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学校に行ってみた

 天井一面を覆うガラス越しに、淡く揺れる光が床の石に反射する。

 石壁からは、先日見た水源の間からの音が小さく響いている。

 私は映画館を思わせる入り口から入り、階段状の座席に腰を下ろしていた。隣にはリオナがいる。

 学校生活が持つ青春という印象はなく、生徒の年齢層もばらばらで、娯楽のひとつのようだった。


 講壇に立つのは、皺深い顔に白髪を束ねた老講師――ラウルス・ヘゼニアヌス。

 王立学院でも最古参の歴史学者だと聞く。

 細身の背筋をぴんと伸ばし、チョークを手に黒板へ向かうその動作には、長年の誇りと信念が宿っていた。


「――さて、皆さん。」

 乾いた声が講堂に響く。

「本日の講義は異種の民について、です。」


 ざわめきがひとつ、後方で小さく弾ける。

 老講師はそれを無視して、黒板に大きく文字を書いた。

 白い粉が宙に舞う。私には当然読めなかった。


【イシュ】


 彼は無言でゆっくりとこちらを見回した。どの瞳も真剣に紡がれる言葉を待つ。

 ――そのどれもが、信じるために用意された眼だ。


「かつて世界には魔なる者と呼ばれる恐ろしい生物が存在しました。彼らは神の理に背き、人を喰らい、秩序を乱した。神はそれを憂い、勇気ある者たちに智慧と力を授けられた。――冒険者たち、すなわちハンターの誕生です。」


 チョークが黒板を滑る。

 音が、妙に鋭く響いた。

 リオナは何も言わず、膝の上で手を組んでいる。

 私は少し息苦しくなりながらも、講師の言葉を聞き続けた。


「ハンターたちは魔を討ち、神の秩序を取り戻した。だが、一部の者たちは魔の血に魅せられ、家族などと称して交わったのです。」

 老講師は、わざとらしく一拍置く。

 その瞳が細く光を帯びた。

「彼らは人の道を外れ、恩寵を失いました。こうして生まれたのが、人ならざる異種の民――イシュです。」


 講堂の空気がわずかに重くなる。

 天井のガラスを伝って、外の雲が流れる。

 その影が、老講師の顔をゆっくりと横切った。


「イシュの身体は強靭で、感覚は鋭く、だが心は不安定で暴力的。彼らの存在は神への冒涜であり、ゆえに神は願いの魔法を与えられた。それは、彼らが再びヒトに還るための試練だったのです。」


 ざらつく声が、教会の説教のように響く。

 黒板には白い線が増え、「神の試練」「贖罪」「秩序」――そんな単語が並んでいった。


「多くの異種は神の願いを誤って使いました。神の光を恐れて森へと退き、隠れ住むようになりました。彼らはやがて自らを、イシュ=人と呼びました。しかし――」

 チョークが黒板に強く叩きつけられた。

 乾いた音が響き、粉が舞った。

「己こそ人であると名乗ることこそ、最大の冒涜です。神に選ばれし我らヒトに対する挑戦なのです。」


 講堂の奥から、誰かが小さく拍手をした。

 それに続いて、数人が頷く。

 老講師は満足げに頷き、締めくくるように言った。


「王国の聖典にはこう記されています。異なる血は、試練であり、浄められるべきである――と。だからこそ我々は、神の光のもとで正しき道を歩み続けなければならない。これが、イシュの民の教訓です。」


 静まり返る講堂。

 小さく息を吐く音が聞こえ、リオナの方を見る。

 その横顔には、どこか沈んだ光が宿っていた。

 老講師を称える声湧き上がり、人々の熱狂が講堂を揺らしていた。

 私はぼんやりと、通じている日本語と見知らぬ文字について考えていた。

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