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箱庭

 同じ季節が何度も巡り、街の様子は転生した当初から大きく様変わりしていた。

 それもこれも、私、聖女様のおかげである。

 私は、親がどんな風に働いているのか全く知らない子供だった。

 鳥獣憐みの令は大人の世界に参加するきっかけで、孤児院活動は私を聖女にした。



 その日は殊のほか暑く、噴水広場まで足を伸ばしたくなった。


「リオナ、ちょっとおばちゃんの店にリンゴとバナナを買いに行ってくるよ。」

 リオナも多忙な日々を送っている。

「うん、行ってらっしゃい。」

 忙しそうなリオナを尻目に、私は堂々と一人、サボりに出掛ける。


 街を歩けば、質の良い服に身を包んだ獣人たちとすれ違う。店先で働いている者、荷物を抱える者は所有者のいる奴隷だ。それ以外は、奴隷候補であることが多い。

 街では日常的に住民がそうした獣人に声を掛け、連れ帰る。彼らはナンパ同然の勧誘に成功すると所有者となり、少なくない寄付金を納めてくれる。

 ——今や外壁の外側で随分と巨大な施設となった孤児院、あるいは中央広場に建つ、建物も教義も真新しい教会か——そのどちらかに。

 教会では奴隷候補たちに質のいい服や寝床を与えており、実質、孤児院の出張所だ。

 私のためにネロおじさんやオクパトスのおじさんが整備してくれた仕組みだった。


 かつて見た奴隷が、首輪や枷を付けられてボロボロの服を纏っていたことを思えば、皆幸せそうに見える。


「いやいやいやいやっ!無理無理無理無理っ!」


 すれ違う獣人を目にするたびに、こうして真面目なことを考えながら冷静さを取り戻そうとする癖は、すっかりと定着してしまっていた。好みの獣人とすれ違うと、たちまちうろたえてしまう私。


 自分の性癖を初対面の相手にぶちまけろというのか。


 一定期間、ナンパされなかった子は孤児院に帰っていく。服飾品は続けて使ってもいいので、奴隷候補に憧れる獣人も多いのだ。


「おばちゃん……どうしよう……」


 私はごちゃごちゃと考えながらお散歩コースを一周し、おばちゃんの露店、中央広場の噴水前に来ていた。


「信じられないねぇ、あんたがそんなヘタレだなんて。あたし相手にゃ随分と勝手言ってくれるってのに。」


 おばちゃんは、この世界で初めて言葉を交わした人だ。私の買った果物にリンゴとバナナと名札を付けて売ってくれるようになった。それで通じるので、この世界で何と呼ばれているかなんて知らない。


「だって何て言えばいいのよ!?もふもふさせてください!?いや、馬鹿か!!」

「はっはっはっ!悩め若者!幸せな悩みじゃないか!ほら、特別このへびいちごをおまけしてあげるからさ!」


 おばちゃんの笑いに、秤の皿が小さく鳴った。紙袋がふくらみ、甘い匂いがふわりと漏れる。


「わあ!懐かしい!昔、道端で摘まんで食べて怒られたやつ!」


 舌先に蘇る酸っぱさ。土の匂い。夕方の叱られ声まで、一緒に戻ってくる。


「そうかい?これはね、むかしむかし、とある街の領主様の娘だったか、聖女様だったが食べたと言われる果物と見た目がそっくりらしくてね。その娘さんがへびいちごと名付けて行ったのさ。ただし、お嬢様が食べた記憶の百万倍は甘くて美味しかったって話さ!」

「へえ!それは期待が持てるわ!ってそれ、私のことじゃん!」


 おばちゃんは目尻を下げ、包み紙の口をきゅっと折る。

 噴水の音が一拍遅れて、会話の隙間に落ちた。


「おお、ナイスなノリツッコミ!あ、おばちゃん、こんにちは。」


 横合いから軽い足音。風に乗ってきたみたいな声が、露店の陰をひとつ明るくする。


「出た、出会いモンスター。」

「え?スター?やっぱわかってまう?この内面から溢れ出て来るきらめき!」


 くそう。なぜこんなヤツがナンパに成功しまくっているのか。


 この男はおばちゃんの息子レンの大親友、カイ。いつも一緒にいるような気がするが、今日は一人のようだ。


「何?なんか用?」

「つれないわぁ。アイツ何でこんなお嬢様がエエとか言うてんのやろ。」

「聞こえてるわよ。で、何しに来たのよ。」


 こちらに来てすぐ、レンとカイには会っていた。(リル)(瑠璃)だとリオナに告げてすぐくらいだった。

 年格好が近いこと、相手の距離感がこんな風に近かったことから、恐らく知り合いなんだろうな、とは思った。

 でも、男子と話したことなんてあんまりなかったし、何よりこの身体(リル)が拒絶したような気がした。


「あらま、今の聞きました?おばちゃん。自意識過剰や思わへん?バナナ買いに来ただけかもしらんのに。」

 私は肩をすくめ「あらそう。お邪魔様。」とだけ告げて踵を返した。


 ゆえにこのようにつっけんどんな返しになったのだが、どうやらそれで正解だったようだ。

 そのままリオナに促されて離れたと思う。リオナ的にもその対応で正解だと言っていた。


「いや、ホンマに行ってまうんかーい!」


 後ろで何か言っているようだが、私は中央広場から伸びる水道橋沿いの道の方へと歩き出した。

 私的にもこの対応は正解だと思う。この男、黄金の穀倉地あたりを治める貴族の坊っちゃんで、教会の寄付台帳の筆頭に名が載るのも、だいたいこいつだ。


 つまり、ナンパ野郎。女の敵。まあ、最後のは日本での価値観なんだけど。

 幸せそうだと一番感じたのがこいつのとこの奴隷達。

 ——それがまた、ムカつく。

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