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ストラーデ・ビアンケ

 風車の下にある大きな入り口に大量の馬車が次々と吸い込まれていく。斜め上に用途の分からない点があり、もう顔にしか見えない。まるであのシンボルマークが困った顔をしているようで、「もう食べられない」とでも嘆いているように見えた。


「まあ、どう見ても知ってる馬じゃないよね。」


 ずんぐりむっくりとして重厚感のある生き物である。確かに馬車を引いているが、馬とは違う。体は馬よりもずっと大きく、筋肉質で、首は短い。額から鼻先にかけてまっすぐに伸びるのは、一言で言うと盾。背中には小さな隆起が並び、しなやかに揺れる短めの尻尾はフリフリと御者をおちょくっているようで愛らしい。


「ふふっ……ウマカリちゃんは飲み物です。なんてね。」


 裏手から二手に分かれて馬車が吐き出され、奥にそびえる外壁の麓を通って風車から離れていく。

 私は外壁へと向かう水道橋を辿ろうと、橋下に寄り添う白い未舗装路を見通した。


  「小麦粉の道、って感じ!サクサク音がしそう!」


 食欲に引っ張られた感想に、思わず笑みがこぼれる。光の加減でほんのり灰色がかった白さは、日差しを反射して目を細めさせるほど明るい。靴を貫くような鋭利な石も、躓きそうな木の根もなく、誰かの丁寧な整備を思わせるように、道は滑らかに延びている。 足を踏み入れると、踏み固められて安定している場所と、少し沈み込む場所があることに気付く。足を取られる箇所もあるが、驚くほど歩きにくいわけではない。


  「わわっ!?」


  堅い地盤に薄い砂。ズルリと足が滑って大きくバランスを崩す。油断大敵である。

  一歩一歩確かめながら進む。踏まれてかすかに砂利がきしむ。サクサクではなくジャリジャリと音が鳴る。パンやパスタへの欲を頭の隅に追いやり、とりあえずあの壁まで行ってみよう、と水路のさざめきに集中する。音の世界に沈み、水と砂の調べを楽しむ。水路は徐々に橋脚を伸ばし、風車の向こう、手前になだらかに裾を広げる外壁の方へと登っていく。


「風車でくみ上げてるのかと思ったのに。」


 思わず口にする。石畳の馬車道はアーチの建物の手前で折れ、その先の風車は水路から離れて建っているようだ。つまり水路は風車には向かっておらず、予想は否定されたわけだ。


 外壁が間近に迫るころ、白い未舗装路は石畳の馬車道とかち合う。三車線に並んで右手から次々と押し寄せては、緩やかに曲がる外壁沿いを遠ざかっていく、荷台に低く袋を積んだ馬車の群れ。私は身を引いて途切れを待つ。水道橋を見上げると、水路は外壁の中ほどを貫くように続いている。


「もしかして見学かい?」


 横切る馬車の発する轟音に負けない大声に驚いて振り向くと、そこにはこの街でよく見掛ける装いの男が立っていた。白いワンピースの裾には青いライン、左肩から赤く長い布を袈裟掛けにし、太い黄色の帯で締めている。もみあげだけをふっさふさと残したスキンヘッドの彫りの深い顔立ちが、こちらをおだやかに覗き込んでいた。


 何か見るものがあるんですか?そんな質問が、ここでは相手に届かない。


「わっはっは。向こうの扉の中で聞くことにするよ。」


 なぜかおじさんの大声ははっきりと聞こえ、直後、馬車の群れが横断を促すようにピタリと止まる。かき消されていた水の声が聞こえ出す。なんだかまるで、信号が切り替わった直後の横断歩道だ。胸の奥がひとしずくに触れて震えたのを感じた。私はその波紋からそっと目を逸らし、外壁の中へと進むのだった。

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