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ベータテスト

 こんくらいを示そう。


 そんな決まりごとができた。

 私がしたことは、マイヤーに頼んだおやつを配ったくらい。


 元々、相手の立場に立って譲り合うことができた子たちだ。

 まずはやってみよう。

 みんながみんな、そう思える案にたどりつくまで、喧しく、嘩しく、意見が交わされる。

 この喧嘩はイシュの華だわ。



 まず両手をいっぱいに広げて、譲ってもいい気持ちの分だけ、狭めていくことにしよう。


 指折り数えるなどという、数の上で同じにするなんて案は、小指の先ほども出てこなかった。

 元になった魔物が異なるため、違うことが当たり前。

 イシュの民は、そういう種族なのだ。 


 そう、イシュの民は獣人である。

 物心ついた頃にはそんなことは常識としてあった。

 ケモミミであり、もふもふである。

 今や定着しているそんな表現は、戻った記憶には無かった。


 私に入っていた、どこぞの瑠璃という人格。


 紫露が言う、皆と違う願いの魔法で。


 水結晶から伸びた糸で留められていたそれは、偶然が重なり、抜け落ちた。


 ◆


 今年もイシュの民のみんなが、幸せでありますように。


 紫露は、確かにそう言った。

 その結果が、皆とは違う、願いの魔法。

 私にも作用した、未知の魔法だ。


「紫露、教えてくれないかな。」


 白銀のもふもふを見付け、私は声を掛けた。

 まず、出てきた話はお母様のこと。



 幼い頃に、私の全力に付き合ってくれた大好きなお母様。

 孤児院、それにここ、ガン・イシュで子どもの元気さを痛感している私は、当時と変わらぬお母様を心の底からすごいと見直した。

 体力の限界を知らず、出し惜しみをしない子どもは、とにかく力強い。


 お母様は、どーんと突撃しても、力を逃がして柔らかく受け止めてくれた。


「普通に受けて!」


 と、怒ったりもしたことを覚えている。

 てっきりハピィの羽毛のように、ふかふかに包まれるものだと期待していたのだが。

 返ってきた衝撃は、ごちん。

 私のお母様は、自慢のお母様。

 とってもすごい戦士なのだ。



 だから、王都に喚ばれた。


 シロとはそこで会ったようだ。


 必死で戻ってみたら、娘が自分を覚えている素振りを欠片も見せない。

 あの豪快な笑いの裏に、どれだけの感情を隠していたのだろうか。


 私、街に戻ったら、お母様に全力で突撃してやるんだ。



 それから紫露は、九本あった尾のうち八本を粉にし、橙を造った。

 あの、一部の者たちから密かに人気を集めている、狐の獣人たちである。

 八人八様に、外壁の街を訪れる様々な国の人々の特徴を持ち、瑠璃がイケメン集団と称していた連中だ。


 橙を従え、北の水源の間に初詣に行き、シロは紫露となった。

 表向きには、後天的例外種をつくる実験に成功したとして。

 それが、お母様と再会した前日という位置付けになるだろう。

 お母様は、鳥獣憐みの令が動き出した後、一度王都に戻っており、この実験の成果を以て、正式に辺境伯領の特使になったようだ。

 鳥獣憐みの令や孤児院についても、このときに王都に伝わっている。

 辺境伯領限定で進めることとなったあたり、やはり結果の予測はできていたのだろう。


 そしてあの反乱が起こり、水を止めるために、本当に後天的例外種をつくる術を使うことになった。

 メレナをはじめ、カイのところのみんなが多くを占めるみんなの帰還により、知れ渡っていることだろう。


 私のやるべきことは、底知れない紫露の(シロ)を知ることだ。

 何故、紫露は、わざわざ皆とは違うとしながらも、願いの魔法だと言ったのだろうか。


「願いの魔法を打ち消したってことは、紫露の願いの魔法だって消えたんじゃないの?」


 まずおかしい気がしたのはそこだ。

 人間の血に魔力はない。

 それはそうなのだろう。

 伝承にしか残らないような大昔。

 人間たちが魔法を使いまくっていた時代とは違って。


 そのために、水結晶から私に糸が繋がる必要があった。

 これは、本当かどうか分からない。

 何せ人間は、水結晶や黄金の穀倉地といった魔力的な作用の結果を見ることはできても、魔力そのものを見ることはできないのだ。

 とはいえ、願いの魔法ごと供給していたのだろうか。


「主さんは他の誰よりも鋭いでありんすなぁ。その通りでござりんす。消えて初めて、願いの魔法だったと知ったんでありんす。」


 紫露はひらりと扇をあおぎ、困ったように目を細めた。

 続く質問は、軽いついでのつもりだった。


「じゃあその変な喋り方も、何でか覚えてないんだ。」

「へ、変とは何でありんすか!これは殿方に求められる女の雅な言葉だったはずでありんす!」


 慌てて視線を逸らそうとしたが、次の瞬間には、むしろ挑戦的な態度に切り替わる。

 落としかけた扇子を、まるで最初からそうするつもりだったかのように、わざとらしく音を立てて閉じて、その先端でこちらの鼻先を指し示した。


「ふーん。男に囲まれたかったんだ。え、てゆーかまさか、橙の造形って紫露の趣味なの?!」


 あの顔ぶれとその振る舞いを思い返し、肩のあたりがむず痒くなった。


「……エエやんか!ウチは長いコト一人で寂しかってんやもん!ちょっとくらい自分のために術使って何が悪いねん!」


 突然、紫露の口から別の節回しが転がり出てきた。

 カイのような訛りに、思わず瞬きをする。


「え、何、あなたそれが素なの?」


 私は、努めて冷静に問い返す。


「そうや悪いか!どーせウチは腐っとるわ!ほんで、変とかはっきり言われて続けれるほど図太うもないねん!悪いか!」


 開き直りが続くが、言っていることは情けない。


「いえ、別人過ぎて驚いた、というのが正直な感想かしら。」


 動きはどことなく優美であり、大きな街を避けてガン・イシュへ向かった判断など、知性も備えている。


 願いの魔法が打ち消された後も含めて、そう紫露を評していたのだが。

 まさか、「変」の一言で崩壊するなどとは、夢にも思わなかった。

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