それを合図にするという約束も何もなかったが、私は素直に走り出す。

 半身で後ろを向きながら、大きく手を振り続ける。


「お~っと、さっそく激しいアタック合戦が勃発!さすがのハピィ姉さんも、これには追い付けない!」


 配分をかなぐり捨てて最初から飛び出す子たちが、随分と先行している。

 あっという間に千切られながらも、元気よく声を上げながら、誰に聞かせるわけでもない実況をするハピィ。

 その声も、私からどんどん離れて先に行く。

 飛べば圧倒的に速いというのに、それでも律儀に走っている。

 私は、手を振り返す子たちとの間に、最後尾をしっかりと務めてくれる紫露を見付け、安心する。


「リル先生は後ろが見えなくなったら本気出すんだよね。」


 細く編まれた髪の毛を背中で躍らせながら、シャカが私に話し掛ける。


「あら、今日の特等席はシャカなのね。そうよ、せっかくお見送りしてくれているのだもの。」


 シャカはにっこりと笑顔を深める。

 私に見分けてもらったのだもの、当然よね。


「前回と髪型入れ替えたのに。とても嬉しい。」


 夜のうちに入れ替えるという悪辣なことはしないが、前回と入れ替えるくらいのことは意図的にしているらしい。

 こうも素直に喜ばれると、間違えるわけにはいかないという重圧がすごい。

 とはいえ今回は、声や顔つきの微妙な違いを掴めるような気がしている。

 今日は双子といっぱい話すことを目標としようかしら。


「そうね、私だもの。ところでシャカは、道端の花が死の花だって知っているかしら?」

「知らない。キンコン花とカンコン木じゃないの?」

「あら、素敵な呼び名ね。」


 穏やかな風にゆられ、音の山が遠ざかっていく。

 昨日紫露が言ったように、まさに風の音だ。

 呼び名にしても、なんともイシュの民らしい。


「ガン・イシュ以外では、強い毒を持つの。私はそれぞれの名前を忘れちゃったけど、もっともっとおどろおどろしい名前で呼ばれてた気がするわ。」

「旦那様が餓者毒蘭(ガシャドクラン)とか死音夜叉(シオンヤシャ)とかって言ってたよ。」


 ジョイの後ろを走るアリスが、会話に参加する。

 目に入る連なる白い花と、群がる青い花の美しさに、名前の重厚感がそぐわない。


「旦那様って言うと、軍務家のルイスね。私はキンコン花とカンコン木の方が好きだわ。」

「私もつぶつぶの木とかまんまるの木とかって呼ぶ方が好き。」


 アリスが言っているのは、連果と水珠のことだ。

 連果は山岳国より北の侯国、海運国、公国などで広く栽培されていて、お酒の原料になっている。

 そして水珠は、我が王国で広く栽培されており、料理には欠かせない。

 街にいた頃は、大きな木というイメージは全くなかった。

 ガン・イシュでは花の回廊の天井のように育ち、赤の森と呼ばれている。


「作戦その一!補給食!」

「あら、ばらしてしまっていいのかしら?」

「いいんだ。補給は出発前に終わってるし。」

「合わせの栄養は、即効性と腹持ちを兼ね備えている!」


 連果や水珠の甘みと、死の花の実の深い味わいに、西の海の塩。

 これらを合わせてなんやかんやすると、頬が落ちるような甘味が出来上がる。

 内部が空洞になっているカンコン木の葉で、長期保存まで可能となっている。

 口にしてからこれだけ死の花が活用されていると知ったら、卒倒する人もいるだろう。


「おーっと、最後の一人がリルたち先頭集団に吸収された~っ!」


 そうこう言っているうちに、いつもの速度帯で走っていた。

 ハピィが追い掛けて行った逃げ集団は、力尽きて合流したかと思ったら、そのまま後ろに離れていく。


「紫露、お願いね。」


 聞こえるはずもない距離が開いた紫露に託し、私は速度を維持する。

 辺りからは赤い土が消え、白い道の外には緑の絨毯が広がっている。

 白い土埃が、空の雲に溶け込むように舞い上がる。


 ここは空が近い。

 そう感じるのは、低く雲が流れていくからだ。

 今日は昨日と違って、曇り空。

 台地の上では、昨日のようにすっきりと晴れることはまれだ。

 周回中にあと一度あればいい方ではないだろうか。


 今日の天気の珍しさは雲ではなく、風だ。

 だいたいの日は、西からやや北寄りの暖かい風が吹き続けるのだが、今日は風が弱い。


「さあ、先頭だね。」

「今日は作戦その二は効果的かもしれないね。」


 後ろに続くみんなの口数が、だんだんと少なくなっている。

 お話できるくらいが丁度いいのだけれど。


「さあ、この区間のいつもの顔触れが揃った先頭集団。集団を引っ張るリルのすぐ後ろには、双子の一人、声の高い方のシャカがぴったりと続く。」


 おしゃべりを続けるのはハピィ。

 掴みかけていた髪型以外の特徴が断言される。


「素晴らしい解説だわ、続けなさい。」

「じゃあここでリルに問題!前方確認で右にずれがちなのは、ジョイとシャカ、どっち?」


 ジョイとシャカの見分け方を言ったからだと察知したのだろうか。

 それにしても難問過ぎないかしら。

 思わずさっと後ろを振り向くと、ジョイとシャカが期待に満ちた目を向けてこちらを見ている。


「簡単な問題ね。姉のジョイよ。」

「正解!何でわかったの?」

「二人が真っ直ぐ並んでたら、後ろのジョイは私の顔を見れないじゃない。今まさに右にずれて見ているわ。でも、ごめんなさいね。何でかはわからないわ。」

「シャカの右にいる方が安心するんだ。何でかはわからないけど。」

「ジョイが右にいる方が安心するね、確かに。」

「双子問題、勉強になるわね。もっと知りたいわ。」


 それからハピィのみならず、ジョイとシャカも双子問題の出題者となり、尽きない問題の応酬で時間と距離が消化されていった。

 風が弱いせいか、今日はプテラケファルスを見ることはないだろう。

 左手の崖の向こうに見える海を見下ろしながら、そんな風に思う。

 その予想は、小さい動物たちも同じらしい。

 右手には、黒の森から緑の絨毯に顔を出して、熱心に苔や地衣類を食む姿が、いつもより頻繁に観察できるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ