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タコからリンゴへ

 水の流れをたどり、私は海まで辿り着いた。潮の香りと波の音に包まれながら、ふと考える。


「この水、どこから来るんだろう……」


 好奇心に従って、今度は水の源を探して逆方向へ歩き出した。坂道は上りになり、石畳の感触が足裏に伝わる。水路も同じく上へ上へと続き、流れの音が少しずつ大きくなる。


 やがて、坂を上り切ると見覚えのある広場が目に入った。噴水広場だ。かつて腰を下ろした場所を遠くに見て、少し安心した瞬間――


「ぐぅう……!」


 お腹が、信じられないほど大きく鳴った。


 咄嗟に顔を上げると、周囲の人々の視線が一斉にこちらに向いている。噴水に足を浸して集めた視線

 よりも明らかに多くの目が私を見返していた。


「ええ、そんなに?!」


 私はゆでだこのように真っ赤になり、慌ててその場から逃げるように早足で歩き出す。恥ずかしさを落ち着けようと、人混みの間からちらちらと見えている色とりどりの果物に目を向けながら、歩く速度を少しずつ戻していく。

 私は自然な買い物客のように振る舞いながら露店に並ぶリンゴを指差した。


「これ、五つでおいくらですか??」


 店主の朗らかなおばちゃんがにこやかに顔を向ける。


「あんた、お目が高いねぇ!ほら見てごらん、この色!まるでお日様を飲み込んだ夕焼けの輝きのようだ!かじったらね、なんとあの海を渡った冒険者が飲んでいたという水の瑞々しさ!香りをかげば、伝説の竜が眠るとされる山の花の香りまで届くんじゃないかって思うくらいさ!昔々どこぞの大王様が戦の前に必ず口にしたとかしないとか!皮の光沢なんて、古代神殿で祭りに使われた金属の杯そのもの!それって錆びてるんじゃなんて言いっこなしだよ!そして、この酸味、世界を旅することになる大商人が初めて口にした恋の味!甘酸っぱいったらありゃしない!ほらほら、口に入れた瞬間、勇者の剣が輝くような気分になれるって、みんな言うんだから!これホント!あの有名なあたしの娘とか息子とかがね!それを見破るとはあんた、ただ者じゃないねぇ。」


 驚いた私は思わず笑った。見るからに普通のリンゴを、まるで極上の果実のように褒め称え、勢い任せの宣伝を始めるおばちゃんの様子に、自然とこちらも笑顔になった。


「そうでしょう?果物選びの天才ってみんな言うわ!お母さんとかおばあちゃんとか!」


 リンゴを選んだ私を盛大に褒め称えるおばちゃんに乗せられ、思わず適当なことを言ってしまう私に、おばちゃんは一度大きく丸くした目を細めてうなずく。


「おやまあ、そりゃ凄いねぇ!これぞ選ばれしお方の嗅覚ってやつね!とは言えあたしもプロさ。もう一種類この中から最高のものを選んだらあたしからも天才の称号を与えようじゃないか!」


 広場のざわめきや視線を忘れ、朗らかな見た目のおばちゃんの快活な会話に恥ずかしさはどこへやら。よく考えればおかしなことなのだが、当たり前に日本語で会話が成立しているのである。

 水のせせらぎ、街の音、人々のざわめき。それらすべてが、ほのかに温かく包み込んでくれるようだった。

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