イシュ(偽)
かつて、世界には魔物と呼ばれる強大な魔力を持つ生物が跋扈していた。
人々は、ギルドという制度を作り、そこに所属する冒険者と呼ばれるハンターたちが魔物を根絶やしにしていった。
食物連鎖の上位から絶滅していった結果、下位の生物は大繁殖していた。
最も繁殖したのはヒトという種であり、さらに他の種を絶滅の危機に追いやった。
かつて、魔物を「家族」と呼ぶ冒険者たちがいた。
彼らは戦うためでなく、共に生きるために新たなギルドを結成した。
そのうちのひとりが、愛した。
異形の者に、真の意味で心を通わせた。
それは神々の理に反するはずの愛――
だがその祈りは清らかすぎて、神でさえ否定しきれなかった。
こうして「願いの魔法」が生まれた。
魔法は人と魔の間に橋を架け、
その末裔たちは獣人として生を受けた。
彼らは知性と理性を持ち、血に混じる魔力で
「異種の民」と呼ばれるようになった。
異種の民は、力においてヒトに勝りながらも、心は限りなく穏やかだった。
愛から生まれた種は争いを好まず、森の声や風の流れと語らいながら生きていた。
だが、その優しさこそが彼らを弱者にした。
かつてのハンター制度の余波により、魔物と見なされた異種の民は住む場所を追われていった。
棲み処を追われ、森を焼かれ、それでも彼らは戦わなかった。
血に汚れぬ道を選んだ。
「異種」と呼ばれるたびに、選民思想を刻み付けられる。
だがある日、長が言った。
「異なることを恥じるな。イシュ──それは我らの言葉で『人』という意味だ。なれば私たちは、『人であることを知る民』だ。」
こうして、異種の民は「イシュの民」と名乗り、誇りを抱いた。
野生への高い適応力を持つイシュの民は、ヒトが立ち入ることさえ困難な、霧深き山脈と断崖を越え、やがて誰の手も届かぬ大地にたどり着く。
そこは――森と水と風が巡る、広大な地。
彼らはその土地を「ガン・イシュ」と呼んだ。
「イシュの楽園」を意味するその名とともに、祈りと歌を残した。
「イシュ」それは原初の魔物
愛を育み願いを唱える
「イシュの民」よ「人であれ」
彼の地に向けて夜明けを祈ろう




