そうだ、学校に行こう
その日の夜、寝室でリオナと向き合う。
「お嬢様、今日はとてもご立派でした。」
リオナの声に、私はベッドに腰掛け肩をすくめた。
「だからさ、敬語やめよーよ。今は他に誰もいないんだし。」
「うん、わかってる。でも今日のお嬢様には敬意を払いたかったの。」
その真剣な眼差しに、思わず顔が赤くなる。
「やめてよ、照れるじゃん。そーいやさ、朝学校とか言ってなかったっけ?」
「ああ、昨日お迎えに上がった場所が学校……なんだけどその、お嬢様、泣いてたから……」
「え、あそこなの?!いやあれはさ、でっかい宝石から水がだーっと出てるのを見てさ。」
「なんだ、てっきり学校で何かあったのかと。……私も初めて見た時泣いたなあ……。」
リオナは小さく肩を揺らして笑う。私が泣いた理由に共感しようとしてくれていることが、ちょっと嬉しい。
ちょっとだけこそばゆくて、部屋を見渡す。差し込む月明かりが柔らかく、机の上のランタンが揺らす影が踊っていた。
床や机には小さなぬいぐるみやアクセサリーの箱がいくつか転がる。けれど本立ての本は汚れ一つなく、散らばる色鉛筆を除けばお勉強用の文房具はきっちり揃えて置かれており、使われた形跡が見られない。
「変なこと聞くよ?あのさ、私って勉強嫌いなの?」
我ながら鋭い観察眼である。というより、私の部屋の特徴とそっくりなのだ。調度品の高級感はさておき。
「ホント変な質問だね。自分のことでしょ。まあ、うん。薄々っていうか、むしろ確信してるんだけど、お嬢様じゃないよね。」
「まあ、リオナには何度もそう言ってたよね、私。」
「確かに……」
「気付いたら身体がお嬢様でさ。噴水のとこにいた。なんかごめんね、お嬢様を取っちゃって。」
「いえ……」
「そういえばね、パパさんにリルって呼ばれてびっくりしたよ。」
「うん。……続けて?」
リオナは露骨にどこに驚く要素があるのかわからないという顔をする。
「私、瑠璃って名前なの。ラピスラズリっていう宝石。」
「なるほど、似てる。確か、ミスリルからだって。」
「ミスリル!知ってる!なんか男子が言ってたし!」
「ねぇ、これからはルリお嬢様って呼んであげよっか?無礼打ちされる覚悟でさ。ルリお嬢様なら猫ちゃんみたいに仇はとってくれそうだし。」
「え、何それ怖っ。やめれ。そんなんに命掛けんなし。」
それから、お嬢様は勉強熱心ではなく、行かなくても特に罰則も留年も無いこともあって不登校気味だったことを教えてもらった。私は勉強は嫌いだけど、学校は好きだ。
「じゃあ明日は学校に行ってみようかな!」
「お嬢様、明日は休日でございます。」
「いや、察しろよ!一刀両断かよ!次の登校日と解釈してさりげなくなんかこう……できるでしょ!」
私たちは思わず笑い合った。
部屋には月明かりだけが優しく差し込み、ベッドの上の二人に和やかな時間が流れる。怒りも興奮も過ぎ去り、ほんの少しだけ日常の優しさに触れられた夜だった。




