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リオナの音

「さあさあ子供たち、寄ってらっしゃい!はいはいそこ座ってね!きのこの上なんかちょっとしたおすすめだよ!譲り合ってないで急がなきゃあ始まっちゃうよ!ハピィ姉ちゃんのお歌の時間だよ!」


 ラヴィとの羽根取り合戦のあとだった。

 ハピィは羽をぱたぱたと鳴らしながら、広場の中央を陽気に歩き回っていた。

 吊るされた光り物が風に揺れ、きらきらと子どもたちの顔を照らす。

「ほら、きのこ二人乗りなんかしたら泣いちゃうよ!早い者勝ちね、でも押し合いっこなしー!」

 子どもたちは笑いながら素直に輪を作り、彼女の足元に集まった。


 旅用の鞄をひっくり返したように、金属片や貝殻、石飾り、風鈴の欠片がずらりと並ぶ。

 ハピィはその中央に腰を下ろし、羽を後ろに広げて体を支え、腰を支点に長いあしゆびで光り物を弾いた。


 貝殻がかすかに鳴り、石飾りが澄んだ音を返す。

 風鈴の欠片が触れ合い、夜の空気を震わせた。

 その音たちが少しずつまとまり、静かな旋律になっていく。


 やがて、ハピィは短い伝承を語った。

 光り物たちはその間じゅう、清らかな音を奏でていた。

 彼女の声は低く、羽の先が風を切るような音を帯びていた。

 語られる言葉のひとつひとつが、夜の底へ沈んでいく。


「イシュ」それは原初の魔物

 愛を育み願いを唱える

「イシュの民」よ「人であれ」

 彼の地に向けて夜明けを祈ろう


 それは歌のようで、言葉のようでもあった。

 単語の間で息を途切れさせず、子音を先取りしながら流れる。

 ときに意外な場所で音が詰まり、ときに一つの言葉に複数の音が割り当てられているように聞こえた。

 まるで、水と風と声がいっしょに喋っているみたいだった。

 リオナは息を止めたまま、それを聞いていた。

 火の明かりがハピィの羽を照らし、そのたびに光り物が小さく共鳴する。

 まるで音が彼女を包み込み、風とともに語りそのものが流れていくようだった。


 やがて、語りは冒頭の祈りの歌へと戻った。

 ハピィの声は、夜風に溶けて柔らかく揺れる。

 それは始まりと終わりをつなぐ輪のようで、光り物たちがまた一斉に、清らかな音を返した。


 最後の節が終わると——

「——よっし!おしまーいっ!」


 場がびくりと揺れた。

 ハピィは両の翼を勢いよく鳴らし、腰をぽんと叩いて立ち上がる。

「ふぅ〜〜っ、や~り切った、やり切った!いやぁ〜感動したわ〜自分に!」


 光り物のひとつが転がり、金属のかすれた音が余韻を無理やり締めくくる。

 子どもたちはきょとんとしていたが、ハピィはおどけた笑みで手を打ち鳴らした。


「ほらほら拍手ー!涙は後でもいいけど拍手は今!リズムはとっとっとん、とっとん!だよ!」


 広場に手拍子が響き、笑い声が戻る。

 そのとき、輪の中からひとりの子が手を挙げた。

「ねぇハピィ姉ちゃん、お歌もう一回!」

「えー?もっかい?……んー、じゃあ特別サービス!」


 ハピィはにやりと笑い、鞄の中からさっさとしまい終わっていた光り物をひとつひとつ拾い上げて配り始めた。

「はい、あなたには貝のかけら。君には風鈴の舌。……はい、落としたら拾ってね、泣くなよー?」

 子どもたちは笑いながら受け取っていく。


 最後に、ハピィはリオナの前で足を止めた。

 爪の間で光を弾かせながら、銀に光る穴あきの貨幣と、厚めの指輪を見せた。

「これは特別セット。薄い輪っかと、相棒の輪っか。音、いいよ。」

 差し出されたそれを受け取ると、指輪は中指にぴたりとはまった。


 試しに軽く当てると、銀貨が涼しい音を鳴らした。

 リオナはその響きがどこか祈りに似ている気がした。


「君、この高さ!」「君はこっちに立って、高い音!」

 ハピィは次々に子どもたちを配置し、即席の合唱隊を作り始めた。

 輪は広がり、光り物が夜の風に合わせて鳴る。

 その中で、祈りの歌が再び始まった。


 旋律は先ほどより短く、優しかった。

 みんなが声を合わせる。

 最初は小さく、やがて輪がひとつの声になった。

 リオナも、銀貨を指輪で軽く叩きながら口ずさんだ。

 耳で追い、体で覚える。

 音が言葉を覚え、願いの形になっていく。


 歌がまとまりを見せたころ、ハピィは羽をぱっと広げた。

「はいっ、今の百点!みんな最高!……よし解散!」

 またしても余韻を吹き飛ばすように言い放ち、腰に手を当てて大笑いする。


 子どもたちはぱらぱらと散っていき、ラヴィが苦笑しながら言った。

「ねえ……あの人、本当にすごいのか、すごくないのか、わかんないね。」

 リオナは黙って頷き、中指の輪と銀貨をそっと鳴らしてみた。

 涼しい音が響き、それが、胸の奥にゆっくり染みていった。

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