2人の役人
エレガンが机の奥から声を上げた。
「さて。今回ドーラ殿に同行されたネロ殿とオクパトス殿です。この2人はリルもよく知っていますね。引き続きこの街を担当してくださいます。」
視線を向けると、笑い皺を浮かべた初老の紳士と、無口そうな背の高い男が立っていた。
ドーラに付き添って国から来たお偉いさんらしいが、お堅さや張り詰めたような印象は受けない。
――ああ、この身体は知っているんだ。
顔も名前の響きも懐かしい気がするけれど、私自身としては初めて。そんな奇妙な感覚。
(てゆーか危なかった、初めましてなんて言わなくてよかった。パパさんグッジョブ!)
胸の奥で苦笑しながら、私は落ち着いて立ち上がった。
「本日はお越しいただきありがとうございます。お二人とも……お変わりありませんか?」
その言葉に、初老の男は小さく笑った。
「おや、もうネロおじさんと呼んでもらえないのか。寂しいじゃない……こほん、立派になったじゃないの。」
ネロはまるで親戚のような調子でそう言い、うんうんと頷きつつも目の奥には仕事の光が宿っていた。
「さてさてさてと、法っていうのは理想だけじゃ動かないんだよ。特に、こういう前例のないやつはね。」
ネロは胸元の金の鎖を指で弾いた。
「『鳥獣憐みの令』、素晴らしい響きだ。だけど、お金の流れを作らないと国は興味を示さない。だから――罰則金を科すべきだと思う。」
「罰則金……ですか?」
「そうそう。動物を傷つけた野蛮人から徴収して、それを保護や管理の費用に充てるんだ。この街だけでお金が回ることを見せられれば、国だって乗り気になる。試しに僕から国に、金を出せって言って来てあげてもいいけどさ?」
軽妙な口ぶり。どこか冗談めいて聞こえるのに、否定しがたい説得力があった。
困ったような顔をして、エレガンが口をはさむ。
「ははは……お願いですからそれだけはやめてください。」
もう一人の男、オクパトスが走り書きしていた書類を静かに差し出した。
「財源と並行して、保護対象の管理体制も整える必要があります。報告書の作成、収支の記録、そして……保護施設の設置を。」
「保護施設?」
「はい。人の手から逃れた獣や、居場所を失った異種の子らを受け入れる場所です。孤児院のような形が妥当でしょう。」
私はぱっと顔を明るくした。
「それ、素敵です!動物も、人も、守れる場所に!」
ネロはゆるやかに頷いた。
「そうだねぇ。孤児院……い~い響きだ。寄付金を集めて、罰則金の一部を流す。王都の役人も、数字が動けばきっと喜ぶさ。」
その声にはまったく棘はなく、むしろ親切にさえ聞こえた。日本にいたころは、お金や将来の話ばかり言ってくる人は苦手だったのに。
腕を組んで短く笑うドーラ。
「悪くない。ここから先は、我らが形にしていく。」
「では、方向性は定まりましたね。正式な案文は明日、皆で詰めましょう。いやはや、挨拶だけのつもりでお越しいただいたというのに、とんだ手土産ができてしまいました。」
苦笑しながら、手元の書類に目を落とすエレガン。
「手土産とはまた、言いえて妙だね。」
にこにこと笑みを深くして受け取るネロ。
「素晴らしいお品をいただき、大変恐縮しております。ご厚意は大変ありがたいのですが、今後はこのようなお気遣いはされませんよう、お願い申し上げます。」
天を仰ぎ、顔を覆った手の下から抑揚なく拒絶の文を吐き出すオクパトス。
私は深く息を吸った。胸の奥が熱い。
さっきまでの怒りが、今は何かもっと大きなものに変わっている。
――きっと、これが動き出すんだ。
世界が、ほんの少しでも優しくなる第一歩として。




