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ラヴィの火

 ガン・イシュでの日々が始まった。

 私は1歳になり、成体となっていた。

 同じく成体になったばかりの子供たちと過ごす日々が始まる。

 そこでは、怒りも憎しみも存在しなかった。

 子供たちの喧嘩は、(やかま)しく、(かまびす)しかったが、過剰なまでの譲り合いだった。

 私が譲られると、喧嘩にもならない。


 そんな穏やかな日々の中で、私は再び怒りを覚えた。

 新しく合流したグループの中で、譲られなかったことに——ただそれだけで。

 相手は兎のような耳を持つラヴィという少女だった。

 後から聞けば、ラヴィも譲られなかったことに怒っていたのだという。

 腹を割って話せるころ、そもそも奪い合っていたものがいったい何だったか。それすらも忘れていることに気付き、笑い合った。

 ただ、お互い引けなくなって殴り合いの喧嘩になったため、周りの大人も巻き込んでたいそう大事になった。

 ラヴィにとっては、初めての怒りだったのだそうな。


 日が沈む前のガン・イシュは、まるで空そのものが溶けて降りてきたようだった。

 赤と金の光が雲の底を舐め、台地の縁を燃やしていた。

 その光の中で、私とラヴィは腰を下ろし、手のひらの小石を転がしていた。


「ねえ、ラヴィ。あの時むんむんあったよね。」

 私が言うと、ラヴィは口角を上げて頷いた。

「どの時?あたし、いっぱいむんむんしてたよ。」


 笑い合って、二人の視線は西の空へ溶けていく。

 それぞれの胸に浮かぶあの時は、少しずつ違っていた。


 私が思い出すのは、風玉あそびの午後。

 思いっ切り振りかぶって投げた風玉はリオナの手を離れてすぐ、ラヴィの額にぽすんと当たった。

 倒れ込んだラヴィの顔が一瞬むっとして、それからふっと笑った。

 軽く弾いただけの風玉が先の方に落ちる。

「負け方によってむんむんになるときがあるの。」


 ラヴィが語るのは、花摘みのとき。

 子どもたちが色とりどりの花を摘み合う中で、私はひとりの泣きそうな子に花を分け与えた。

 その子の顔がぱっと明るくなるのを見た瞬間、ラヴィの中で何かが跳ねたそうな。

「なんで?」

 そう言われてしまった。


 ラヴィの羽根取り合戦を思い出す。

 1羽と1羽が相対す。相手は年上。不足はない。

「むっ……きぃ~っ!!!!!」

 叫んで、地面を蹴っていた。

「へっへ~ん!」ラヴィを煽りに煽って余裕をかましまくったハピィの勝利。手も足も届かなかった。


「ねえ、ラヴィ。むんむんって、火みたいに熱くなるの。」

 私がぽつりとつぶやく。

「そだね。でもあたしの中じゃ、音かな。どくどくって。体が鳴ってるよ。」

 ラヴィは胸を叩いて笑った。

「じゃあ、むんむんって音と火の名前だね。」

 私はそう言って、微笑んだ。



 ラヴィと過ごした日々のなかで、私は知った。

 怒りは、嬉しいとか悲しいとかと同じように、ちゃんと自分の中にあるものなのだと。

 でもそれを知っただけで、まだ人間のことはわかっていなかった。

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